第22幕・鋼鉄

まだ朝日も出ない早朝、僕達は村の境界へと歩みを進める。


「はあ…目立ちますね…コレ…。」

無駄にデカい勇者の剣を抱えながら、僕は呟いた。


「でも、乾燥させたお陰で小さくなりましたよ!大体2m位ですね!」

「…十分デカいですよ…。」

「しかし随分と軽そうだな。乾燥させたお陰だろうか…。」

「…なんかもう武器の時点で不安ですよ…。」


…武器への不安感を語っている内に、地図の場所に辿り着いた。

「ここ…で合ってますかね…?」


「来たか。勇者一行。」

聞き覚えのある声が前方から響く。


「あっ、マワリ警部!」

「おっと、ここでは監督官と呼んでくれ。

…改めて、早朝からご苦労。だが、我々の役割はまだこれからだ。

ここ以外にも諸君のような戦士や魔導士など、戦を生業とする者たちが張り込んでいる。

君たちも、襲撃への備えは済んでいるな?」


「「「はいっ!」」」

「よし。では、ここからは厳戒態勢だ。」


…防災無線が戒厳令の発令を告げた。

古びたスピーカーのノイズがこだまする。


・ ・ ・


戒厳令の発令から2時間が経過した頃…。


『マワリ監督官、村周辺に敵影が!モンスターの軍勢と見られます!』


観測塔からの声に、僕たちは緊張を露わにする。


「…数はどの程度だ?」


『…そ…それが…。

…2万…3万…いえ、それ以上です!』


 ――観測塔から報告の内容は、異常そのものだった。…聞き間違いか?僕はそう思った。


…しかしそのような疑念は、直後に巻き起こったどよめきによって否定される。


「3万…!? …30、せめて300の間違いではないのか…!?」

「こんな田舎にそんな兵力…」

「聞き間違い…だよな…?」


「まさか…。この村の兵力を軽く超えるぞ…?」

傭兵達の戸惑いに乗じて、リカブさんが呟く。


「落ち着け諸君!冷静に対処に…」


マワリ監督官の言葉を遮るように、地響きが起こる。それとほぼ同時に、背後から爆発音が鳴り響いた。


居合わせた者達は、揃って音のする方を向く。


「え……。あの方角って…。」

「メガバイト村の…中央……!」


傭兵の一人が声を荒げる。

「うわぁぁぁあ!!!もうお終いだぁあぁあ!!!

この村も王都のように瓦礫と死体の山になっちまうんだぁぁぁあ!!!」

「―黙れッッ!!!」


マワリ監督官の一喝で、傭兵たちは静まり返った。

「この村は滅び…我々は皆殺しにされる…。

…それは、諸君が尻尾を巻いて逃げた時の話ではないかッ!!!」



「……そうだ、戦いはまだ…始まってすらねえんだ…!」

傭兵の1人が声を上げた。

それを皮切りに、他の者達も両腕を振り上げて叫び始める。


「…俺はぁぁぁ!一仕事終えて家に帰るぞぉぉぉ!」

「俺も…来週は妻との結婚記念日なんだ…!ぜってぇ生きて帰ってやる!!!」

「僕っ…まだ今期のアニメ見終えてないんです…!」


…傭兵達が、徐々に士気を取り戻していく。


「…一般人の避難誘導を行う…!30名程、今すぐ村の中央へ向かえッ!」


マワリ監督官は、すかさず指示を出した。


「…私はここに残る!ヨシヒコ君!村の人々は任せた!そして9万!ヨシヒコ君を頼む!」

「はいっ!」

「了解ですっ!」


こうして、僕たちは村の中央へ走り出した。



・ ・ ・



「行ったか…。」

走るヨシヒコ君と、9万の背を見届け、私は呟いた。


私は村の外に向けて大剣と盾を構える。

背後からは悲鳴と爆発音が鳴り響く。

(それにしても妙だ…。こんな小さな村にこの膨大な戦力…。いくら何でも過剰ではないか…?

…一体何故、魔王軍はこの村を襲った?何か他に狙いがあるのか…?)


『敵兵力より、一体の飛翔体を確認!こちらに接近してきます!』

(…考えても仕方が無い…!

今は目の前の事に集中しなくては…!)


「さあ、来るなら来い!平和を脅かす邪悪どもよ!」


リカブが声高に叫んだその瞬間、前線に空を切る音が広がった。


「…おい…何処のどいつだァ…?俺の事を…"平和を脅かす邪悪"呼ばわりしてんのは…。」

続いて聞こえたのは不気味な声だ。

我々の前に立っていたのは、金属の面に不気味な笑顔を浮かべたモンスターだった。


背後では無数とも思える軍勢がこちらに

歩みを進めている。


「総員!戦闘準備だッ!」

監督官が声を上げ、戦士たちはモンスターの軍勢に武器を向け、走り出した。


「「「うおおおぉぉおぉおおぉお!!!」」」

戦士達の号声が響く。


「…"取り巻き"は任せたぞ、部下ども。」


仮面のモンスターの一声で、モンスターの軍勢もこちらへと駆け出した。


「なあ、そこのお前。」

「……!?」

「俺の事を呼んだお前だよ。」

仮面のモンスターが私の元へと歩み寄る。


「お前は…勇者一行の戦士…確か"リカブ・イン"だな…?」

「何故、知っている…。」

「そりゃあ…見てたからさ。」

そう語るモンスターの顔には、より不気味な笑顔が浮かんでいた。


「俺は"鋼鉄の魔人"、ウェルダー。

魔王様の意向で人類を根絶やしにする…予定だが、この村に来たのはその"ついで"だ。」

「ついで……だと…?

人々や村を傷付けておいて…ついでなどと…」

私は怒りを露わにし、ウェルダーと名乗るモンスターを睨みつける。


「俺はお前を殺すつもりだったが…王都の件で考えが変わってな。…出てこい。相棒1号。」


その瞬間、道路のタイルを掻き分け、地面からモンスターが姿を現した。

顔色は悪く、疲れ果てた中年のような姿をしている。


「コイツは王都で出会った"相棒"さ。元々は人間だったが…コレの力で"あるべき姿"に変えてやったのさ…。」


ウェルダーは掌の上に"紫がかった真珠"を乗せながら、話した。

(アレは……まさか"魔力の種子"…!?)


「…さて相棒1号…。お前の妻と子を殺したのは誰だ?」

「それはウェルダー…貴方様です…。

…しかし妻と子供の死は、私にとってあるべき"生"を知るきっかけとなった…!私は…貴方様には感謝してもしきれませんとも!」

中年のモンスターはウェルダーに向かって跪く。


(妻子の死…あるべき姿…まさかあの中年…人間だったのか…!?)


私は再びウェルダーを睨みつける。


「…人々の生活を脅かすのに飽き足らず…。罪無き人々を力によって縛り付けるとは…。

…ウェルダーと言ったか…!お前は私の手で殺す…!覚悟しろッ!!!」


「そうか…お前が俺の考えに理解を示してくれれば早かったんだがな…。」



「…なら、その無駄な抵抗を見届けてやるよ。」



To Be Continued

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