“何でもない”から始まる異世界英譚
@DXzirou
エピローグ
第1話 英雄の道も一歩から
ここではない何処かの公園のベンチに座る二人。昼の光が芝生を照らし、遠くで子どもたちが遊ぶ声が響いている。
少年が声をひそめて言った。
「なあ、知ってるか?」
少女は少しからかうようにいう
「知らないよ」
「…その返しやめてくれる?正論だけど、調子狂うから」
「ふふっ」
少年は肩をすくめ、目を輝かせる。
「まあいいや。ほら、前に歴史の授業でやった英雄の話だよ」
「知ってるよ。800年前、世界を崩壊から救ったっていう英雄たちでしょ」
「そうそう、その中にさ、“斧貫の英雄”っていたじゃん。
実はあの人、最初は俺たちみたいな凡人だったらしいぜ」
「ふーん」
少年はちょっと身を乗り出して、にやりと笑う。
「でさ、俺思ったんだよ!もしかして俺も英雄になれるんじゃないかって!」
少女は笑いをこらえつつ首をかしげる。
「フッ」
「おい笑うなよ!結構真剣なんだけど…」
「ごめんごめん。いきなり変なこと言うからつい。
でも、アンタならなれるんじゃない?応援するよ!」
少年は少し照れたように笑った。
「よし、なら本当に頑張ってみるか!」
昼の光の中で、二人の影が芝生に長く伸びていた。
誰もが知る英雄の話が、今この瞬間、
少しだけ現実に近づいているように思えた――。
平和な日常。
飽きるくらいに平和だ。
だが、その平和は、非日常より勝ち取った平和
かつて颯真が生きた道も、今となってはただの物語。
今となっては昔の話――
ーーーー
いつからだろう。
自分の人生を、自分で選んでいる気がしなくなったのは。
……いや、違うな。
選べなかったんじゃない。
選ばなくて済む道ばかりを、わざわざ踏んで歩いてきただけだ。
失敗しなければ、傷つかない。
目立たなければ、叩かれない。
期待されなければ、裏切らなくて済む。
そうやって気づけば、
俺の足元には“レール”みたいなものが敷かれていた。
敷かれているなら、乗ればいい。
外れなければ、転ばない。
転ばなければ、痛くない。
……合理的だゼ。
情けないくらいに。
⸻
目覚ましの音で、瓜原颯真(かわはらそうま)は目を開けた。
今日も同じ白い天井。
今日も同じ朝。
(……なんか、起きないかな)
小説みたいな異世界転生。
漫画みたいな覚醒イベント。
そんなもの、現実にあるわけない。
わかってる。
わかってるけど――
(もし、あったらいいのに)
そう思ってしまう自分が、少し嫌だった。
⸻
通学路を歩きながら、頭の中は相変わらずだ。
(角を曲がったら、運命の出会いとか……)
曲がる。
何もない。
もう一つ曲がる。
やっぱり、何もない。
当たり前だ。
世界は今日も、俺に対して沈黙を貫いている。
⸻
教室は騒がしい。
笑い声、椅子の音、楽しそうな会話。
全部、同じ空間にあるのに、
自分だけ少しだけズレた場所にいる気がする。
友達は……いないわけじゃない。
でも「いる」と胸を張って言えるほどでもない。
(……狭いな)
教室が、じゃない。
多分、自分自身が。
⸻
「なあ、昨日のイベントやった?」
ゲーム仲間の大樹が話しかけてくる。
ボスが強かっただの、調整がクソだの。
そんな話の途中で、ふと思い出したみたいに彼が言った。
「そういや、あの地震、なんだったんだろうな」
世界中で同時に起きた、原因不明の地震。
ネットじゃ変な噂も流れてる。
変な生物を見たとかなんとか
(どうせ、デマだろ)
そう言い切りたくなる。
非日常の話をされると、なぜか否定したくなる。
逆張りというんだろうか
フッ……自分は、
その非日常を誰よりも欲しがってるくせに。
⸻
帰り道、河川敷で空を見上げた。
ここで黄昏るのが好きだ
土手の斜面を撫でる風、
下で野球をする子供、対岸に見える二つの大きなマンション。
いつもと変わらない風景だ
ふと、なんだか嫌な風が吹く
空に何かある?
夕焼けの中に、
黒い鳥みたいな影が見えた。
まるで”ドラゴン”みたいな
突然すぎて固まる
世界で起きてる異変、変な生物の目撃談
……一瞬だけ、心臓が跳ねる。
(……いや、違う飛行機だろどうせ)
どうせ見間違いだ。
現実を見ろ、現実を。
それでも胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
⸻
夜。
ベッドの上で天井を見つめる。
今日も、何も起きなかった。
奇跡も、転機も、覚醒もない。
当然だ。
努力もしてない。
何かを掴みにいったわけでもない。
それでも――
(……もし)
名前もないモブみたいな自分にも、
物語が始まる日が来るんじゃないか。
そんな期待を、捨てきれずにいる。
やがてまぶたが落ち、意識は静かに闇へと沈んでいった。
⸻その夜。
『バチン!』
颯真はまだ知らなかった。
この眠りが誘うのは夢ではなく、英雄へと至る道だということを。
これは、
何者でもなかった少年が、
英雄への道を歩き始めてしまった――その最初の夜だった。
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