規格外の男
大自然の暁
規格外の男
深夜、ある男の自室からチカチカと光が
その光を
先日、唯一の
母が他界したことは、ニート歴20年を
しかしそんな彼も、数日過ぎれば
人は必ず死ぬ。
死ななければならない。
彼が読んだ漫画や小説あるいは歌や詩にも似たような文言が出ていた。
自分よりも賢い人々がそれを言っているのだからそれが正しいのだろう。
だからこそ、仕方のないことなのだ。
彼はきっと死んだ方がいいのだろう。
一般的な社会人からすれば、ニートを
彼はそのことに気付きつつも、いまだ死ねずに生きている。
ただ、目的もなく。
朝、
最近は風呂も入っておらず、洗濯もサボっているため臭いが気になってきたらしい。
今までなら母が悲しそうな顔をしながらやってくれていたが、もうそういう訳にもいかない。
寝間着をクンクンと嗅ぎ、埃まみれの部屋にしかめっ面を
それを終えると、目を
ニート歴34年、彼は朝のルーティンを作っていた。
それは作ろうとして作った訳ではなく、勝手に出来上がったものだ。
彼はその行為にあえて名付ける行為をしていないが、もし名前があるのなら『逆瞑想』とでも言えるだろう。
あるいは妄想とでも言おうか。
死後の世界について、様々な妄想を膨らませていた。
死後の世界、つまりは
異世界に転生し、なんの苦もなく栄光を手にする。
苦労はあっても苦痛はなく、最後は絶対に幸福となれる。
これを天国と言わずになんと言うのだろうか。
そんな
だからこそ、『逆瞑想』である。
本来、瞑想とは今現在の肉体にのみ意識を向ける精神安定法である。
彼がしていることは全くの逆、未来にある魂にのみ意識を向けている。
まるで死への恐怖を紛らわすように。
しかしまだ死なない。
そのため着替えることもまた
母の葬式で慣れない喪服を着たきりだ。
服は寝間着から着替える必要性を感じない。
しかし今日は違った。
食料が底をついたのだ。
彼はクレジットカードを所有しておらず、そしてインターネットで買い物をする
彼はもう一度自身の臭いを嗅ぎ、仕方がないので風呂に入ることにした。
母がいない以上は自分で食料を調達するほかない。
仕方が無いのだ。
シャワーを浴びると、思いのほかスッキリした。
臭いが取れたかどうかは彼自身にはイマイチよく分からなかったが、母が生前に使っていたボディソープを使ったので恐らくは大丈夫だろう。
服は母が洗濯をしていた物がまだ残っているのでそれを着た。
XLサイズの服は、彼のふくよかな
彼は靴を履き、昼の日差しが差し込む外へと歩みを進めた。
近場のスーパーへと
できる限り
あくまで
仕方がないので身を
彼は料理ができない。
しかしカップ麺だらけでも恥ずかしいので、
「
そろそろレジに向かおうかといったところで、彼は突然呼び止められた。
いや、もしかしたら同じ苗字の人がいるのかもしれない。
若い女性の声がする方向をチラリと見ると顔に見覚えがあったため、彼は自分が呼び止められたのだと理解した。
「な、なん、なんですか? お、お隣、さん」
彼は名前を覚えていなかった。
名前を覚える
彼を呼び止めた彼女はお隣さんだ。
あまり話さないため、彼は自身の顔と名前を覚えられていたことに
「えぇっと……、外で見かけたのが……、その……」
「め、
「あぁ……、まあ……」
「……」
「……」
共通の話題はなく、特別に話したいわけでもないため、彼らはすぐに無言となった。
店内のBGMがやけに大きく聞こえる。
少し前に流行った音楽。
それが彼の脳内にハウリングする。
次に言葉を
「で、では……、これで……」
「あっ……」
彼は逃げるようにその場を離れ、商品をレジに通した。
セルフレジは人と話さないですむため、彼にとっては楽にできると思っていた。
セルフレジを使うのは初めてだった。
今まで見たことはあったが、実際に触るのは初めてだ。
つまるところ、彼はセルフレジの使い方が分からなかった。
バーコードをスキャンするだけだと思っていたが、何度やっても反応しない。
店員は年寄りのところへ行き、まだ手が空きそうにない。
こんなことなら有人レジに行けばよかったと後悔する彼の隣に誰かが来た。
彼は店員かと思ったが、どうやら違った。
お隣さんが隣のレジで会計をしに来ていた。
かごの中には肉やじゃがいも、玉ねぎなどが入っていた。
「
「えっ」
「ここを押して、お会計を始めないといくらスキャンしてもダメなんですよ」
「あっ、あっ、ど、どうも」
「いえ……」
お隣さんが来たおかげで彼はスムーズに会計を
なんとなくそのままの流れでアパートまで一緒に帰ることになった。
その間、会話はなかった。
彼にとって足並みを
会話こそ生まれなかったが、そこには確かなコミュニケーションがあった。
