『無限の付与術士』~追放されたバフ魔法使い、無限の魔力で世界最強に~

LA軍@呪具師(250万部)アニメ化決定

第1話「付与術士」

 とある貴族家。

 そこは歴代、強力な魔法使いを輩出する家系であり、王家からの戦力として多大な信頼を受けていた。


 しかし、ここ数世代はいまいち能力が振るわないのか、王家からの信頼は徐々に揺らぎ始めていた。

 しかもタイミングが悪いことに、戦士たちが『スキル』と呼ばれる技術を見出して以来、魔法使いの勢力が徐々に廃れ始めてきたこともありますます衰退に拍車がかかっていた。

 おりしも、武器や防具までもが高性能化し、魔力を武器に施す魔道具が開発されてからはその勢いはとどまることを知らず、貴族系は没落の一歩手前にまで落ちぶれていた。


 そんな貴族「オーブリー家」では、数世代ぶりの『才能ギフト』をもつ赤子が生まれた。

 『才能ギフト』は、生まれつき持ち得る能力の一つで、発現するだけでも稀であった。


 その『才能ギフト』の名は【魔力無限】

 なんと、魔法の神に愛されし者が待つという伝説の才能であった。


 魔力無限はその名の通り、「無限」の魔力を持つ能力で、その才能を授かったものは魔力切れを起こすことがなく、体力の続く限り魔法を使えるという夢の能力であった。


 その才能に喜んだ貴族家はその少年を神童と呼び、大切に育てたのであったが──……。




「よいか、キャシアス・・・・・──お前の才能は神に愛された証。その力をもって我が家の再興を……ひいては魔法使いの復権がかかっている、ゆめゆめ忘れるな!」

「はい! 父上!」


 厳格な父に大切に、そして厳しく育てられたキャシアスは13歳になっていた。

 この歳になると、この世界に生きる者すべてに等しく「ジョブ」認定が行われる年であった。


「うむ。この日──すべてが決まる。……だが、心配するな。【魔力無限】の『才能ギルド』をもったお前であれば必ず良き『ジョブ』を授かることであろう」


 ジョブ。


 それは戦士系統、魔法使い系統、そして職人系と別れるのだが、これは血統の濃さから決まることが多く。

 魔法使いの家系からはほぼ魔法使いが生まれ、

 戦士からは戦士、職人からは職人が生まれることが通常である。


 ただし、本当に稀にではあるが、その流れから外れることもあるが──めったなことでは血統に異変は起こりえなかった。


「お任せください父上! 必ず、必ずや魔法使いの系統を手にして見せましょう!」

「うむ、その心意気だ。……そうだな、「賢者」とまではいわん。──なに、お前の『才能』があればどんな魔法使い系統であっても世の役に立つはずだ。そして、その力をもって陛下に魔法使いの実力を認めてもらい、再び魔法使いが世の覇権を握ることであろう!」


「もちろんです! どうか期待してください!」


 大きく胸を叩いて宣言したキャシアス。


 この日、英才教育を受けていたキャシアスは自信に満ち溢れていた。

 父の言う通りにしていれば、自分の能力が従前に行かせると信じていた。


 だから、何の気負いもなく、ジョブ認定式に挑んだんだのだが──。



※ ※ ※



「……こ、これは──!」


 大金を支払い、特別にお越しいただいた神殿の高位司祭が驚愕に目を見開く。

 静寂と信頼を重んずるジョブ認定式は、厳格な式で行われる秘術のため、対象者と神官しかそこに立ち入れない。


 その神聖な場で、水晶に映し出された色と文字に神官は驚きの余り声を失った。


「あ、あの……」


 水晶の色は「赤」

 これは、魔法使い系統だ。


 戦士の「青」と、職人の「緑」でもなかった次点で、内心小躍りしてたキャシアスであったが、神官の顔に不安を覚える。

 ……だけど、心配ないはず。

 だって父は言っていた──どんな魔法使い系統・・・・・・・・・であっても、【魔力無限】の『才能』があれば役に立つと──。


「キ、キャシアスさま、あなたのジョブは『付与術士エンチャンター』です」


「ッ!」


 ふ、付与術?!


