第3話⋯【初詣編 】― 6人の願い、寒空に揺れる恋と未来
■■元日の朝、6人のスタート
元日の朝。
昨夜のカウントダウンの余韻がまだ胸に残っている時間、それぞれの家から6人は集合場所に向かっていた。
空気は張りつめるように冷たい。
しかし、それ以上に胸の奥は温かい。
《楓(かえで)》
楓はマフラーに顔をうずめながら、スマホを見てにやにやしていた。
楓「(新年早々6人で初詣なんて……絶対楽しいじゃん!)」
手袋の中で指をこすり合わせる。冬の朝は苦手だが、心は弾んでいた。
―そして隣では優太が歩くはず。
そう思うと、楓は小走りになる。
《優太(ゆうた)》
優太はポケットに手を突っ込んだまま、いつもより早めに集合場所へ向かっていた。
優太「(楓、また走り出すんだろうな……寒いのに元気だよな)」
そんなことを思いながらも、口元は自然と緩む。
手袋の中には、あらかじめ買っておいた小さなホッカイロ。
絶対楓の手冷たいだろうな―そんな理由で。
気づかれないように、そっと握った。
《愛(あい)》
愛は静かに歩いていた。
息が白く消えていくたび、新しい年を実感する。
愛「(明は来るかな……いや、来るに決まってる。昨日だって……)」
昨日の展望台。
花火の光の中で見つめ合ったあの瞬間を思い返しただけで、胸が少し締め付けられる。
愛「……よし」
自分の胸を軽く叩いて、愛は歩みを少し速めた。
《明(あきら)》
明は電柱の影にもたれ、すでに集合場所で待っていた。
明「寒っ……お、愛来た」
愛の姿を見つけると、背筋が伸びた。
愛「遅れてない?」
明「全然。俺が早すぎるだけ」
愛「……良かった」
その柔らかい笑みに、明は鼓動を整える。
明「(……初詣、一緒に行くの楽しみにしてたんだよな……)」
黙ってマフラーを直してやると、愛は少し照れた顔になった。
《百合(ゆり)》
百合の歩調は普段よりゆっくりだった。
百合「(輝くんが来てるかな……来てるといいな)」
寒いのは嫌いじゃない。
冬の空気は澄んでいて、景色が綺麗に見えるから。
そして――
輝「百合−−っ!!」
名前を呼ばれ、振り向く。
そこに輝の姿があるだけで、百合の心に柔らかい光が差したように感じた。
百合「輝くん……おはよう」
輝「今日めっちゃ寒いからさ。手袋ちゃんとある?」
百合「うん。ほら」
百合がもこもこの手袋を見せると、輝は笑った。
輝「似合ってる」
言った瞬間、輝の耳まで赤くなる。
百合「……ありがと」
そんな2人の距離は、相変わらず冬の空気より近かった。
-----神社へ向かう6人
集合場所で全員がそろうと、自然と笑顔がこぼれる。
楓「みんなあけましておめでとー!」
優太「なんかテンション高いな」
楓「正月だよ?テンション上げないでどうすんの」
愛「……うるさくない程度ならいいわよ」
明「愛、ツンすぎだろ」
百合「ふふ、でも6人で初詣なんて初めてだね」
輝「ああ。けっこういいもんだな」
6人は肩を並べて、少しずつ人で賑わい始めた正月の街を歩いた。
---神社に到着――冬の匂い、参道の灯り
神社に近づくと、屋台の香りが漂ってきた。
《りんご飴》《たい焼き》《ベビーカステラ》
《焼きそば》
冬の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
楓「うわー!正月って感じする!」
優太「後で買ってやるから落ち着け」
楓「え、買ってくれるの?」
優太「……ああ」
楓の頬がぱぁっと明るくなる。
鳥居をくぐると、静かで清らかな空気が流れた。
百合「なんか……空気が変わるね」
輝「ああ。神社って独特だよな」
愛「雑音が消える感じ……嫌いじゃないわ」
明「正月の神社って、なんか身が引き締まるよな」
6人の足取りが自然とゆっくりになる。
石段の上で揺れる灯篭の光が、冬空にゆらゆらと浮かんでいた。
---参拝の列――それぞれの想い
境内にはすでに長い列ができていた。
楓「うわ……これめっちゃ並ぶやつじゃん」
優太「まぁ、正月だしな」
愛「せっかくだから、ゆっくり待ちましょ」
百合「ねえ明さん。おみくじも引く?」
明「引くに決まってんだろ。去年末末吉だったし」
輝「俺は……大吉じゃなかったらやだな」
百合「あ、それすごくわかる……」
みんなで笑う。
6人での待ち時間は、寒くても楽しかった。
並んでいる間も会話を楽しんでた。
楓「ねぇねぇ!新年の抱負、昨日も言ったけどさ、改めてこの場でも言っちゃう?」
優太「またやんのかよ……まぁ、いいけど」
愛「じゃあ、私から。
愛:『今年は……自分の言葉で行動すること』
……もっと、ちゃんと言いたいこと言えるように」
明「いいじゃん。愛らしいわ」
愛「……うるさい」
(でも笑っていた)
優太「じゃあ次俺。『陸上、明と輝に負けない』」
明「いやお前無理だろ」
輝「まだ死ぬほど差あるぞ」
優太「年明け早々辛辣すぎない?」
百合「私も。
百合:『輝くんの支えになること』
去年たくさん支えてもらったから……今年はもっと私も力になりたいなって」
輝「……十分なってるよ」
百合「えっ……」
輝「お前がいるだけで結構頑張れるんだよ、マジで」
百合「……っ……!」
楓「わーー!!リア充爆発!!」
愛「あなたもよ」
楓「えっ」
楓「じゃあ最後に!