家の扉を前に立ち止まる。
ポストに名前が記されている。
これでお別れだ。
そういう人に
そんな彼の
「また、お話しましょうね。
「あ、は、はい。また……、
そう言って、二人は扉を開けた。
母とですら
別れてから
もう少しまともな会話をすればよかった、と。
彼は今回の件でお隣さん――
実際、嫌われるまではいかずとも、距離を取られるような言動をしていた。
もとより交流はなかったのだからそこまで気にする必要もないだろう、と割り切ることができれば
仕方がないとしか言いようがない。
彼は
完璧に物事を
なにか少しでも完璧にできなければモチベーションを
妄想癖があり、つい優秀な自分を妄想してしまう。
妄想の中にいる自分と現実にいる自分との
今回も、妄想の中にいる自分は
『今日は寒いですね!』
『ええ、そうですね』
『やっぱりもう冬ですね!』
『ええ、そうですね』
『冬と言ったらお正月ですね! ご実家に帰られるんですか?』
『ええ、そうですね』
シュミレーションは完璧だ。
しかしこれは
彼はトボトボとお湯を沸かし始めた。
買ってきたカップ麺を食べるようだ。
彼はビニール袋に
たこ焼き8個入りで税抜き298円。
彼には相場が分からぬので高いか安いかの判断がつかない。
だがそれは
最初に
カップ麺の
そして麺だけを容器に戻す。
さらにそこへ、たこ焼きを
お湯を入れるのはこのタイミングだ。
2分後、
「いただきます」
これがカップ麺を
早速、食べ始めた。
たこ焼きにかかっていたマヨネーズとソースが、麺と
さらにたこ焼きのガワがドロドロになっており、口当たりが絶望的に悪い。
カップ麺に
カップ麺
一言でこれを表すとすれば、『
食べられない程ではないが、わざわざ作って食べる人間は彼を
美味しくないものを食べると安心するのだ。
逆に美味しい物を食べると彼は
もしかすると、食べ物の味を落とすのは彼なりの
「ごちそうさまでした」
カップ麺の容器を適当に水洗いし、そのあたりに放置する。
ゴミ箱には
いずれ足の踏み場もない
その未来がありありと想像できても、彼はゴミを片付けない。
だがそれも仕方のないことだ。
夜ご飯にもカップ麺を食べる
買ってきた
次に目を付けたのはパンだ。
カップ麵とパン。
炭水化物と炭水化物。
しかし弱い。
パンだけではあまり味を落とせないだろう。
彼は冷蔵庫や
砂糖と塩は袋で残っている。
これらを大量に入れてもいいが、入れすぎると食べられなくなってしまう。
あくまで食べられる範囲で不味く作っているのだ。
ニンニクやラー油は
そもそもラーメンに入れるものだ。
七味も合いそうではある。
ワサビやショウガはどうだろうか。
実に合わなさそうだ。
味噌も醤油ラーメンに入れるならなしよりだろう。
そうして彼が考えていると、突然玄関のチャイムが鳴った。
ビクッと彼は一瞬だけ
ここは安アパートであり、交番も遠い。
空き巣にとっては好条件だろう。
空き巣はまず、チャイムを鳴らして本当に人がいないかを確かめるそうだ。
それだろうか。
彼は恐る恐る玄関へ近づき、扉を開けた。
しかしそこにいたのは見知った人間だった。
「さ、
「あ、いえ……、肉じゃがを作りすぎてしまったのでおすそ分けに、と」
よく見ると彼女は小さめのタッパーを持っており、その中には一人分くらいの肉じゃがが入っていた。
彼は何を言えばいいのか分からず、しばらくフリーズした。
感謝すればいいのか、突っぱねればいいのか、はたまた無視を決め込んで逃げればいいのか。
数秒の
「こ、このご時世に、珍しい、ですね」
言うべきことは間違いなくこれではない。
何を言うべきか分からなくても、これを言うべきではない事は分かる。
しかし言った。
なぜ言った。
しかし彼女はその表情に
「ふふっ、こういうのも悪くはないと思いますよ」
「は、はあ……」
「明日、感想を教えてくださいね。
明日、明日と言った。
彼女は明日と言った。
明日もこの男と会うつもりなのだろうか。
何が彼女を突き動かすのだろう。
今朝までろくに話もしなかった
「それじゃあ、また明日」
「あ……。は、はい……」
彼の様な社会の最底辺にも笑顔でいられる彼女に吐き気を
彼は鏡を見られない。
笑顔でそれを見ることはできない。
最後に暴言でも飛ばしてやろうか。
「あ、これ、あり、ありがとう、ございます」
彼は
だから仕方のないことだ。
そうして、彼は扉を閉めた。
どうしたものかと
机の上に置かれたタッパー。
明らかな異物感。
ゴミで溢れたこの部屋に、一つまともな物がある。
受け取った時には気付かなかったが、タッパーの
明らかな、異物感。
しかしそのまま放置している訳にもいかない。
明日、彼は肉じゃがの評価をお隣さんへしなければいけないのだ。
タッパーの
