【実話】東大生 同級生女子の家に居候してた
@obanasusuki
きっかけ
彼女(N)とは、高校のクラスが一緒だった。
「彼女」といっても、それはただの呼称で、特に付き合ったりはなかった。
僕は、受験したすべての大学に落ちたので、そのころ、手持ち無沙汰になっていた。
三月の終わり頃のこと、麗らかな陽気だった。その日僕は、ちょうど京大に落ちて、早稲田に行くことの決まった彼女の誕生日を祝う名目で、Nと会った。
それまで、特に親しいというわけではなかったNと散歩をした。パン屋を通り過ぎて、白飛びする外壁の工業地帯の横を過ぎて、みかんを買って二人で食べた。酸っぱ過ぎたような気がしている。
*
僕はその三ヶ月前、彼女(K),この場合は付き合っている彼女であるが、と別れた。二年の付き合いだったので、僕の魂の幾分かは彼女と混ざり合っていた。別れは、鈍器で優しく殴られたようだった。
僕は、それまで、受験期だからとKのことを遊びに誘ったりしなかった。浪人するくらい勉強をしていなかったから、僕は暇だったのだけれど。
そうして半年以上が過ぎていた。Kは、久しぶりに会った師走、僕が入り浸っていた古本屋で、「別れよっか、、?」と涙ながらに、少女漫画的に僕に問うた。
僕は、その時、僕の否定を待って、ロマンチックに陶酔しかけたKを打ちのめすために、意地悪く、「そうだね。そうしようか。今でも友達としては大好きだよ。」と言った。
そうしたら、目に涙を浮かべながらKは「わかった。じゃあね。」と言った。「じゃあね。」というのも、どこかで聞いたようなセリフで苛々した。僕とあなたの話を他の人の文脈に入れないで欲しい。
少し落ち着いてきたKは、鞄から、丁寧に封筒を出し、それをまためくって、その中の映画の一回分の券をくれた。僕が映画を見まくっていたことを知っていたらしい。
胸が痛んだ。自分の間違いは、いつも後になってからしかわからない。Kは去っていった。でも名残惜しさはなかった。大きなものが肩からおりるのを感じた。人と生きることのなんと面倒なこと、、、奇妙な清々しさだった。とにかく桎梏から解き放たれたのだ。
*
そして3ヶ月後、Nと遊びに行ったのだが、僕は、付き合うということはもう金輪際しないでおこう、と心に決めていた。
Nとの会話は、すべては駆け引きであって、けれども、その終着点はなかった。
僕は、そのころやはり、投げやりにもなっていた。心の麻痺によって、大それたことができるようになっていた。
別れる時、彼女に、「また、君の家に行って、泊まってもいい?」、そう言った。冗談を受け取るように「いいよ。」という彼女の目には、しかし、喜びと不安とが入り混じった炎がかすかに燃えていた。
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