再建への道
「この異世界村ですが……まずはアピールポイントを増やさなければなりません」
「アピールポイント?」
景の言葉に天が首をかしげる。
「例えば……『日光異世界村では異世界を追体験出来る!』とか……」
「この街並みを見てよ、異世界に入り込んだような気分にならない?」
天が建物を指差す。
「中世ヨーロッパ風の街並みをただ歩くだけでは十分とは言えません……」
景が首を左右に振る。
「む…」
「今の時代、もう一段階進んだ体験機会を提供しなくては……」
「もう一段階進んだ?」
「ええ」
「どういうものよ?」
「……ダンジョンです」
「ダンジョン?」
「ええ、お客様が思わず探索・踏破したくなるようなダンジョンを用意するのです」
「用意すると言われてもねえ……」
天が腕を組む。
「とりあえずは無駄に設置してある巨大迷路をそれっぽくしましょう」
「あ、ああ、テーマパークには付き物だからって、業者に言われて設置したやつね……」
天が苦笑する。
「モンスターなども配置しましょう」
「モ、モンスター!?」
「はい」
驚く天を見て、景は当然のことだろうとばかりに頷く。
「モンスターって……」
「まあベタなところで言えば、スライムですよね」
「ス、スライムと言われても……」
「とりあえずこんにゃくで代用しましょう」
「こんにゃくで代用!?」
「それっぽい肌触りですから」
「それっぽい肌触り!? それで良いの?」
「感触というのは馬鹿には出来ません」
「ええ……」
「スライムだけじゃ流石に寂しいですね……」
「え?」
「そうですね、オークも追加しましょう」
「オ、オークも追加!?」
「はい、そうです」
「オークは代用出来ないんじゃ……」
「……沖縄料理で豚の頭の丸焼きがあるでしょう」
「あ、ああ、そういえばあるかしらね」
「豚の頭をありったけ仕入れます」
「豚の頭をありったけ仕入れる!?」
「それらを近隣の大学の相撲部やレスリング部の人たちに片っ端から被せます」
「片っ端から被せる!?」
「これでオークの出来上がりです」
「え、ええ……」
「ああ、もちろんアルバイト代は支払います」
「い、いや、それは別に良いとして……」
「……ダンジョン踏破の報酬も用意しないといけませんね……」
「報酬?」
「お宝と言った方が良いでしょうか」
「お、お宝なんて、用意出来ないわよ」
「う~ん、商品券で良いんじゃないですかね」
「商品券!?」
「貰って嫌なものではありませんし」
「ま、まあ……」
「それでは、その線で進めますので……!」
「あ! ちょ、ちょっと……行っちゃったわ、大丈夫かしら?」
天は今頃になって不安になってきた。その後……。
「今日は今話題のテーマパーク、日光異世界村に来ております! なんといっても話題なのは、ダンジョンを体験出来るということです。多くのお客様がパーティーを結成して、ダンジョンに挑んでおります!」
「は、繁盛している……」
天が信じられないといった様子で周囲を見渡す。
「日光異世界村のポテンシャルはこんなものではありません……ボクはこの場所を日本一、いや、世界一のテーマパークにしてみせます!」
景が力強く宣言する。日光異世界村の再建は始まったばかりである。
日光異世界村 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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