お告げ

喜村幸輝

第1話

 僕は、人と目を合わせられない。

 とてつもない不安に駆られ、手が震えて、冷や汗が出てくる。

 目を合わせる以前に、他人の視線が怖いのだ。

 人は皆、僕のことを冷ややかな目で見ていると想像し、変な行動したかな?、格好が変だったかな?、と、余計なことまで考えてしまうのだ。


 その生活に疲れきって、僕は引きこもりになった。


 家から出なければ、誰からも見られることはないからだ。

 しかし、そんな生活をしていたら、今度は家族の視線にさえ、気持ち悪さを覚えた。

 今まで一緒に暮らしていたはずなのに、拒絶し始めた。


 家に居場所がなくなり、外には出たくなく、僕の居場所は、強いて言えばベランダと小さな庭。

 雨の日は、屋根のあるベランダで。

 晴れの日は、庭にいた。


 そんな僕の居場所には、いつも先客がいる。

 偶然なのかルーティーンなのか、その先客は、いつも僕のことを見つめてくる。

 しかし、苦ではない。

 拒否反応もない。

 舐めるように僕を見つめてくるのにだ。


 ベランダの先客は決まって鳥たち。

 餌付けをしている訳でも巣がある訳でもないのに、雨宿りに来ているのだろうか、いる。


 庭の先客は猫。

 野良猫の通り道なのだろうか、我が物顔で庭を歩いている。

 ちょっかいを出すと、めちゃくちゃ見てくれて可愛い。


 人に見つめられると、本当に気持ちが悪くなるのに、こういつ動物に見つめられると心が軽くなる。

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