透明
押見げばげば
透明
雪しんしんシーラカンスのいろの地図
冬あたたか草書のやうな羽根拾ふ
麦踏や猫のくはへてくるいのち
八ツ橋のずんだ透けたる雨水かな
お涅槃の池にまあるき鯉の口
蝶の昼ほとけとほとけ向き合うて
切り株へ広ぐる卓布山笑ふ
かはづ鳴くとなりのかはづ鳴けば鳴く
さへづりや小川をまたぐ板の橋
うらうらと胸より歩く土鳩かな
花ごろも母のやさしき静電気
梵鐘の一打菜の花蝶と化す
花明り魚のかたちの飴細工
目高散るときをり空のいろとなり
鳥の日やこんぱるいろの綴りひも
蟻出でて開けつぱなしの門扉かな
雨の来る気配たうもろこしの花
瑠璃鳴くや木皿をすべる木べらの背
はまなすや棒切れで書くスコア表
さよならのいろの夕暮れ河鹿笛
倒木に小さき心音星涼し
ヒト以上にんげん未満大夕焼
星かなし水着をひとつ干したれば
しづしづと捨つる溽暑の母乳かな
いうれいのまだ透明でないこゝろ
きりぎりす人の真中にある凹み
敗戦忌みづは平らになりたがる
かさぶたに火花のにほひ秋螢
父の掌のなかのハモニカ夕木槿
百部屋に百の鍵穴つくつくし
寄せ書きの真中は白し月鈴子
ぼくんちの停戦の日のぶだうかな
金木犀だらう孤独に香のあらば
銀漢のみぎはに母を見失ふ
花野まだきのふの月のにほひかな
紅葉かつ散るゆふぐれの底の底
ビーカーにゆがむ黒板憂国忌
ホチキスの貫く遺稿冬あふひ
にはとりの助走は永し山眠る
指切りはひとりでできぬ枇杷の花
かげふみは死者のあそびよ龍の玉
さびしらに縄飛の音とがりけり
ポインセチア今はだれかが住む窓の
聖夜の灯アクリル板にうつる僕
わら半紙いろの祖母の眼聖菓分く
年の湯のなんと約しき肋かな
行列はみなバスに消ゆ街は雪
晩冬の吾がはらわたへ無影灯
死に水は頬へストーブがうがうと
寒椿たひらかに注ぐ逆さ水
透明 押見げばげば @gebageba0524
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