エピローグ「陽だまりの在り処」

 ゼイド様と本当の番になってから、三年が経った。

 俺たちの毎日は、穏やかで、幸せに満ちていた。


「リアム、あまり無理をするな。重いだろう、俺が持つ」

「大丈夫ですよ、ゼイド様。これくらい、平気です」


 庭で洗濯物を取り込んでいた俺の元へ、ゼイド様が慌てたように駆け寄ってきて、洗濯カゴをひょいと取り上げる。

 相変わらず、彼は俺に対して過保護すぎるくらい心配性だ。

 でも、その心配そうな顔を見るのも、俺は好きだった。


「リアム!パパ!」


 庭の向こうから、小さな影がてちてちと走ってくる。

 ゼイド様と同じ白銀の髪に、俺と同じ色の、柔らかな茶色の瞳を持った、可愛い男の子。

 俺たちの愛の結晶、フィンだ。


「フィン、走ると危ないぞ」


 ゼイド様が、普段の厳格な声とは違う、父親の優しい声で注意する。

 フィンは、ゼイド様の足元にたどり着くと、えへへ、と天使のように笑った。


「パパ、あのね、お花、見つけたの!」


 フィンが小さな手で差し出したのは、一輪の白い花だった。


「まあ、綺麗だね。ありがとう、フィン」


 俺が花を受け取って微笑むと、フィンは満足そうに頷いた。

 ゼイド様は、そんな俺たちのやり取りを、たまらなく愛おしそうな目で見つめている。

 そして、フィンをひょいと軽々と抱き上げると、その頬に自分の頬をすり寄せた。


「お前は、リアムに似て、花が好きなんだな」

「うん!リアムと、パパも、だーいすき!」


 子供の無邪気な言葉に、俺たちは顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。

 なんてことのない、日常の風景。

 でも、この何気ない一瞬一瞬が、俺にとっては、かけがえのない宝物だった。


 あの灰色の世界にいた頃の俺には、想像もできなかった未来。

 温かい家庭。愛する夫。そして、可愛い子供。

 全て、ゼイド様が俺を見つけ出してくれたから、手に入れることができた。


 夜。

 ベッドの中で、眠っているフィンを真ん中にして、俺とゼイド様は、そっと手を繋いだ。


「……幸せか?」


 ゼイド様が、囁くように尋ねてくる。

 俺は、こくりと深く頷いた。


「はい。……すごく、幸せです」


 俺は、ゼイド様の方に体を寄せて、彼の胸にそっと耳を当てる。

 とくん、とくん、と聞こえる、力強くて、優しい心臓の音。

 この音が、俺を安心させてくれる。


「俺もだ」


 ゼイド様は、俺の髪を優しく撫でながら言った。


「お前と、フィンがいる。それだけで、俺の世界は満たされている」


 俺は、顔を上げて、彼の唇にそっとキスをした。


「愛してます、ゼイド様」

「ああ。俺も愛している、リアム」


 もう、偽りの言葉じゃない。

 心からの、本当の愛の言葉。


 かつて、俺の世界は灰色だった。

 でも、今は違う。

 ゼイド様という光が、フィンという太陽が、俺の世界を、どこまでも明るく、温かく照らしてくれている。


 俺の陽だまりの在り処は、ここだ。

 愛する人たちの、この腕の中なのだから。

 俺は、込み上げてくる幸せを噛み締めながら、そっと目を閉じた。

 これからも、この温かい場所で、俺たちの物語は、ずっと、ずっと続いていく。

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辺境の村で虐げられていた「出来損ないΩ」の僕。帝国最強の冷徹騎士に「偽りの番」として買われたら、なぜか極上の愛と食事を与えられ溺愛される 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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