第4幕・迷い込んだ世界

【通谷 昴の!前回のあらすじコーナー!】

「…普通に前回読めばいいんでねえの?」


(完)


・ ・ ・


「…コレで全ての材料が揃うわ。」

班長はそう言うと、胸元に抱えた鞄からリチウムイオンバッテリーを取り出した。


バッテリーは今にも爆発しそうな程に膨れ上がっており、何かが焦げるような臭いを漂わせている。


「や…ヤバくないですか…?今にも発火しそうな膨張具合ですけど…。」

僕はバッテリーの有様を見て、つい困惑の言葉を口にした。

「ホント…どんだけ使い込んだらこうなるんすか…。」

通谷先輩も同じような反応だ。


「…コレは私のお父さんが使ってたの。好奇心の強い人で…しょっちゅう旅とかに出てたから…。」

班長は、手元のバッテリーを見つめながら話した。

「へぇ〜、親子仲とか良い方なんすか?」

通谷先輩が話に食いつく。

「…全然。あの人、家に居る時間はほとんど無くて…直接話すことも滅多に無かったもの。だけど……」

「だけど…?」

通谷先輩は話の続きを伺うように呟く。


「…バッテリーの件で…話すきっかけが出来て…ちょっとだけ嬉しかった…かも…。」

班長は少しだけ顔を紅潮させて言った。


「いや〜、親子仲が良さそうで何よりっすね〜!こんな嬉しそうな顔してる班長、初めて見たっすよ〜!」

そうノリノリで話す通谷先輩は、完全にニヤけ切っている。

…正直こっちの方が嬉しそうにしている。


「う…ウルさい!嬉しかったって言ってもちょっとだけよ…!ちょっと…」

(この2人も…何だかんだ言って仲良さそうだな…。)

僕はそう思いつつ、班長が手に握っているバッテリーに目線を送り、呟いた。

「…それで、あとはそのバッテリーを入れれば…。」

「ええ、実験開始の準備は済む――」


その時――


――何かが弾けるような…明らかに危険そうな音が響いた。


…目線の先にあったバッテリーから…小さな火が上がっている…!


「うわっ!班長!バッテリーから火が!!!」

焦りのあまり僕はそう叫んだ!


「俺、消火器持ってくるっす!」

「…実験の工程では"全ての材料を加えた上で着火"と書いてあるわ。」

通谷先輩が部屋から飛び出すのを尻目に、班長は静かに呟いた。


僕の中で、班長の考えに予想がついた。

「は…班長…まさか…!」

「ええ…。…このまま放り込むわよぉ!」

「テロップゥゥゥゥゥ!!!」


【※良い子は真似しないでね】


ガシャリと音を立てて、バッテリーがボウルの中に落ちた。


………


………………。


バッテリーの火が、少しずつ大きくなり、メラメラと揺らいでいる。


「あれ…何も起きない…?」

火のように気持ちが揺らぎ、僕は不安からか、思わずそう呟いた。


「…このまま放置してたら火事になってしまう…残念だけど、通谷が戻ってきたら――」



さっき聞いた、何かが弾けるような音が再び響く。

「消火を――」

班長が落胆を露わにしたその瞬間だった。


耳を貫くような甲高い音と共に、激しい光が部室を埋め尽くした。


「うわぁぁっ!?」

班長の悲鳴が聞こえる。

「ま…眩しいっ!」

目を開けていられない程の強い光のせいで、班長の姿までは視認できない。


ボウルがあった場所から響く高音と共に、ドタドタと駆ける音が聞こえてくる。


「消火器持ってき…うわっ!何だコレ…眩しっ!」

「通谷先輩…丁度良い所に!」


「うわぁーっ!目がぁーっ!目がぁーっ!」

安心したのも束の間、扉の方向から通谷先輩の悲鳴が響いた。

「ジブリ映画のモノマネしてる場合じゃないわよ!!!

って…あッ…!?」


「班長……?」

僕は班長の声のした方を向いて、恐る恐る薄目を開いた。



…ボウルからは、まるで宝石のように、真夏日の清流のように、七色に煌めく光が溢れ出ていた。


「凄い……!」

僕は、思わずそう呟いていた。

「綺麗…まさか、こんな事が起こるなんて…。」

班長も続けて、光の中でそう言った。


「ちょっ…眩しい!マジで…何が見えてるんすか…!2人共!」

視界の端に、のたうち回る通谷先輩が居た気がしたけど、多分気のせいだろう。



「…何も見えないっすけど…何かバチバチ聞こえるし、焦げ臭いっすよ!多分ヤバいやつっす…!」

再び通谷先輩の声がした。

…次の瞬間、ボウルから青い稲妻のような物が飛び出し、天井を焦がし始めた。


「えぇぇっ!何コレぇ!?」

「コレはマズイわ…。2人共、班長命令よ!逃げて!!!」

班長が叫んだ。


光がどんどん強くなる。


焦って立ち上がった時には既に、僕の視界は真っ白に閉ざされていた。



「――伏せてーーーーーッ!!!」



・ ・ ・



「――りや……」


「通谷!大丈夫!?」



「は……班長…無事っす…。」

床に伏せていた通谷は、ゆっくりと起き上がりながら言った。


「髪型……アフロになってるけど…?」

「アッハッハ…そんな漫画みたいなァフロォォォォォ!?」

通谷は自身の髪に触れると共に、戦慄を露わにする。


「何なんすかコレ!凄い音したけど、ガチで爆発でもしたんす……」

通谷は困惑しつつも、目線を動かす。


「…か……………え…?」

「…ええ。ガチよ。窓ガラスは全て吹き飛び、床板と天井は焼き過ぎたトーストみたいになっちゃったわ…。」

秋葉は遠い目をしながら言った。

「…そこに落ちてる木片は?」

「…さっきまで座ってた椅子よ。」


「……マジですか…。コレ、俺達とんでもない大目玉喰らうんじゃないですか……?」

通谷の不安気な声に、秋葉は微笑を浮かべながら答える。

「…まあいいわ。あんな大爆発が起きても、班員が皆無事なら……」


「無事なら……」

秋葉の安堵の表情が徐々に曇る。



「…ヨシヒコ君は…どこ!?」


・ ・ ・


【理科部冒険記 〜実験結果は異世界転移〜】

Since2022


・ ・ ・



「う……うぅ……。」


一体何が起こったのだろう。

僕の頭はその事で一杯だった。


薄らと目を開くと、白い天井が視界に映る。

(保健室……それか病院…?そうか…さっき爆発が起きて……それで…僕は……助かったのか……?)


(先輩達も一緒に居たはず…2人共…無事なのかな……)




「おっ、気が付いたようだな!」

視界の外から声がした。


男性…保健室の先生では無さそうだ…。

じゃあ病院の先生?それにしても随分フランクな口調だ…。


「おい君、大丈夫か!私の顔が見えるか?」

声の主らしき人が呼び掛けてきた。


ぼんやりとした視界が、徐々に明瞭になってくる。

「ああ…見えます……。」


「髪は金髪で……身長が高い……部屋着のようなラフな服装で…医療関係者じゃ無さそうな……」


「良かった、目は大丈夫そうだ。」

声の主、金髪の男性は言った。


「いえいえ…心配してくれてどうも…」


…ん?知り合いでも保健室の先生でも無くて、医療関係者にも見えないって……



「……だ……誰ですか………?」




To Be Continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る