御茶の魔女
@fuwa_rate
第一話 猫
背後からおずおずと出てきた黒色の太った猫を、先生はあなたの使い魔だよ、と言った。
15歳になって自分の使い魔を持ち、これからもこの小さな街で先生と、幼馴染と街の人々と一緒に助け合って過ごしていく。
それが、私にある人生のすべてなのだと分かっている。
でもそんなのつまらない。そう思うのは15歳という歳のせいか、はたまた新しい花との出会いと別れに未来への不安と希望を感じさせるこの季節のせいか。
私は15歳の誕生日の次の日の早朝、まだ星の見えるくらいの頃に使い魔を連れ一つの鞄を持って街を出た。
暖かくなり始めたとはいえ朝の空気は冷たく目に染みる。澄んだ空気を朝焼けの光が貫いて思わず下を向くと、広大な湖が光を反射し、鏡のように空を映していた。それを見てどんなに世界は美しく大きく、そんな世界に1人で挑んだことを誇りに思っただろう。
1人で昂る私を森は悠然と沈黙し、見ていた。
しばらく飛んで日も上り、お腹も空いてきたので森の川辺に着陸した。
猫も起きてきたようだ。しきりににゃーにゃー鳴いてご飯を求めてくる。街から出る時に持ってきたパンとチーズを切ってつまみながら湯を沸かす。茶葉を入れ少し蒸らしてカップに注ぎ、少しずつ飲んだ。猫にはパンを食べさせればいいと思っていたが、肉食動物だからか食べてくれない。仕方なく川を爆破させて獲った魚を二匹ほどやると、旺盛な食欲で数秒で平らげてしまった。こちらに寄ってきたので頭を撫でてやると目を瞑って気持ちよさそうに寝転んだ。
「お前もお腹空いてたのか」
にゃーと返事をした。
そういえば名前をつけてないことに気がつき少し考えてみた。
「ティーとかどうかな」
睨まれたような気がした。
「お茶とか」
そっぽをむいてしまった。なにがダメなんだろう。
「んじゃ、まるだな太ってるし」
と言って微笑むと手袋を引っ掻かれた。
まるがどうでも私はまるという名前が気に入ったので私の使い魔の名前はまるだということにする。それにしてもなぜまるはあんなに嫌そうな顔をしたんだろう。それは今でもわからない。
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