第46幕・少年の覚悟

「マワリさん…!」


ヨシヒコは目を輝かせながら、その場に現れたマワリの姿を見つめていた。


「…ん?ヨシヒコ少年…!?」

マワリはヨシヒコの存在を察知すると、少し驚いたような表情を浮かべた。


「ヒャァァァッハハハァ!お巡りサンが何の用ですかァ〜!?」

「テメェら警察がモンスター相手にしくじったのは知ってんだぞ…失敗した奴が今更正義ヅラすんじゃねえッ!失せろ、能無しポリスメンが!!!」


モヒカン男は嘲笑し、暴漢は激しい剣幕と共に怒鳴り散らしている。


「…能無しポリスメン、か…。」

マワリは帽子の鍔を右手で摘みながら、静かに暴漢の罵声を復唱する。


「…確かに、我々は失敗した。だが、犯した失敗のツケは払う――成果を以て取り戻すのが、警察として…正義を背負って立つ者としての務めだ。」

続けて、マワリはそう呟いた。


「ヘッ!このぶっ壊れた村に、今更何を取り戻すんだか…口だけは達者な野郎だナァ〜?」

「その良く回る口から、二度と言葉を発せないようにしてやんぞ!口だけ税金泥棒がァ!!!」


モヒカン男の挑発と、暴漢の脅迫を前にしても、マワリは表情一つ変えずに口を開く。



「魔王軍対策本部はな、失敗を取り戻そうと躍起になっているんだ…勿論、俺も含めてな。」


マワリは帽子の鍔を押し下げながら、一呼吸置いて話を続ける。


「…この村の周辺に、モンスターの小隊が確認された。恐らく襲撃隊の残党…この村の中にも、まだモンスターが潜んでいる可能性がある…。」


暴漢達は、マワリの言葉を前に眉を顰め、目を細めている。


「――お前等、人間か?」

マワリは、そんな暴漢達に蔑むような眼差しを向け、冷淡に呟いた。



「…あ?」

目を丸くする暴漢。


「ヒャッ、人間とモンスターの区別も付かねえのかァ〜?こりゃ村を守れなかったのも納得だなァ〜!」

嘲笑するモヒカン男。


2名に向かって、マワリは歩み寄っていく。


奴等・・の中には高度な擬態魔法を用いる者も居る。人間に化けていたとしても…いや、違うな。俺が言いたいのは、もっと単純な事だ――」


…そして、暴漢の目の前で立ち止まった。



「――理性も倫理観も失った人間と、モンスターの間に…どのような差があると言うんだ?」


マワリは血走った瞳で、暴漢達を睨み付けながら言い放った。


…暴漢の表情が歪んでいく。

「テメェ…黙って言わせておけば…!人をバケモン呼ばわりしやがって…冗談で済むと思うなよッ!!!」


暴漢は眼前に立つマワリ目掛けて、右腕を振りかざした。


拳が空を切り、マワリの顔面との距離を狭めていく――


「――安心しろ。」


マワリは、迫り来る暴漢の右手首を掴んだ。


「なっ…!?」

「…冗談を言っているつもりは無い。お前達の行いは…化け物も同然だと言っているのだ…!」


続けてマワリは、暴漢の右手首を捻る。

腕の皮が捻れると共に、暴漢の顔は苦悶に染まっていく。


「ァいででででで!痛えッ…!!! 離せっ、離せこの野ポォゥッ!?」


マワリは間髪入れず、暴漢の顎を蹴り上げた。


暴漢は短く悲鳴を上げながら、空に向かって白目を剥く。


マワリが暴漢の右手首から手を離すと、暴漢の身体は後方へと傾き…ドサリと音を立てて倒れた。


「…離してやったぞ。」


気を失い、白目を剥いたままの暴漢を、マワリは見下ろす。


「あっ…兄貴ッ…!?」

モヒカン男は、倒れた暴漢の元に駆け寄った。


「…心配するな、殺してはいない。だが――」

マワリは、モヒカン男に視線を移す。


「ひ…ヒイッ…!!!」

捕食者を前にした草食動物のように、モヒカン男は萎縮しきっている。


「――お前等が再び他者に害をなすならば…容赦はしない。

…失せろ。ソイツを連れて、今すぐにな…!」

マワリは、モヒカン男を鋭く睨みつけた。


「ひゃッ…ひゃあいッ!」

モヒカン男は、裏返った声で返事をした。


火事場の馬鹿力とでも言うべきか、モヒカン男は暴漢の肩を掴むなり、氷の上を滑らせるかのようにその巨体を引き摺っていく。


間も無く2人の男は、街道の暗闇に吸い込まれるようにして消えていった。





「あっ…あの、ありがとうございます…お陰様で助かりました…!」

女性は顔を上げ、恐怖への余韻を帯びた震え声で、マワリに感謝を述べた。


「気にするな。だが、今後は日没後に街を出歩くんじゃないぞ。…この村に、以前のような秩序は無いと思っておけ。」

先程よりも柔らかい表情を浮かべ、マワリは答えた。


「…自宅の近くまで同行しよう。さっきのような輩がまた現れたとしても不思議ではない。それと――」

マワリは、倒れたヨシヒコの元へと歩み寄る。


「――ヨシヒコ少年、君も同行しろ。」

ヨシヒコに手を伸ばしながら、マワリは言う。


「マワリさん、僕…何も出来なくて…」

ヨシヒコはバツが悪そうな様子で呟く。


「怪我の手当てが必要だろ?…よく、頑張ったな。」

マワリは手を伸ばしたまま、ヨシヒコに向けて微笑んだ。


「はっ…はい!」

ヨシヒコは、マワリの手を取り立ち上がった。



To Be Continued

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