第2話 この女を高校で見るとこうなのか
「じゃあ、行ってきます」
時は1年以上が経った。
高1になった4月のこと。
気温は暑くなく程よい感じ──。
「行ってらっしゃーい」
黒のブレザーに身を包んだ俺、堀田正敏は家を出ようとする。
「あ、待って待って」
そんな時に母さんの
「ん?何?」
髪の毛を揺らして母さんは俺に近寄る。
「ナデナデ♡」
「バカにすんなよババァ」
ニヤついて手を差し出してくるので、そう吐き捨てて俺は家を出る。
◇◇◇
俺が高校生になろうと社会人からすれば知っことのない話──つまり、春はいつも通り過ぎてゆく。
「あ、マサくーん」
「おはよ」
で、高一になっても思春期の男子高校生の顔は変わらない。
それを最も体現する男児、
「朝はママからナデナデされてきたかなー?」
「マジでヤッちまうぞ?」
「っっえ──」
「古典的なボケをした瞬間、お前が
その言葉の破壊力はとてつもないもんだ。
山門の1,2を争う黒歴史だからだ。
つまり、同級生の女子に"提供"を求めるというトンデモ行為を行なったんだコイツは。
「いやー、今日から正式に高一か」
てな訳で当たり障りもない、おもんないことをコイツは呟いた。顔から温度がなくなってんな。
「……」
そうだ……高一だ──。
ふと、俺の思い至ろうとした思考を掻き消すようにホームへと電車が迫る。
◇◇◇
「できれば堀田と同じクラスが良かったんだよなー」
高校の最寄駅に降りて、俺と山門は歩いていた。
「"できれば"程度かよ」
俺は山門の言葉に苦笑する。
「同じ中学でここに入学した友達とハッキリ言えるのはお前だけだよ?でも、新たな出会いを求めるという意味では別でも良いかなって」
「新たなってのは女?」
「だったら俺はお前に話してねーよ」
俺達の会話はいつも気づけばこの異性の話題に辿り着いてしまう。本当に飽きないもんだと思う。そんな会話をしている内に──。
「校門に先に入った奴が500円な」
「しねーよバカ」
俺達の入学した高校、私立緑川高校へと到着する。私立緑川高校は中高一貫校で、普通科、特進などなどとコースが色々ある所。俺の通う所は普通科だ。偏差値は平均を超えてるくらいで特段頭が良いとかではないとこ。
「さて、運命のクラスはどこか──」
山門が呟きながら同時に校門前で立ち止まった。
で、俺は続いていたノリがウザいので無視してそのまま突き進む。
◇◇◇
これから三年間通う高校の校舎内はそりゃもう中学とは違う。中高一貫校も混ざってるものだから、6階建ての本校舎と3階建ての別校舎もある。そこに陸上トラック、サッカーの芝コート、野球のグラウンドとか混ざってもうデカ過ぎる訳だ。
で、それだけじゃ治らずカフェテリアと自習スペース、図書室……で、バスケ部、バレー部用の体育館とバドミントン、卓球用の体育館などなどとある訳だ。トイレも綺麗で殆どの校舎内が土足で大丈夫な場所な訳だ。
とりあえず校舎の説明は終わる。
「さて、普通科に俺とお前の名前が存在するか……」
入学式の時にクラス分けは発表されていた。でも、再確認として名前が校舎前の広場に複数のホワイトボードを使って張り出されている。
「なきゃ、不法侵入の変態だわ」
山門のあえてのボケに俺は毒づく。そして、多くの新一年が溜まる本校舎の入り口前で壁に貼り付けられた名前を探す。
いや、緊張する。ここにいる誰かさん達と俺は同じクラスになってるなんだよな──昨日は特に顔とか見てないし。
「あ、あった!!」
山門が声を上げた。
「あ、俺も見つけた」
俺達は拳を合わせる。
「暫しの別れ」
「バーイ──っっ」
つまり、別々のクラス。俺が一年B組で山門が一年A組だ。隣な訳だけど──昨日の時点で知ってるノリを繰り返す寒い俺達。
「……てか、お前のクラス"あの人"いんだよな」
ふと、山門が俺に話しかける。
「え、誰?」
こうはぐらかすが初めから気づいていた。てか、山門には悪いが俺は初めから山門ではなく、"そいつ"と一緒になることを祈ってた。だから、結構ホッとしている。
「良いよなー?"同中の女子"と同じクラスだなんてよー」
「……おう」
そう言葉少なに俺は口元を緩めていた。
◇◇◇
「この後、カラオケなー」
「そういえば昨日の写真見た?」
校舎に入って俺と山門はクラスへと向かう。
やっぱ高校となると会話が一気に大人びてるよ──。
楽しそうに大きな笑い声を聞くと共に胸がビクッとなる。
「じゃあ、またな」
そして、山門も居心地悪そうな顔して俺より手前の教室に入っていく。
「おう……」
一歩が重い……手汗が止まらない──。
できれば先には来ていないでほしいと思う。
だって──。
「……あ!」
俺は教室に入った──それと共に、後ろの入り口から離れた一番奥の窓際の席に座っていた"ある女子"が俺に気づいた。
「あ、お、おは……よ」
一応、あれから1年以上……仲は少し深まったとはいえ、やはりまだ上手く声が出ない──。
「おはよ!堀田」
俺のような陰キャに明るく、無邪気な笑顔で近づき、挨拶をしてきた女子──。
「一緒のクラスだったもんね。これからヨロ!」
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