番外編2「凡人はつらいよ」
(フィン視点)
俺の親友、リオンは天才だ。そして、超がつくほどのお人好しである。
そんな彼が、あの「鋼鉄の部長」こと、ミカエル部長の直属の部下になったと聞いた時は、正直、終わったと思った。案の定、リオンは毎日子犬のようにしょんぼりして帰ってくるし、部長のパワハラは日に日にエスカレートしていく。俺は来る日も来る日も、居酒屋でリオンの愚痴を聞きながら、「いつかあの部長のコーヒーに下剤入れてやろうな」と、物騒な慰めを言う日々だった。
ところが、だ。
あの庁舎襲撃事件の日を境に、全てが変わってしまった。
パワハラ氷塊部長は、どこかの星に帰ったらしい。代わりに現れたのは、過保護で、心配性で、リオンのことしか目に入っていない、激甘スパダリ(仮)だった。
最初のうちは、部長も反省したのかな、くらいに思っていた。だが、どうも様子がおかしい。
リオンの椅子に高級クッションが置かれ、ランチは三ツ星シェフ監修みたいな弁当になり、残業は親の仇のように止められる。ついには、リオンが少し咳をしただけで、地球の終わりみたいな顔をして医務室に担ぎ込もうとする始末だ。
「……なあ、リオン。あれ、本当に部長か? どっかの星人に乗っ取られてないか?」
「僕に聞かないでよ……」
頭を抱えるリオンの顔は、満更でもなさそうに見えるから、さらにたちが悪い。
俺は、ベータだ。ごく普通の、凡人である。
アルファとかオメガとか、運命の番とか、正直、おとぎ話の世界だと思っていた。
だが、目の前で繰り広げられる、常軌を逸した愛情表現(という名の奇行)を見せつけられては、認めざるを得ない。
「ああ、これが、運命の番というやつか……」と。
二人の周りには、常に甘ったるいオーラが漂っている。書類の受け渡しをするだけで、指先が触れただの触れないだので、部長は顔を赤らめ、リオンは俯く。痴話喧嘩でも始めようものなら、情報部の気温が絶対零度まで下がり、業務に甚大な支障をきたす。
一度など、俺がリオンと少し親しげに話していただけで、部長から殺気にも似たフェロモンを浴びせられ、三日ほど体調を崩した。理不尽にもほどがある。
それでも、だ。
あのミカエル部長が、リオンのために必死になっている姿を見るのは、悪くない。
帝国の闇に立ち向かうと決めた二人の姿は、正直、めちゃくちゃ格好良かった。親友が、自分の能力を存分に発揮して、愛する人と共に戦っている。その姿は、誇らしかった。
まあ、事件が解決した後も、部長の暴走が収まることはなかったわけだが。
今では、皇帝陛下の側近という、とんでもない地位にいるにも関わらず、彼はリオンのこととなると、途端にポンコツになる。
「フィン調査官。少し、いいだろうか」
ある日、俺は部長――いや、ミカエル様に呼び出され、個室で真剣な顔で相談をされた。
「リオンの誕生日に、サプライズを計画しているのだが、何がいいと思う? 星を一つ、プレゼントしようかと思っているのだが」
「スケールがでかすぎます。普通に、アクセサリーとかでいいんじゃないでしょうか」
「なるほど……。では、帝国の国宝のネックレスを……」
「重すぎます! もっと、こう、心のこもった手作りの……」
ああ、凡人はつらいよ。
だが、二人が幸せそうに笑っているのを見ると、まあ、いっか、と思えてしまうのだから、俺も大概、お人好しなのかもしれない。
末永く、お幸せに。ただし、俺を巻き込むのだけは、ほどほどにしてほしい。切実に。
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