長らく嗅いでいなかった臭いだ。
美味しそうな臭いだ。
しかしどうにも食べる気になれない。
一口でいい。
それだけで感想は言える。
その一口を運ぶまでが遠い。
何をそこまで
仕方なしに彼は箸を動かし、肉とじゃがいもを同時につまんだ。
「
その味には努力が感じられた。
味に問題はなかった。
むしろ
母が他界して以来、あえて
その味はまるでキュビズム的であり、つまりは様々な側面の味を見ることができる。
あるいは素材のコラージュ。
母が生きていた時でさえこのような料理は食べていただろうか。
いや、ない。
彼はそう感じた。
気付けば
一口を食べるのに苦労したとは思えないような食べっぷりだ。
彼はそのことに後悔し、死にたくなり、しかしそれができなかった。
お湯を沸かす。
肉じゃがを耐熱容器に移し、カップ麺も放り込んだ。
しかしこれでいい。
このくらいが身の丈に合っている。
肉じゃがを食べたのは
食べなければ評価ができず、そして思いのほか美味しすぎて食べ過ぎただけなのだ。
だからこれでいいのだ。
食べ過ぎたことに気付いてしまったなら、そこから先は
これでいいのだ。
翌朝、
時刻は朝の7時丁度。
彼はのそのそと起き上がると、そのまま寝ぼけた頭で玄関へと向かった。
「おはようございます、
「うえっ……? お、おはよう、ございます?」
そこにいたのはお隣さんだ。
なぜいるのか彼が聞く前に、彼女は自ら要件を言った。
「昨日の肉じゃが、どうでしたか?」
お隣さんは彼の予想を上回る行動しかとらない。
朝にわざわざやって来て感想を聞くなど、普通ではない。
「暇なのか……?」
彼は思わず言葉が
相手の目の前で言ってしまうとは。
彼は
「まったく、失礼な。これでも仕事はしてるんですよ」
しかしその言葉とは裏腹に、あまり怒ってはいないように見られた。
「す、すみません……」
「ふふっ、まあ本気で怒ってる訳じゃありませんよ」
私が本気で怒ったら怖いですよ、と彼女は指で鬼の
あまり怖そうには見えない、というよりむしろ可愛かった。
「あ、あの……、な、なんでおすそ分けをしに来たんですか……? りょ、料理の感想が聞きたいならと、友達か彼氏にでも聞けばいいのでは……?」
「あー……まあ、そうなんですけど……。それはそれとして肉じゃがどうでしたか?」
聞かれたくない様なことを聞かれたような彼女は、あからさまに話題を変えた。
「あ、はい。え、えっと……、とても、きゅ、キュビズム的でした」
「?????????」
彼女は突然宇宙のことでも聞かされたような顔をした。
理解に時間がかかっているようだったが、十数秒たっても理解は進まなかった。
「つまりどういうことです?」
「あー……、お、
「よしっ」
お隣さんは小さくガッツポーズをして喜んだ。
「昔からの夢だったんですよ、お隣さんに食べてもらうの」
「ど、独特なゆ、夢ですね」
「小学校の時、将来の夢でそれを書いたら担任に三者面談させられたんですよね」
「じゅ、重傷ですね。お、お母さんにどうせ、説明したんです?」
「実は母の夢も同じだったんです」
「い、遺伝ってするものなんですね」
「ええ、お婆ちゃんも同じだったようです。そのお婆ちゃんも、そのまたお婆ちゃんも」
「ど、どんな血統なんですか……?」
「ちなみに父は違ったんですよね」
「は、母方の遺伝子がつ、強すぎますね」
「アニメとかの母親の遺伝子強すぎだろ! ってやつは大体私です。……あっ、そろそろ出社するのでこれで失礼します。帰ったらまた作って持ってくるので」
「あ、はい。い、いってらっしゃい。……ん? ま、また作るってい、言いましたか?」
「それじゃあ」
「え、ちょ、ちょっと!?」
彼女は
出社の準備をするのだろう。
その姿がどうにもおかしく思えた。
他人は自分を映す鏡なのだと誰かが言った。
彼はその言葉を普通と少し違う
他人に優しくすれば優しくされ、冷たく接すれば冷たく接せられる。
それがこの言葉の意味だろう。
しかし彼は自身の態度や言動に関わらず他人は自分をよく映していると考えた。
他人の心を読むことはできない。
つまり、他人の心は想像でしか
しかしながらその手本となる心は一つしか知らない。
自分の心だ。
人は皆、自分の心を手本に他人の心を想像する。
だからこそ、他人がどう思っているか、何を考えているか、それには自身の思想・感情が大きく影響される。
彼は彼自身が嫌いである。
太っていて、ニートで、まともに風呂に入っておらず、不細工だ。
他にも嫌いになる点はいくらでもある。
少なくとも、関わり合いになりたい人物ではないと自分ながら思っていた。
しかしなぜかお隣さんはわざわざ彼に関わろうとしてくる。
スーパーでのことはまだ理解できる。
出会ってしまったのは仕方がない。
