外来種『ゾンビ』〜ゾンビゲー世界にTS転生した俺が、ゾンビに噛まれた直後に異世界転移した結果……異世界が大変なことになりました〜

廃棄工場長

第1話 出落ち



 ――人として死にたいのであれば、足掻け。そんなキャッチコピーで有名なゲームがある。そのタイトルは、『ゾンビアポカリプス』。

 キャッチコピーやタイトルからも分かる通り、ゾンビが溢れかえっている終末世界を生き抜くサバイバルゲームだ。



 特に決まったストーリーがある訳でもないのだが、各々が自分好みに作った分身アバターが、圧倒的な自由度でゾンビだらけの不自由な世界で試行錯誤で抗っていく。

 そういうのが多くの層に受けて、このゲームは一世を風靡し。ブームが去った後も、根強い人気が残っていて、専用スレや実況プレイ動画も新規のものが挙げられたりしていた・・・・。多分だけど、それは続いているだろう。しかし、今の俺には実際に知る術はない。



 何故なら、肝心の俺自身が『ゾンビアポカリプス』の世界に転生してしまったのだから。性別転換というおまけ付き。しかも前世の記憶を取り戻したのは、今さっき――目の前で今世の両親がゾンビの餌になった直後という最悪なタイミング。

 俺の異世界生活は、しょっぱなから詰んでいるらしい。ゼロどころか、マイナスからスタートだよ。ちきしょう。



 というか、転生先がいくら好きなゲームであるとはいえ、こんな滅びが確定している世界になんか来たくはなかった。どうせ転生するのなら、王道の異世界ファンタジーが良かった。転生を担当する女神様がいるのなら、文句の一つでも言ってやりたいぐらいだ。会ったこともないけど。



 ――等と愚痴を言っても、俺を取り巻く状況が変わる訳でもなく。



「……ァァ……グゥゥ……」

「……ウゥ……アァ……」

「……グルル……グゥ……」



 今世の両親の体が、三体のゾンビによって乱雑に喰われていく。両親は既に事切れているので、余計な痛みを感じていないのは不幸中の幸い――と、この世界では言うことができない。



 この世界――『ゾンビアポカリプス』に出てくるゾンビ達は、某ゲームの傘をシンボルとする企業リスペクトでウイルスを媒介として増えていく。

 つまりお約束の、ゾンビに噛まれた犠牲者はゾンビになってしまう。という奴だ。



 遠からず、今世の両親も不死者達の仲間入りを果たし。計五体のゾンビ達に襲われる。その後は、俺も仲良くゾンビになっていることだろう。完全に死ぬこともできずに、死肉を求める無様な姿を半永久的に晒す羽目になるのだろう。



(――そんな最期なんて、嫌だ)



 だからと言って、人間としての尊厳を守る為に自決を選べる勇気はない。この世界で過ごしてきた八年分の記憶もあることはある。しかし俺の感覚としては、ほんの数分前に命を落としたばかりで、筆舌にし難い激痛に見舞われた直後。

 自分の命が、全てがだんだんと消失していく奪われていく感覚は、二度と味わいたいものではない。



 だけど俺の体は指一本たりとも、まともに動いてくれなかった。俺という人格は生存的欲求に素直に従って逃げ出したいのに、まだ統合仕切っていない『私』の人格が両親の死を受け止め切れずに呆然としていたから。



 十歳にも満たない子供が、こんな狂った世界で突然両親を失う。ゲームの時にはこういう末路は珍しくないが、いざ現実となれば、これほどまでに残酷なことはないだろう。まるで太陽を奪われるのも同然の仕打ち。

 『私』が動けずにいるのも仕方ないが、俺はさっさと安全な場所まで逃げ出したいのだ。なので、必死に体を操作しようとしても、全ては徒労に終わる。



 俺と『私』がそうやって貴重な時間をドブに捨てていると――。



「グゥゥ……」



 ――両親の体に貪り食っていたゾンビの一体の窪んだ眼光が、俺と『私』を見た。呼吸が止まる。心臓の音がやけに大きく聞こえる。冷や汗が止まらない。鳥肌が収まらない。



 元は成人男性であったことが、ギリギリ分かる程度の肉片が残っているゾンビ。ソイツはステレオタイプのゾンビらしく、緩慢な動作で俺と『私』に近づいてくる。

 俺がゲームで何度も見た光景と、『私』が物心がついた時から毎日見ている光景と何の変わりもない。



 万全の状態であれば、『私』のような子供でも、昼間の・・・ゾンビ相手であったら十分に逃げることは可能なはず。そのぐらいにゆっくりなのだ。

 俺もゲームで検証したことがある。



 でも今はその鈍さが、死への恐怖をより駆り立てるスパイスに変じさせる。麻痺した思考がぐるぐると同じ所を巡り、無意味なリソースを消費していく。



「……ウゥ……ァ……」

「……ひっ!?」



 ――気がつけば、いつの間にかソイツは眼前にいた。原型を辛うじて留めている醜い顔が目と鼻の先にある。鼻孔が腐臭に侵されていく。



「あっ……あ」



 まとまもな命乞いの言葉すら吐くことができない。そもそも、ゾンビに言語を理解する知性がないというツッコミは野暮だ。



 ゾンビに押し倒されて、馬乗りされる。劣化したコンクリートの凹凸が、柔らかい背中にダメージを与えてきた。思いの外力が強くて、『私』では逃げ出せそうにない。



(あっ、これ終わったわ)



 ソイツの歯抜けだらけの口が開けられる。俺と『私』を人間として殺す牙が、か細い首筋に突き立てられ鈍い痛みを脳が認識しようとした瞬間。



 ――視界が白い光に包まれてしまった。






――後書き――

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