フワリと軽く、ギュッと濃い女が"俺の全てにしたい女"
アレクサンドル
第1話 いや、そのシチュはトイレ案件だって
始まりはただの中2の頃。
「……」
俺はただ魅了されていた。
「
「こ、小隅さん、先生が呼んでるよ」
「こーずミン!!」
まぁ、顔が整っていて、明るくて、喋れば面白い。
そんなどこにでもいる俺の嫌う陽キャの部類の女。
「あ、おはよっす」
でも、お淑やかさも持ち合わせて優しいんだこれが。
中2で同じクラスになった
身長165cm程で背が高く、スタイルが良く、ポニテにした黒髪は艶やかで思わず、匂いを嗅ぎたくなってしまう。凹凸がハッキリしており、思春期真っ盛りの男子どもが妄想しながら下半身をウズウズさせてジットリとした視線を向けていても大して気にしない。
いや、思わず抱きついてしまえばそのまま……嘘、妄想が過ぎたわ。
「
で、外見完璧主義だけど内面は優しさ以外……。
「ん?それ、一昨日提出の宿題じゃね?まだ出してないの?」
「こ、これだけだからっ!!気にすんなし!」
見栄っ張りのプライドがあり、何事も軽くその日暮らし、お察しの通り頭はそこまで言い訳ではない女。実際、付き合って別れてを8度以上はしてると聞いたことあるし。
「放課後居残り確定、てかコズミンの将来が心配だわー」
だって──。
「あ、ほら。堀田がこっち見てる。堀田もそう思うよね?」
「!!」
俺、
「えー、異性に言われるの傷つくわー」
このフワリと軽い、小隅大桜に片想い中だから。
ただ、よく中学生がする妄想上の上での片思いだ。
外見がよくて、自分のような陰キャ男子でも優しくしてくれて、ひょんな拍子で一緒に抱き合うとかそんなしょうもない想像が一番しやすいのが小隅だっただけ──。
◇◇◇
「おーい、正敏くん?」
「分かってる。分かってるから」
「何が分かってる?」
昼休みに俺は中学から親友になった、
「エロい女子と話してしまったことをお前は許せないんだろ?」
「じゃあ、"提供"よろしくー♡気に入らなきゃ俺とデートしろ」
「キモ」
◇◇◇
山門とは小学校から一緒だ。でも、小学生の時は話したことがなかった。だが、中1の頃4月の体育の時、体育館で──。
「ねぇ、女子達の上体起こし見た?」
「え?」
偶々、隣にいた俺に山門は話しかけてきた。
ピヨピヨな新中1にも関わらず、山門はもう出来上がっていたんだ。
「1500m走なら見たよ?」
かと言う俺も同じ類のムジナ。
「誰?」
「あ、俺は堀田正敏」
「違う違う、どの女子が揺れてた?」
とまぁ、コイツとの出会いはこんなだから一番記憶に残ってる。
◇◇◇
そんなこんなで提供とは、オカズのこと。デートとは家で、ゲームしてアニメグッズを買いに出かけること。よくもまぁ飽きずに繰り返してるよ──。
「じゃあ、放課後な?」
「はいはい」
俺の日常はこんな普通の男子中学生の生活を送っていた訳なんだ。特に頭が良すぎる訳でもなく、顔も悪い訳でもなく(勝手な自認)、オドオドはするけど基本的に優しさがある男子ってな訳だ。
これが高校、大学でも続く、そう思っていた。
あの感情に目覚めるまでは──。
◇◇◇
「……はぁー、ダリぃ」
放課後。俺は日直で掃除当番だった。一緒の当番だったやつは忘れて帰りやがった。ザケんな。
とりあえず、ムカムカしながら箒で床を掃いて、机を正していた。
「……」
今は中2の1月。気温は一桁台で、冷えるこの頃。
「はぁー」
今は教室で一人きりだった。だから、なんの気まぐれか俺は屈んで窓に息を吐きかけていた。白く淡く、窓が染まっていく。
「それ」
キュッ、キュッと窓から音がする。
俺は自分の名前をカタカナで書いていた。
「あ、堀田?」
「!?」
その時だった。
完全に油断して遊んでいた俺の背後から声を掛けてきた女子──。
「……こ、小隅さん?」
そう、俺の片思い中の小隅大桜が後ろにいたんだ。
キョトンと入り口の前に立ち、俺を見つめてくる。
「……あ、窓にハーってするやつやってるでしょっ?」
「あ、あ──」
やべぇ、死ぬほど恥ずいって、中3にもなる男子がこんなことやってるなんて流石に引かれるよな?やべぇ、嫌われたくな──。
「待って待って!!消さないで!!」
小隅は俺が焦って証拠隠滅しようとしたのを止めた。そして、小隅は俺の隣に小走りで来て屈んだ。
「え、え?」
なんだ?何この展開?俺の隣に片思い美少女が座ってきた?やべぇムラムラ……や、ド、ドキドキする──。匂いだけでイけるって!!
「はぁー」
「!」
気づけば小隅は俺の名前が書いてある下のスペースに息を吐いていた。
「よし!」
「……」
察すれば分かる通り──。
「良い記念だね!!」
こう言われた。
窓ガラスには「ホリタマサトシ」、「コズミタオ」と書かれていた。
「もうこのクラスともお別れだし最後にこういうのしてみたかったんだよねー」
そう言ってスマホでカシャりとその部分を撮る。因みに校内でのスマホの使用は原則禁止。
「あ、あの、小隅さん」
「ん?」
俺は何を言い出せば良いのか分からない。分からないが──。
「何故、俺と?」
小隅にシンプルな疑問をぶつけた。
「……」
真顔でこっちを見つめてくる小隅。いや、女子にこんなガン見されたの初めてなんだよな〜。やべぇ、もう汗がかなりヤバいって〜。
「堀田は黙ってくれてるし共犯にしても良いかなって」
返された言葉はごく当然と言った半分上から目線の答えだった。
「堀田」
色々な意味で立ち上がっていた俺。
「内緒、だぞ♡?」
小隅は俺の耳元に口を寄せて、こう吐息を吹きかけてきたんだ。
「じゃっ!」
テテテっと走って帰っていく小隅。
「……」
俺は暫く動けなかった。
だって……。
「トイレ行こ」
囁かれた時に小隅の胸が腕にモニュッと触れて、髪の毛が鼻についただけでなく、体全身が俺にくっついたんだよ?
極め付けは──。
『共犯にしても良いかなって』
上から目線なこの発言が凄い……来るわ──。
この日より、俺がフワリと軽い女、小隅大桜に強く構われたいと思ってしまったんだ。優しく囁かれて、冷たくあしらわれて……いや──。
(支配されて、支配したい)
全て欲しい。
こんなくだらない事で世界が変わってしまった。
「まぁ、今はトイレ」
恐らく、体が触れたことについては意識してない。ただ、無邪気に俺とのこれを思い出の一環にしたかっただけ──。
マジでゾッコンしちまったな。
でも、どうせ実現する訳ないんだろう──そう、思ってたんだが、高校になって俺は小隅大桜との関係は沢山の意味で深くなるんだ。
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