運がなかったと諦めるしかできないからだ。
そして知っている人が困っていたら助けるのもまだ分かる。
しかしそれ以降のお隣さんは理解不能だ。
彼は今までの人生において学習している。
自分の様な人間に関わろうとする人はいないと。
いじめられていた訳ではない。
無視されていた訳でもない。
ただ関わらなかった。
関わりたくないと思われていた。
しかしそれは彼の想像だ。
他人は自分を映す鏡だとはよく言ったものだ。
彼は
他人に無関心だから、他人も自分に無関心だろうと思い込んでいた。
そして他人へと無関心に接し、無関心に接せられた。
現在では彼もそのことに気付いてはいるが、既に手遅れだ。
考えに考えた彼であったが結局答えは出ず、
しかしお隣さんはその晩やって来た。
その次の晩も、さらにその次の晩も、
一週間が経ち、二週間が経ち、
毎日
そして次の朝に感想を聞きに来る。
それが
彼もお隣さんが毎日やってくるので流石に風呂に入り始めた。
面倒に思えた。
彼は人と関わることがあまり好きではない。
しかし止まない雨はないように、その
その日はよく晴れたいい日だった。
珍しいことに朝の6時前。
しかし完全に目が覚めてしまった。
彼は暇だったので、曲を再生した。
―――――――――――――
毒を持った幽霊と
皮膚の下に
夜の街に駆け出した
命の終わりを望んでいた
予報になかった雨が
僕の身体を貫いて
僕はきっと世界を
しかし誰にも
仕方がなかったのだ
―――――――――――――
CDプレイヤーから流れる音楽が、イヤホンから
彼はこの曲が嫌いだ。
だからこそ、聞いている。
母がCDに残した一曲だ。
彼が過去に作った
それがこの曲だ。
いわゆる、黒歴史。
こんなものをCDに残した母はきっと頭がおかしいのだろう。
聞くたびに
曲調は有名な曲から少しずつパクリ、歌詞はぎざったい。
それを聞いていると、玄関でチャイムが鳴った。
まだ6時を過ぎて少しだ。
普段よりも早い時刻のチャイム。
彼は玄関へ向かった。
「あ、
「あ、ど、どうも……。き、昨日のビーフシチュー、
「あ、ありがとうございます。それで……、あの……」
お隣さんは言い出しにくそうにもじもじとしていた。
「きょ、今日はおすそ分けできそうにないんです……。すみません……」
「な、なにを
「明日は……、多分おすそ分けできると思います」
「し、しなくてもいいですよ?」
「あ、えっと……。もしかしてお邪魔……、でしたか?」
邪魔ではなかったが面倒ではあった。
しかしそれを馬鹿正直に伝えるべきなのか。
彼は迷い、しかし正直になる勇気もなかった。
「邪魔、ではなかった、です。ただ、わ、わざわざ来る必要もな、ないですよ」
「お邪魔でないならよかったです……」
「は、はあ……」
「で、ではこれで……」
彼女は逃げるようにその場を
家の中ではなく、どこかへ行くようだ。
よく見ればバッグのようなものも持っているし、恐らく彼氏とデートか
何かがあるのだろう。
メイクもしていたように思えた。
なるほど、夜にしっぽりやりたいから今日は作れないと。
どういった理由にせよ、彼にとって面倒な人付き合いが減る。
それは喜ばしいことだろう。
彼は久しぶりに他人の
では、彼は何をするのだろう。
彼がもっとも好むのはゲームだ。
彼は母が残した遺産だけで生活を
そして、それほどないということはある程度は余裕があるということなのだ。
いわゆる恋愛ゲームというものだが、王道系ではない。
彼は子供の頃、父親の影響によりマイナーなゲームにはまった。
その一つがこれだ。
コマンドバトル系であり、弾幕シューティング系であり、ローグライク系でもあった。
この作品の肝はヒロインの攻略ルートによってダンジョンを攻略しなければいけないことだ。
舞台は現代日本であるのにも関わらず、なぜかダンジョンがあり、そしてそれを攻略しないとヒロインと会話すら出来ずにBADENDに直行する場合がある。
その癖にバトルは無駄に難易度が高く、黒髪ロング先輩系ヒロインである
「娘が欲しければ私を倒してからにしろ」、と言って化けの皮を
前作ではその
そして今作、
一作目から五作目まで共通しているのは東京が舞台だということ。
そしてローグライク系ダンジョンのラスボスがいる地が新宿である、ということだ。
彼は今、新宿に居た。
ラスボスの一つ前、『紫雷の眠り姫』コリウス。
彼はその敵に手間取っていた。
「くっ……、毒ビルドじゃきついのか?」
コリウスは主人公のクラスメイトの
彼女を倒すためには全6層からなるダンジョンを攻略する必要がある。
2層攻略
なぜなら、2体いる中ボスの攻略方法によって
一体目は『封怒の騎士』。
その名の通り、騎士のようなボスエネミーだ。
