第12話「新しい時代のプロデューサー」

 王国を救った英雄「原石の輝き」と、そのリーダーである相馬司の名は、瞬く間に国中に知れ渡った。

 国王から組織改革の全権を委任された司は、早速、その手腕を発揮し始めた。彼が最初に着手したのは、もちろん、腐敗の温床となっていた宮廷魔術師団の解体と再編だった。

「これより、宮廷魔術師団の人事評価制度を刷新する。評価基準はただ一つ、身分や血統ではなく、本人の才能と実績のみとする」

 司が玉座の間で高らかに宣言すると、旧貴族派の大臣たちから、一斉に非難の声が上がった。

「馬鹿なことを! 由緒正しき貴族の血を軽んじるというのか!」

「平民どもに、国の重要な役職が務まるものか!」

 だが、司は全く動じなかった。

「務まるかどうかは、俺が見極める。あんたたちの時代は、もう終わったんだ」

 司は、自らの【才能鑑定】スキルを最大限に活用し、王国中の人材を洗い出した。宮廷内に留まらず、地方の村や、果てはスラム街にまで足を運び、埋もれていた才能を次々と発掘していった。

 農民の息子だが【大将軍】の才能を持つ少年。

 商人の娘だが【宰相】の才能を持つ少女。

 これまで、身分のせいで陽の目を見ることのなかった「原石」たちが、司によって見出され、その才能を開花させるための最適な環境を与えられていった。

 もちろん、その改革は多くの抵抗と反発を生んだ。旧体制にしがみつこうとする者たちが、様々な妨害工作を仕掛けてきた。

 だが、そんな時、司のそばには常に最強の仲間たちがいた。

 リョウガの剣が司を狙う暗殺者を薙ぎ払い、ミリアの魔法が卑劣な罠を打ち破る。

 そして、新たにパーティーに加わったレオとアンナもまた、目覚ましい成長を遂げていた。

 司は、まず彼らの自己肯定感を取り戻すことから始めた。

「レオ君、君はもう何も恐れることはない。君の後ろには、俺たちがいる。君は、君が守りたいもののために、その盾を構えればいい」

「アンナさん、君の魔力は、破壊のためだけにあるんじゃない。多くの人を守り、救うための力だ。制御することを恐れるな」

 司の的確な指導と、リョウガやミリアという最高の仲間からの刺激を受け、二人の才能は、あっという間に開花の時を迎えた。

 レオは、あらゆる攻撃から仲間を守り抜く、王国最強の【聖騎士】となった。

 アンナは、天変地異すら引き起こすほどの、絶大な力を持つ【大魔導士】へと覚醒した。

 五人のSランクの才能が集結したパーティー「原石の輝き」は、もはや敵なし。彼らの存在が、司の改革を推し進める、何よりの力となった。

 数ヶ月後。

 オルデン王国は、見違えるように活気を取り戻していた。

 才能ある者が、その出自に関わらず重要な役職で活躍する。その結果、政治は安定し、経済は潤い、軍事力は飛躍的に向上した。

 ガリア帝国も、新生オルデン王国の力を見て、二度と手出しをしてくることはなかった。

 一方、司に追放され、権威を失ったバルドをはじめとする元宮廷魔術師団の幹部たちは、どうなったか。

 彼らは、全ての地位と財産を剥奪され、歴史の影へと消えていった。ある者は故郷の領地で細々と暮らし、ある者はプライドを捨てきれず、無様に野垂れ死んだという。彼らの名を、覚えている者はもはや誰もいなかった。

 ある晴れた日の午後。

 司は、王城のバルコニーから、活気に満ちた王都の景色を眺めていた。

「すっかり、いい国になったじゃないか」

 隣に立つリョウガが、満足そうに言う。

「いいえ、まだまだです。これからですよ」

 ミリアが、静かに微笑む。

 後ろには、レオとアンナの姿もあった。彼らの顔には、もう以前のような暗い影はない。

「司さん。俺、司さんに出会えて、本当によかったです」

 レオが、心からの感謝を口にした。

「そうね。あんたがいなかったら、私たち、今頃どうなってたか」

 アンナも、素直な気持ちを言葉にした。

 仲間たちの言葉に、司は少しだけ照れくさそうに笑った。

 人事コンサルタントだった前世。多くの人間のキャリアをサポートしてきたが、どこか満たされない思いがあった。それは、あくまで会社の利益のための仕事だったからだ。

 だが、今は違う。

 自分の目で才能を見つけ、自分の手で育て、彼らが輝く姿をすぐそばで見ることができる。

「プロデューサー、か。悪くない仕事だ」

 司は、心の底からそう思った。

「さあ、みんな! 次の仕事だ! まだまだ、この世界には、俺たちを待っている原石がたくさんいるはずだ!」

 司がそう言うと、四人の仲間たちは力強くうなずいた。

 追放された無能な鑑定士から、救国の英雄へ。

 そして、新しい時代のプロデューサーへ。

 相馬司と、彼が育て上げた英雄たちの伝説は、まだ始まったばかり。

 彼らの「原石の輝き」が、これから先、この世界を、そして未来を、どこまでも明るく照らし続けていくのだろう。

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