楓:『優太との時間、もっと大事にする!』
優太「こら、堂々と言うなよ……」
楓「えー?恥ずかしいの?」
優太「ちょっとは……な」
楓「ふふっ」
明「俺も言っとくか。
明:『インターハイで決勝行く』
愛「……応援するからね」
明「任せろよ」
6人の目標。
それは単なる抱負ではなく、互いを想い合う“願い”になっていた。
---参拝――6人の願いが結ばれる瞬間
やっと順番が来た。
6人は横一列に並び、柏手を打つ。
パン、パン――
冬空に響く澄んだ音。
それぞれが静かに目を閉じる。
《楓の願い》
「(優太ともっと笑って、もっと一緒にいたい)」
《優太の願い》
「(こいつらと笑って、全力で走れる一年に)」
《愛の願い》
「(明と……ちゃんと向き合って進めますように)」
《明の願い》
「(愛を、ちゃんと守れる男になりたい)」
《百合の願い》
「(輝くんと、ずっと一緒にいられますように)」
《輝の願い》
「(百合と……幸せな一年を)」
手を離すと、6人の表情は少し穏やかになっていた。
明「よし。参拝完了!」
楓「なんか……スッキリしたね!」
愛「ね。気持ちが落ち着く」
百合「ふふ……良い一年になるといいな」
輝「ああ。絶対なるよ」
優太が空を見上げながら言う。
優太「みんなとだったら、どんな年でも悪くねぇだろ」
その言葉に、6人の笑みが重なった。
---おみくじ――恋の運勢が揺れる
参拝の後は、みんなでおみくじへ。
楓「いっせーのーで、で開けるよ!」
優太「おう」
愛「私も準備できたわ」
百合「ドキドキする……」
明「いくぞ」
輝「……大吉こい!」
そして――
「「「せーのっ!!」」」
おみくじの結果は⋯⋯
楓「やったー!大吉!!」
優太「お、俺も吉!悪くないな」
愛「……大吉」
明「マジかよ!俺は小吉……」
百合「中吉だ……良い感じ」
輝「……末吉」
6人の視線が輝に集まる。
楓「輝くん!?」
明「お前が一番ビビってたのに末吉かよ!」
輝「やめろ……もうやめてくれ……!」
百合はくすっと笑って、輝の袖をつかんだ。
百合「末吉でも……私がそばにいるから大丈夫だよ」
輝「っ……百合……ありがとう」
明「ねえ、愛。俺小吉なんだけど……」
愛「小吉くらいがちょうどいいのよ、明は」
明「どういう意味!?」
愛「ふふっ」
楓「優太!ほらほら、私と優太で“カップル大吉パワー”だよ!」
優太「はいはい。大吉コンビね」
楓「もっと喜ぼうよ!?」
優太「喜んでるって……」
6人は笑いながら、それぞれのおみくじを結びに行った。
---屋台へ――冬の匂いと甘い時間
参拝も終わり、次は屋台へ。
楓「たい焼き食べたい!」
優太「買ってこいよ。金は貸す」
楓「え、優太買ってきてよ~寒いよ~」
優太「……わかったよ」
楓「やった!」
百合「輝くん、このベビーカステラ美味しそう……」
輝「買うか。並んどけよ」
百合「うん!」
愛「明。私は焼きそばが……」
明「了解。愛はここで待ってろ」
愛「……ありがとう」
明「寒いだろ。手袋ちゃんとしてろよ」
愛「うん」
6人が買った屋台飯を持ち寄って、境内横のベンチで輪になる。
楓「たい焼きあっつ!」
優太「食うの早いんだよ」
百合「輝くん、このベビーカステラ……はい、あーん」
輝「お、おま……!?」
百合「ふふっ」
愛「明。熱いから気をつけてね」
明「おう……あ、うま」
愛「でしょ?」
寒空の下でも、こうして6人で食べる時間は不思議と温かかった。
---帰り道――冬空の下、6人の未来が重なる
参道を歩きながら、楓が言った。
楓「ねぇ、来年も、再来年も、ずっと6人で来ようね!」
優太「気が早ぇよ」
楓「いいじゃん!」
愛「……でも、悪くないわね」
明「俺も思った。毎年恒例って感じでさ」
百合「輝くんは?」
輝「……来るに決まってんだろ」
百合「ふふ……嬉しい」
6人は並んで歩く。
白い息---冷たい風---冬の朝日の匂い
すべてが、今日という日を刻みつけていく。
---そして――願いは、同じ方向を向いていた
鳥居から出た瞬間、楓が言った。
楓「今年も絶対楽しくなるよね!」
愛「あなたがいるだけでうるさくなるわね」
楓「ひどっ!?」
明「まぁ……にぎやかな年になるのは確かだな」
百合「ふふ……うん」
輝「お前らがいりゃ、最高だよ」
6人は笑顔で頷き合った。
その瞬間――
もう、来年もこのメンバーで来る未来が、当たり前のように思えた。
恋人として⋯⋯仲間として⋯⋯支え合う6人として、新しい年は、ここから始まる。
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