『封怒の騎士』は基本的に剣での攻撃しかしてこないが、一つだけギミックがある。
『封怒の騎士』には残り体力とは別に、
それはクリティカル攻撃、または時間経過によってゲージが減る。
この第二形態を倒さずに進むと、コリウスのステージが炎に包まれて持続ダメージを受けるようになる。
二体目は『不定形の憤怒』。
名前からは分かりづらいが、スライムのようなボスエネミーだ。
『不定形の憤怒』は通常、ダメージが半減される。
そのため普通に攻撃していると予想外にタフである。
一つの攻略法として、『不定形の憤怒』には核があり、それを攻撃し破壊すれば弱体化する。
ダメージ半減が消え、移動速度や攻撃力も低下する。
しかし核を壊してしまうと、コリウスの全能力値が上昇してしまう。
このダンジョンでは、常に難しい方法で攻略しなければ最後の最後でより戻しがくる。
だがどんなものにも抜け道は存在する。
毒ビルド。
彼は何も考えずそれを使っていた訳ではない。
中ボスの攻略に有用だからである。
『封怒の騎士』へ毒による持続ダメージを与えつつ、
そして『封怒の騎士』の体力が毒によってゼロになる直前に
そして『不定形の憤怒』の核を壊す条件として、一度に一定以上のダメージを与えることが含まれる。
つまり、毒ダメージでチクチクと
あとは逃げるだけで簡単に攻略できる。
このように、コリウスと一番弱い状態で戦うことができる。
ではなぜ勝てないのか。
コリウスと毒ビルドが決定的に相性不利だからだ。
抜け道などなかった。
なぜか。
コリウスには再生能力があるためである。
つまり一撃が強い攻撃を振りまくった方が強い。
まだラスボスにすら辿り着いていないのに敵が強すぎる。
実際彼は
こればっかりは彼が弱いのではなく、敵が強い。
ネットにおいても、コリウスを倒したという報告は
毒バグが報告された時にはこの界隈がすこしお祭り騒ぎになったものだが、
彼は今日も何度か挑戦したが、しかし彼の心を支配していたのは深い
彼は気晴らしにストーリーをもう一度見ることにした。
彼女はこのゲームにおけるヒロインの一人である。
誰にでも分け
この物語は魔法少女として悪魔と戦う彼女を主人公が助けたことから始まる。
主人公は様々な能力を用いることができ、その力を使って魔法少女の手助けをするというストーリーである。
そんな彼女には仲のいい幼馴染がいた。
彼女は
しかし
ニシキと言う名は彼女の父親が明るく色とりどりな人間になって欲しいという思いを込めて名付けた。
しかし生まれた子は暗く、あまり笑わない女の子だった。
それでも両親は彼女を愛し、幸せな家庭を
そんな中、彼女の父親は
彼女の母親はそれから精神が不安定となり、カルト教団にはまるようになった。
彼女の母親は
怪しい
もし
その時ですら笑顔を止めてはならない。
彼女にとって苦痛の毎日だった。
しかしその日々も
そのカルト教団は悪魔を信仰していたのだ。
主人公と
悪魔を倒した
彼女は憎んでいたはずだった母親が死に、なぜか悲しみを覚えた。
彼女にとって害となる母親でも、彼女は母親に依存していたのだとそのとき理解した。
生きる指針、目的、意味を失った彼女は命を絶とうとし、しかしその直前で止められた。
悪魔が生きていたのだ。
悪魔は信者の命を
母親の死は
父親の不審死、それは
その結果、
そうでなければおかしくなってしまいそうだった。
どうしようもなかった。
人生において笑顔を強要され、その内に秘めた怒りはただ溜まり続けた。
悪魔に力を与えられ、彼女は『紫雷の眠り姫』コリウスへと変異した。
そうして主人公はこのダンジョンに挑んでいるのだ。
ストーリーにヒントでもあればよかったが、
連れて行ってもいいし、連れて行かなくてもいい。
だが、このキャラは圧倒的にこのダンジョンと相性が悪い。
一撃が重いタイプのキャラなので、『不定形の憤怒』の核を壊してしまう。
しかし魔法攻撃にはクリティカルが存在しないので、『封怒の騎士』の
確かにコリウスまでは行くことができるが、最大強化されたコリウスを倒せない。
しかし彼はそれでも
ただの
彼は復活ビルドを組むことにした。
敵は全て
ローグライクであるため、出現する強化内容はランダムであったが、運よく復活ビルドをそろえることができた。
そして『封怒の騎士』と『不定形の憤怒』を倒し、6階に
ムービーが流れ始めた。
赤く燃え
青く
紫の雷が天地を繋ぎ、その中から人影が現れる。
『紫雷の眠り姫』コリウス。
紫色のドレスを身に
雷が
最強の魔女が
ムービーが終わると同時に
桃色の髪を
魔法少女グローリーの変身が終わった。
そのまま、杖の先に魔力を集め、コリウスへと射出した。
こうなってしまうと、
