タブラあるいはダラブッカ
あまるん
リズムと君が同期する
心臓の音が早くなるのに合わせて太鼓、つまりタブラあるいはダラブッカ、リズムを叩く手が早くなる。
走るな、と一緒にタブラを叩く師匠が目を向ける。僕は椅子に座り、つま先でリズムを合わせて、それでも僕の手は打面に不規則に触れてしまう。ダンサーである彼女は必ず合わせて踊ってくれる。
できることなら星が落ちる時の高い金属音を出したい、彼女が小刻みに体を揺らせるように。
絨毯一枚の上に君は膝を広げてしゃがみ大きく腕を広げてゆっくりと体を絨毯の上にそらせていく。
長い髪が絨毯の上を広がる。豊満な柔らかい肉体が弾けるような肌を震わす。
ダンサーの動きに合わせてリズムを刻むのがタブラの悦びだ。僕の手で彼女が踊るのか、彼女の踊りが僕を揺さぶるのか。僕らは男女という枠も肉体という枠も飛び越えて一つの音楽になる。
赤い絨毯に褐色の肌が生える。長い手が伸び切った指が音楽に合わせて揺れて、ゆっくりと上半身が起きる。
始めたばかりの時、リズム感というものを知らないと告げた僕に彼女は私から目を離さないで、と冷たく告げた。僕は彼女を見る時、音も声も全て飲み込み、呼吸をただ合わす。
彼女が荒い息を押し殺すと僕の薄い髭が呼吸で震えるのは同じタイミングだ。
師匠がメインの太鼓を叩く。奥から何人もの男たち、つまり楽団が君を囲むように現れて、同時に音が花のようにダンサーを飾り立てる。
僕はお払い箱になり、舞台の前の席に座るお客さんたちに腹に抱えた太鼓を叩かせながら歩く。
スターダンサーとなった彼女は音を贅沢に選び、最も美しい音楽に合わせて星座が巡るように堂々と廻る。その音もダンスも1秒前は存在しなかった。いわゆる即興だ。アラブのリズム、掛け合いの呼吸、ぼくにもできるかな、いつか即興でこの太鼓一つで彼女を満足させることが。
ジャスミンの花が飾り立てられた宮殿の一室で星々の光が彼女を包む。僕のタブラ、体の一部のような太鼓はその髪に触れる香りさえも表現する。
音であれば瞬く長いまつ毛に触れることも、ふくらはぎの震えに合わせることも、あの心に響くこともできるのに。僕の叩いた音はまた師匠に阻まれる。絶対的なリズム、彼女を支配し、そして支配される音。
音が終わり、お客さんが帰り、彼女がただの一人の人間に戻る。僕は太鼓を抱える。
夢に見た彼女はまたどこかに去ってしまう。ダンサーであった女性に丁寧に挨拶すると僕達楽団は太鼓を抱え、また美しい夜と彼女を探すために旅立つ。
了
タブラあるいはダラブッカ あまるん @Amarain
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