「えっと…………」

「は、はい。『付与術士』と言えば、武器、そして、防具──または、対象者に魔力を付与できる支援魔法──いわゆるバフの使い手ですね。その……一般には攻撃力や回復の手段がない魔法ではありますが、」


 ごにょごにょと語尾を濁らせる神官に、キャシアスは首を振って満面の笑みで答える。

 付与術。付与術士かぁ。


 うん!

 ……多分、そう悪くないはず・・・・・・・・だ。


「キャシアス様?」

「ありがとうございます神官さま」


 父は言っていた。

 世に存在する魔法に貴賤きせんはないと。そして、すべからく役に立つものばかりであると──!


 唯一の例外、「死霊術ネクロマンシス」を除いて!!


「いやー。びっくりしました! 神官様が浮かない顔をしていたので、まさか死霊術を授かったのかと!」

「まさか! あんな下法──! 発現した時点で、我が神官団が生かしてはおきませんよ!」


 あっはっは。


 そういって、懐から鋭いナイフをチラリと見せる。


「ひえ! こ、こわぁ! え? じゃあ……まさか、死霊術師だった場合って──」


 ニヤリ。

 何も言わずに顔をゆがめる神官を見て震えあがるキャシアス。


「ははは、冗談ですとも──いくら我が教団が王家や世俗と不可侵とはいえ、まさかまさか、人殺しだなんて、」


 くっくっく。


 一気に怪しくなったその神官と教団のことを知って顔をしかめるキャシアス。

 冗談めかしているがおそらく本当なのだろう。


 明け透けに話してくれるのも、キャシアスが貴族だからだ。

 実際に、死霊術を発現したのが市勢のものなら連行されていたとしてもおかしくはない。


「はは。まぁ、これは用心のためですよ。たまに望んだジョブに着けなかったものが激昂したりしますからね。あとはそう……ジョブ認定は秘術ゆえ、何があっても秘匿せねばなりません」

「あ、あはは」


 それはつまり自衛兼、自殺用ということか。

 どこまで本気かわからず乾いた笑い声をあげるキャシアス。


「──あとはそうですね。神聖魔法を授かった場合は是非に我が教団でお誘いすることもあります」

「へ、へぇ。でも、それって強制ですよね?」

 お誘いという名の……。

「まさかまさか」

 嘘つけ。

「はは。で、でも、僕はそのどちらでもないです。その……もう会うことはないかもしれませんが──今日はありがとうございました!」


 それだけ言って、密室に神官を残して去っていくキャシアス。

 その背中に「寄進はいつでもおまちしておりますよー」という軽口が聞こえたが、ごめん被る。


 さて、

 そんなことより父に報告だ!


 「賢者セージ」や「大魔導士アークメイジ」なんていう第1級のジョブではなかったとはいえ──喜んでくれるはず。

 なんたって、キャシアスは魔力無限!

 実質、魔力が無限にあれば、大魔導士の下位互換である「魔術師マジシャン」であっても関係ない。魔力量でごり押ししてしまえばジョブの優劣などほとんどないんだから。


 ちなみに、魔法使いジョブの一般的な等級は


 第1級が、「大魔導士アークメイジ」「召喚術師サモナー」等。

 第2級が、「魔術師マジシャン」「回復士ヒーラー」「火魔術士ファイヤーマジシャン」「水魔術士アクアマジシャン」など、その他魔法使い

 そして、

 特級が、「賢者セージ」「死霊術士ネクロマンシス」「神聖魔法士ホーリーマジシャン」などなどだ。


 まぁ、神聖魔法や召喚術みたいに、特殊魔法でなかったのは残念だし、

 どんな魔法も使いこなす賢者や、攻撃魔法特化の大魔導士でなかったのは惜しいけど、「付与術エンチャント」だって悪くないはず。


 ちなみに「付与術士エンチャンター」も第2級のその他もろもろに含まれる。


 そのせいもあってか、あまり支援系統の魔法教育に父は熱心ではなかったけど、第2級とはいえ、魔法使い系統であれば魔力無限で活躍間違いなしだ!

 なにより、父は魔法使い至上主義だけど、キャシアスは違う。


 世界は常に流動しているんだし、今は戦士や職人と力を合わせる時代なんだ!


 ──だから、「付与術」だっては決して悪くはない!


 そう心に唱えると、

 父の教えのわりに、意外にも傲慢さをもたなかったキャシアスは喜び勇んで報告に駆ける。


 少しの落胆と、少しの安心感を抱えて────……。

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