グローリーには体力の概念が存在しないため、彼女が死ぬことは絶対にない。
しかし主人公が死んでしまうとGAMEOVERなので彼は死なないように頑張っている。
リジェネを手に入れているが、それでも燃焼の持続ダメージはそれなりに痛い。
そしてコリウスの攻撃も来るため、死なないことはそれなりに困難であった。
今の復活ビルドは、3種類の効果によって支えられている。
1つ目は『復活の宝玉』だ。
これは死ぬと一度だけ体力をMAXで復活できる消費アイテムだ。
彼は現在、このアイテムを2つ所有している。
2つ目は『不死鳥の加護』だ。
これは自身が手にしている炎系能力の数だけ復活できる能力だ。
彼は炎系能力を3つ持っている。
そして3つ目は『
これは死んだ時、30%の確率で復活できる装備アイテムだ。
単体だとそこまで強くないが、『幸運の指輪』も装備しているため、確率が倍になっている。
これらのアイテムと能力により、彼は5回確実に復活し、そこからは6割の確率で復活できる。
だがそれでもコリウスには敵わない。
彼のいる場所に一瞬赤い誘導線が浮かび上がり、しかしすぐにその場を紫電が走った。
ギリギリで回避をしたが、間髪入れずに何度も紫色の
この攻撃は未だに誰も耐えた者がいない。
回避にはクールタイムが存在する。
一撃で彼の体力を半分以上も
攻撃が止む。
この連続攻撃は24秒きっかりで終了した。
その間、60撃の紫電が彼を襲った。
体力に換算すると、30人分強。
だが、彼はまだ生きていた。
彼の持つ能力などの相乗効果である。
回避により0.8秒の無敵、『不知火の肉体』により死に
結果、彼は一回の復活を残して生き残った。
普通のコリウスはここまで
これが最大強化コリウス。
彼ほどこのゲームをやっていなければ耐えることは叶わなかっただろう。
回避や能力の発動は自動ではない。
長年の慣れにより可能となった
だが……
「まだ、体力が半分しか
魔法少女グローリーのパワーを持ってしても、半分程度しか
さらにここから先は未知の領域だ。
そして、変化はあった。
「なんだ……?」
ムービーが流れ始めた。
通常、半分まで
最大強化のコリウスだから流れたのか、魔法少女グローリー――
だが確実に普段とは異なる現象が起きていることは分かる。
コリウスが苦しそうに地面へ降り立つ。
目からは血を流し、激情にその身を焼いている。
『ニシキちゃん!! 目を
グローリーが叫ぶ。
その声に反応しコリウスは瞑ったままの目で彼女を見ようとした。
目を開こうとし、しかし彼女の
そこで、コリウスの独白が始まった。
最初から、死にたくはなかった。
母親が死んで、彼女は自殺しようとした。
それが普通のことだと思ったからだ。
両親が殺されたなら精神を病むのは不可抗力だ。
そしてその結果自殺するのもまた不可抗力だと。
だが、それはただの言い訳だ。
彼女はもともと生きる気力がなかった。
母親が死んでくれたおかげで、彼女は死ぬ言い訳を手に入れた。
だが、それでも死にたくはなかったことに、自殺する直前で気付いた。
そこに悪魔が現れ、彼女は力を与えられた。
彼女はその力に飲まれ、大勢を殺した。
仕方がなかった。
不可抗力だ。
だが、彼女には不思議な実感もあった。
抗うこと自体は可能だった、という実感が。
だが、彼女は無理矢理自分を納得させ、言い訳を続けた。
仕方がなかった、と。
彼女は怒りに飲まれて『紫雷の眠り姫』になったのではない。
流れに抗わない怠惰な精神が彼女を『紫雷の眠り姫』
義務的に生まれた復讐心と怒りが彼女を
だからこそ現実に目を向けず夢の世界にその身を置く『紫雷の眠り姫』コリウスとなったのだ。
独白が終わる。
その瞬間、コリウスの身体が再び浮かび上がる。
戦闘が再開した。
コリウスの体力がどんどん減っていく。
そして、それに比例するように攻撃も
しかしそれは主人公を狙うでもなく、もちろんグローリーを狙うでもなかった。
ステージ全体へのランダム攻撃。
だが、だからこそ回避しにくい。
攻撃の警告を
目視で確認し、一瞬で反応しなければ死ぬ。
だが、それも長くは続かないはずだ。
コリウスの体力は刻々と
だが、彼の反射神経はそこまで高くない。
すでに、2撃をまともに食らい、死んだ。
確実な復活手段はこれでなくなった。
先ほどの猛攻を防げたのはただ耐えるだけであり、ただ操作をするだけだったからだ。
グローリーがコリウスへと攻撃する。
彼女の体力がみるみる内に減っていき、
赤い線が彼を貫く。
彼は回避でそこから抜け出した。
しかし避けた先にも
あと一撃を食らえば彼は死ぬ。
だが、その前にグローリーの攻撃が間に合った。
コリウスの残り体力では彼女の攻撃は耐えられない。
しかしこのゲームには一つのルールがあった。
ボスにだけ存在する食いしばり。
