第19幕・LIVE

「すみませーん!浴室で"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"してたら浴槽が蒸発してしまって…」

「何ぃ!?"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"だと!?何故私も混ぜてくれなかったんだ!」

「何なんですか"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"って!何がどうスペシャルで氷山でサウナなんですか!」


…ともかく、テレビを付けるなり映ったのは緊急速報だ。


画面右上のテロップには"王都陥落"の文字。


「9万、"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"はいいからテレビを見るんだ。」


「…王都……陥落……?」


『…国王夫妻は既に海外に亡命され、襲撃隊との応戦に当たった王国騎士団は壊滅状態であると、先程警視庁からの発表がありました。』


「国王が亡命だと…!?状況は…想像以上に深刻だな…。」

リカブさんは重い表情を浮かべ、呟いた。


・ ・ ・


「…やはり、どのチャンネルもこの話題で持ち切りですね…。」

「残された時間は短い、という事か…。」

そう言いつつ、リカブさんはチャンネルを切り替える。


『…魔術学会の声明によりますと、デキ市内で死亡したモンスターの体内から新型の"魔導兵器"と見られる物が確認されたとの事です。』

「……!」

9万職員さんとリカブさんが前のめりになってニュース画面を凝視する。


「…?何ですか?その…"魔導兵器"と言うのは?」

リカブさんはテレビから僕の方に視線を逸らし、話し始めた。


「魔導兵器は…そうだな…。"魔法を原動力とした道具や兵器"の事だ。」


「そんな物が…。まさにファンタジーですね…。」


感銘を受ける僕の横で9万職員さんが話す。

「この家の給湯器も魔導兵器ですよね。」

「へぇ……この家の給湯器!?」


「よく気付いたな9万。この給湯器はコードレスな上、10秒で水を沸騰させる事の出来る"魔導給湯器"だ。電気代もかからないからお得だぞ。」

「凄いハイスペック…。僕の世界にも欲しかったなぁ…。」


この世界の技術力から夢を広げつつ、給湯器で淹れたばかりの紅茶を口にする。

「…コレって、かなりの高級家電ですよね?リカブさん、案外お金持ちなんですね。」

9万職員さんが紅茶を啜りながら言った。

「まあ、訳あって金には困っていないからな。」

「…? …訳あって…?」

「そんな事よりテレビだ。学会の専門家が話し出すぞ。」


『…魔導兵器がモンスターの体内から発見され事から、これらは魔王軍によって開発された物と見られ――』


「魔術学会って、そのまんま魔術の学会って解釈で良いんですか?名前だけは耳に覚えがあるんですが…。」

「まあな…だが、魔術の事に関しては9万の方が詳しいからな…。」

そう呟きつつ、リカブさんは9万職員さんの方をチラリと見た。


「…えっ?私が解説する流れですか?」

「頼む」

「お願いします」

「良い機会だ、教えてくれ」


「魔術学会というのは、"魔術を研究する魔導士や研究者の集まり"でして…

神に準ずる存在とされる"賢者"の子孫によって創設された団体とされております。」


「"神に準ずる存在"ですか…そんな物が…。」

「"賢者"の話は子供の頃童話で耳にしたな…」

「俺は無神論者だし、"賢者"も存在したとは思えないけどな。」


「「………?」」

唐突に背後から聞き覚えの無い声が流れた。

怪訝そうな様子のリカブさんと共に振り返る。


「……えっ…?誰ですか…?」

そこに居たのは、知らない男。


「不審者だァーーーッ!!!」

「待て待て待て!怪しい者ではないんだ!」

不審者(?)はロケット砲を構え出したリカブさんを慌てて静止する。


「勝手に人の家に侵入して…怪しくない訳があるかァーーーッ!!!」

「ぐうっ…ぐうの音も出ない程の正論だ…!」

…今ぐうの音出てたよね?


「…この人、リカブさんのお知り合いでは無かったのですね…。ずっと前から居たんでてっきり…。」

「何だと9万!?何時から居たんだ!?」

リカブさんは焦った様子で振り返る。


「…そこの娘が"スペシャライズド氷山サウナ金魚すくい"をし始めたタイミングには既に来ていたさ…。鍵も開いていたからな…。」

不審者(?)がそう言うと、リカブさんはますます焦った様子を見せた。


「鍵がかかっていなかったのか!?最後に家に入ってきたのは誰なんだ!」

リビング中の視点が一点に注がれる。


「…私だ。くっ…戦士失格だ…。甘えた防犯意識で、不審者の侵入を許してしまうなど…。」

「まあまあ…元気出して下さいリカブさん!僕も鍵の閉め忘れ位しますから…」

「何ぃ!?ならんぞヨシヒコ君!不用心が過ぎるぞ!」

「やっぱ元気出さないでいいです…。」


「…で、続けていいか?」

不審者(?)が呆れた様子で言った。


「あっ、はい。」

「俺は"サンダ・オ・マワリ"だ。魔王軍対策本部にて警部をしている。」

僕達が不審者だと思っていた渋い男性は、

警察手帳らしきものを取り出した。


・ ・ ・


『我々魔術学会は、発見された魔導兵器を"魔力の種子"と名付けました――』


「…先程は失礼した、マワリ警部。まさか警部だとはつゆ知らず…」

バツが悪そうにリカブさんが警部に話しかける。

「まあ、家に知らない奴が上がり込んでたら、割と正しい反応だろうさ。それと、この前は部下が世話になったな。」

「とんでもない!アレは我々の起こした事故で…"世話になった"などと感謝されるような事では…」

「事故…ゴールド免許……ヴッ…」

倒れ込む9万職員さんを他所に、2人の会話と学会の中継は進行して行く。


『"魔力の種子"は、紫がかった真珠のような見た目が特徴で、体内に埋め込む事により、"圧倒的な力"と引き換えに"魔王への忠誠"に縛られる…という物であると現段階では結論付けられています。』


学会の研究者が話し終え、インタビュアーへ発言権が移る。


『魔王軍のモンスター達はこの魔導兵器によって圧倒的な力を振るっていた…という認識でよろしいでしょうか…?王都が陥落に至ったのも…?』

『ええ。魔力の種子が影響していると見ていいでしょう。それにしても、これは最早"魔導兵器"と呼ぶよりも…

…"呪い"と呼ぶ方が相応しいでしょうね…。』


・ ・ ・


「圧倒的な力と引き換えに得る呪い…そんな童話がありましたねぇ…。」

「9万職員さん?いつの間に起きて…」

「さて、雑談なら後にして貰おうか。俺がここに来た理由は、"この事"を伝える為だ。

 ――勇者一行、もう時間が無い。

先程、魔術学会から警視庁に"王都からモンスターが撤退した"との発表があった。中継で発表したような調査を行えたのもその為だが…。」


…僕は、息を呑んだ。テレビ中継の内容と照らし合わせれば、マワリ警部の言おうとしている事に察しが付いてしまったからだ。


「魔王軍は既に王都を破壊し尽くし、他の都市へと襲撃を行う手立てを立てている事だろう…。

例の文書はもう不要だ。直接答えを聞きに来た。」


「勿論、やります。」


「…素早い決断、感謝するぞ、ヨシヒコ少年。その答えが聞けて良かった。」

警部は背を向け、玄関へと歩き出した。


「恐らく奴らの目的は人類の殲滅だ。いずれこの村にもやって来るだろう。

明日の午前4時、戒厳令が発される。そのタイミングから、君らには村周辺の警備を頼む。

…これが集合場所だ。頼んだぞ。」


警部は一枚の地図をヒラリと投げ、去っていった。


To Be Continued

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