ぼっちな私の究極マナーは「最高の性愛の技術」です。性文化研究部で最高のテクニックを実践したら、なぜかみんなの心のバリア(羞恥心)が解け始めました。
寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
最高の作法と、性的な勧誘
「恋なんて、ただの反応速度のズレよ。」
春の朝。
新入生でにぎわう大学の中庭で、七瀬ゆいはぽつりとつぶやいた。
手にしているのは、金文字でタイトルが光る一冊——
『究極マナーの設計図:相互快感最大化理論編』。
恋愛小説より、この分厚い理論書のほうがずっと面白い。
彼女のノートには、びっしりと実験メモが書き込まれている。
「感情よりも作法が関係を支える」
「快感は誠実さの副産物」
ゆいにとって、これは愛ではなく研究だった。
だからこそ、誰にも理解されなかった。
“孤高の理論オタク”——それが、彼女のあだ名だ。
(私が求めてるのは、恋愛じゃない。“究極のマナー”——感情と理性が完全に同期する関係。)
ノートのページの端に書かれた数値が、春風に揺れる。
『3.2秒ルール:相手の快感シグナルを3.2秒以内に受け取れなければ信頼は崩壊する』
ゆいはその数値を見つめ、ひとり苦笑した。
(実験では完璧だった。でも“冷たい”って言われた。
理論が正しいなら、どうして心は離れるの……?)
そんなときだった。
背後から、まるで太陽のような声が飛んできた。
「ゆいちゃん! やっぱり同じ大学だったんだ!」
振り向くと、オレンジ色のカーディガンを翻した少女が手を振っている。
幼馴染の——松岡みお。
「……みお? 久しぶり。」
「うん! ちょっと話したいことがあってね!」
みおは息を弾ませ、ゆいの腕をつかむ。
その勢いで、ゆいの本が少しずり落ちた。
ページの間に挟まった付箋がひらひらと舞う。
「実はね、**“性文化研究部”**を立ち上げようと思ってるの!」
「せ……性文化、研究部?」
「そう! “最高の作法で理想的なプレイ”を追求するサークル!
ゆいちゃんの『3.2秒ルール』、前に聞いたときから忘れられなくてさ。
感情と理論を同時に満たすプレイ——それを一緒に研究したいの!」
その瞬間、ゆいの胸の奥が小さく跳ねた。
誰かが、自分の理論を“必要”としてくれている。
(……でも私は“実践”ができない。
理論なら語れるけど、人前で実際に行うなんて——)
「ごめん。私、人前でのプレイとか、そういうのは……無理かも。」
みおは一瞬だけ寂しそうに目を伏せたが、すぐに笑った。
「ううん、いいの。無理にやらなくても。
でもね、ゆいちゃんの理論がないと、この部は完成しないの。
“究極マナー”って、あなたが考えてきたことそのものだから。」
その言葉が、ゆいの心に熱を灯した。
誰にも理解されなかった“孤独な理論”が、今、誰かに届いた。
「……少し、考えさせて。」
「うん。待ってるからね!」
みおは笑顔を残して去っていった。
春風がその髪を揺らす。
ゆいはその背中を見つめながら、ノートを胸に抱いた。
(もしこの理論が、本当に人をつなぐなら……
“究極マナー”は、私ひとりの中で終わらせちゃいけないのかもしれない。)
——夕暮れ。
ゆいは、大学の古びた部室棟の前に立っていた。
壁には、誰かが走り書きした落書きが残っている。
『究極マナーは、頭で考えるだけでは完成しない』
ゆいはその文字を見つめ、静かに呟いた。
「……やっぱり、実践データが必要ね。」
扉を開けると、ほこりの匂いがした。
机の上に理論書を置き、ノートを開く。
ページの一番上に、ペンで書き込む。
“究極マナー研究計画 第1章:感情の再構築実験”
(誠実さが快感を生むなら、その境界を壊さずにどこまで近づける?)
窓から春風が吹き込み、ページをめくる。
その音は、まるで新しい研究の始まりの合図のようだった。
「最高の作法(マナー)を、もう一度見つけてみたい——。」
彼女の声は静かに部屋に溶け、
その夜、性文化研究部の小さな灯がともった。
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