彼女は体力を1だけ残して耐えた。
瞬間、彼は
「60%を引いたか……!」
『
だが2度はないだろう。
そしてこのボスは持続ダメージによっては死なないらしい。
体力がミリから下がらない。
攻撃を加える必要がある。
グローリーの攻撃には数秒のクールタイムがあり、それをまてば彼は死ぬだろう。
彼はグローリーが近くに来るコマンドを入力した。
そしてボスへと駆け出す。
彼の
だが、一撃を加えられれば倒せる。
目の前に赤い線が現れるが、彼はあえてそこへ突き進んだ。
『不知火の肉体』は
一見して強そうに見えるこの能力だが、一つだけ欠点が存在する。
自動発動ではないのだ。
つまり、死に至るような攻撃を受ける直前にコマンドを入力しなければ発動はできない。
これがピーキー。
しかし彼は熟達した操作によりそのデメリットを
彼に扱わせれば、その能力はただの移動系能力へと
彼の前に現れた
そして、一瞬にしてさらに前へ近付いた。
ついに、彼はコリウスの眼前へ
彼に赤い線が刺さる。
既に攻撃のモーションに移った彼は、回避行動を取れない。
彼が剣を振るうのが先か、
一瞬早かったのは
だが、それは防がれる。
魔法少女グローリーには体力という概念が存在しない。
だが、当たり判定は小さいながら存在する。
そして、彼はコリウスへと剣を振りかぶった。
コリウスの体力バーが消え去ったのを見て、
ムービーが始まる。
『ニシキちゃん……。死んじゃ嫌だよ……』
画面の中で変身を
だが、彼は
『ユウちゃん……、違うよ……』
『なにが……!』
彼女は死ぬべきなんだ。
それが正しいあり方なのだ。
『私は抗えた』
だが抗おうとしなかった。
『私がこうなったのは不可抗力じゃない』
彼女の自由意志によって
『自由には責任が
その責任を果たす時が来たのだ。
『だから私は……』
不可抗力を探すのだ。
それは誰からも責任を追及されず、自分でさえ納得させることができる。
仕方がなかった、と。
『ごめんね、ユウちゃん。私の勝手に巻き込んで……』
『嫌だ! 嫌だよ……! 責任を果たすために死ぬなんて……、そんなのおかしいよ!』
『ユウちゃん……、多分あなたには理解できないよ』
『なんで……』
『それがあなたの美徳だから』
誰にでも分け
彼女は普通の親から普通の教育を受け、普通に成長し普通の女子高生になった。
少し強い魔法が使えるものの、その精神性はただの優しい女子高生だ。
だからこそ、決して分かり合うことはできない。
『私は責任を果たすために死ぬんじゃない』
そう、責任を果たす時が来たから死ぬのだ。
『私は責任から逃げるために死ぬ』
人の精神はそう簡単には変わらない。
『怠惰な私は怠惰に死ぬの』
だから彼はいつでも死にたがっている。
自由意志によって楽な方に流されるように生き、その責任は彼が常に負っている。
『だからもう……、構わないで……』
その涙がなにを示しているか、彼にはよく分かった。
『ニシキちゃん……』
『ユウちゃん……、死にたくないよう……』
『ニシキちゃん……!』
だがもうどうしようもない。
死ななければ辛い現実が待ち受け、だが死ぬのが怖くない訳でもない。
彼女は
『わ、私が、私があなたの責任を果たすから……』
生きて、その言葉を
彼女はただ号泣し、その場に座り込んだ。
主人公は泣く彼女を見ていることしか出来なかった。
しばらくで涙が
そこで彼はセーブをし、ゲームを閉じた。
時刻は12時前。
5時間近くもやっていたらしい。
彼は昼ごはんの準備を始めた。
お湯が湧く様子をぼうっと見ていた
今日も今日とてカップ麺だ。
お隣さんのおすそ分けがあるため、楽に
そこまで考えた所で、今日はおすそ分けがないことを思い出した。
お湯を入れ、3分ほど待った。
「いただきます」
その味は
努力の味だ。
これを
だから彼は
彼の怠惰が浮かび上がるようで、どうにも気分が悪くなる。
しかしどれだけ彼が不愉快になろうとも、舌に存在する知覚器官は
それがさらに不愉快だった。
食べ終わった彼は、気分転換に散歩へ行くことにした。
少しブカブカな服を来て、行く先も考えず扉を開いた。
道を歩いていた
本日は12月22日。
クリスマスの3日前だ。
彼はお隣さんにプレゼントをあげるべきか考え、おすそ分けも貰っているのだから少しくらいはお返しをするべきだと結論付けた。
プレゼントと言っても、何をあげればいいのか彼には分からない。
なので、商店街で売っていたクリスマスプレゼント
福袋のように、中身が分からないタイプのプレゼントだ。
これならばどんな物をあげようと彼が責任を追及されることはない。
ランダムだからだ。
彼は確率が好きだ。
どんな結果が出てもそれは不可抗力だからだ。
