未踏の聖地(を、あの最推しと)巡礼中(⁉)

@je3m8xK1

第一話 ハプニング?なにそれ美味しいの?

 ついにこの日がやってきた。ナマケモノの化身たるこの僕が(いや、これではナマケモノに失礼か)、嫌で嫌で仕方がなかった短期バイトをつつがなくこなせたのは、他でもない。今日より始まる一人修学旅行(なんて悲しい響き…)を心待ちにしていたからだ。ああ、そうだとも。どれだけ待ち望んだことか…。その意気込みたるや、並大抵のものではなかったはずだ。それなのに、僕というやつは全く…。我ながら、呆れて物が言えない。

 何重にもセットしておいたアラームの追っ手を、それは見事にくぐって難を逃れた(?)僕は、本日二度目の朝を迎えたのだった。



「これって、もう一種の才能だよな…」

などと妄言を吐いていたところ、僕はホームへと続く階段につまずき、奈落の底へと落ちかけた。というか、本当に落ちた。

「っ……いってえ…」

用意周到に詰め直した荷物が功を奏し、なんとか致命傷は免れたものの、やはり痛いことに変わりはなかった。そのうえ、周りの視線も痛い。もちろん、物理的にだ。これがアニメの世界なら、可憐な美少女がどこからともなく颯爽と現れ、主人公である僕(せめてもの現実逃避だから許して…)に優しく手を差し伸べてくれるはずだけれど、そんなはずもなし。触らぬ神にたたりなし。

 気を取り直して立ち上がり、僕は再び階段を上っていく。言わずもがな、同じてつは踏まない。ここにレールはないけれど。それこそ、線路内に侵入してしまえば、ここで旅が打ち切りとなりかねない。それはなんとしても避けたい。韻を踏みながら電光掲示板を見上げると、次の発車時刻は9:24とのこと。元々乗るはずだった車両の乗車券を悲しげに眺めつつ、至極無駄な出費に、人知れず大きなため息を吐いた。


 

 大丈夫だ。問題ない。ああ、そうだとも。三時間の遅延など、痛くもかゆくもない。『旅の恥は掻き捨て』という言葉もあるくらいだし、ほうきで集めてその辺に…は流石にまずいので、心の奥底にでも仕舞っておくとしよう。

 辺りを綺麗に掃除したところで、ほっと一息つく。車窓に映る景色の速いこと速いこと。ああ、胸が躍る。光の速さで移動する技術(?)に感謝しつつ、待ち時間でゲットしてきたクッキーを口に放り込む。もし遅刻していなければ、この芳醇な香りを楽しむことも、隣に素敵な女性が座ることもなかっただろう。ぼた餅なんて今日び聞かないが、神さまはちゃんと見てくれている。これで無事、度重なるハプニングは帳消しとなった。

 

 溢れ出る愉悦に浸りながら、僕は数奇な旅路に思いを馳せた。

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