もちろん、嫌な結果が出れば彼は不愉快になるだろう。
だが、責任を追及されることはない。
その一点だけで彼は確率をしばしば頼る。
仕方がなかったと思うために。
家に着いた
ゲームは
仕方がないので彼は『逆瞑想』を始めた。
妄想の世界に身を置き、ただ現実から
それが『逆瞑想』だ。
ただの現実
だがそれでも彼は『逆瞑想』を続ける。
それもまた仕方のないことなのだろう。
そうしてその日は終わった。
翌朝、彼はいつもの様にチャイムの音で目を覚ました。
時刻は8時過ぎ。
昨日とは打って変わって普段より遅い時間だ。
玄関を開けると、いつものようにお隣さんが立っていた。
しかしその顔は暗く、疲れている様子だ。
「おはようございます……。
「お、おはよう、ございます」
疲れていることについて聞いていいのか聞かない方がいいのか彼には分からない。
なので、クリスマスプレゼントを渡して逃げることにした。
「あ、これ……。そ、粗品ですが、ク、クリスマスのプレゼント、です。ちょ、ちょっと早いですが……」
それを見たお隣さんは目をパチパチとし、疲れを吹っ飛ばしたかのように笑顔となった。
「本当ですか!? 嬉しいです!」
「ま、まあ、そこまで喜ばれる物は、入ってい、いませんが……。それ、商店街の
「気持ちが嬉しいんですよ、
「は、はあ……」
「開けてもいいですか?」
「も、もちろん」
彼女が
彼自身、中身を知らないため少しワクワクしている。
中から出てきたのは赤と緑のマフラーだ。
所々で
「マフラーですよ!
「べ、別にしなくても……」
「いや、します!」
お隣さんのテンションが高い。
それほどまでにマフラーが欲しかったのだろうか。
だが、ここまで喜ばれるなら渡してよかった。
彼はそう思った。
その日の夜、
電球の寿命が来たのだろうか。
大家に連絡するのは面倒であり、まだしていない。
そうしていると、玄関のチャイムが鳴った。
お隣さんだろうか。
しかし何かが変だ。
何か言い争うような声も聞こえる。
知らない男の声がする。
だが、仕方がないので扉を開けることにした。
「おい、このマフラーを
扉の前にいたのはチャラそうな男だった。
その手には緑と赤のマフラーが握られていた。
彼は
「えっと……。あ、あなたはだ、誰ですか……?」
「質問をしてるのはこっちなんだよ!! てめぇは疑問も持たずにただ答えればいいんだ!!」
「え、えっと……、彼は私の彼氏なの」
男の変わりにお隣さんが返事をした。
どうやらお隣さんの名前は
「あ、はい……。そ、それを
そう答えた瞬間、彼は床に倒れ込んでいた。
殴られたのだと遅れて気付く。
そのまま男が馬乗りになって彼を殴り続けた。
お隣さんが何か叫んでいるのが耳鳴りの中で聞こえた。
抵抗しなければ死ねるだろうか。
彼はそう思い
しばらくすると、サイレンの音が聞こえてきた。
お隣さんが呼んだのだろう。
男は舌打ちをした後に逃げ出した。
彼は
彼はお隣さんの手を
「な、なんで……」
しかし止めた所で彼は力尽き、気絶した。
彼は救急車によって運ばれ、治療を受けた。
そこまで重傷ではなく、入院はしなかった。
彼がお隣さんから話を聞いた所、どうやら彼女にはDV彼氏がいることを教えられた。
それがあの男なのだということも。
普段から身体的にも精神的にも暴力を振るわれており、束縛も厳しいと言う。
あの日、マフラーを貰ってそのまま着けて歩いていた時に、男に見つかり、追及されてしまったそうだ。
男は警察に捕まり、彼女も男とは別れたらしい。
それが事の
「そ、そっか……。た、大変だったね……」
「い、いえ……。巻き込んでしまい、本当にすみません」
「き、気にしてないからい、いいよ」
「そ、それで……、その……」
彼女は目を泳がせる。
2度目だ。
何か言い出しづらいことがある目。
「ど、どうしたんで、すか?」
「うーーーーん……、またいつか言います!」
「???」
「それまでこの気持ちは
「??? ま、まあ……、な、なんでもい、いいけど……」
そうして2人は解散した。
彼はこの機会で死ねると思った。
殺されるのは仕方がないことだ。
彼自身の努力ではそれを防げない。
だから、まだ死なないのか、と思いもした。
そしてその日以来、彼に会った者は誰一人としていなかった。
とある場所に
その
多くの
どうやら目的地に到達したようだ。
しかしなぜだろう。
誰もが落ち着きなく動き回っている。
そこでその
まったく。
人間の家はいつもそうだ。
そこで、その
人間がいる。
外に生きた人間がいる。
その人間は、
終わり
規格外の男 大自然の暁 @gusududurisyddufj
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