憎悪の炎は緑色によく映える

@husinsya

憎悪の炎は緑色によく映える

 その日のことは、目に焼き付いて忘れることができない。

 村が燃える、緑に燃える、全てが緑に染まっている。

 人が燃えて、家が燃えて、家族が燃えて、私も燃えて…


 そして、あのツノの生えた化け物が笑っていた。





 魔物と人類が戦い続けるこの世界では、村や街がある日突然滅びることは良くあることだった。

 獣の魔物が群れを成して家畜も人間も食い殺していく。

 虫の魔物が作物を喰らい尽くし人々も喰らい尽くす。

 鳥の魔物が家畜も作物も人も全て食い漁る…

 滅びる理由はいくらでもある。

 だが、その中には異常なものが混ざっている。

 負傷した魔物が復讐のために意図的に襲う。

 娯楽に飢えた魔物が遊ぶために皆殺しにする。

 敵意のない魔物が子供を育てるために狩を教えるついでに滅ぼすなどなど。

 人類からしてみれば理不尽極まりないものもいくつか混ざっている。


「おい、聞いたか?」

「ああ、例の魔物だろ?」


 とある国の酒場で、酒のつまみに噂が広まる。

 どこかの英雄が竜を切り倒した、どこかの国が発明をした。

 どこかの貴族が魔物を怒らせて皆殺しにされたなどネタは尽きない。


「状況から『緑炎姫』の仕業だって話だ」

「ああ、また小さな村を皆殺しにしたらしいな」


 その日の噂もよくある内容だった。

 だが、その噂を探し求めていた存在がたまたまそこにいた。


「すみません、『緑炎姫』について何か知っているのですか?」

「ん?知らないのか?つい最近この辺りにある小さな村を滅ぼしたらしいぞ」

「連絡が取れないからって確認に行ったら、全員死んでたってな」

「その村はどこに?」


 噂話をしていた2人は顔を見合わせる、これは何か訳ありだと気づく。

 話を聞こうとしているのは全身を大きなフードやマントなどで隠した存在だ。

 背が多少低く声が高い、おそらく女性だと言うことはわかる。


「お前まさか、『緑炎姫』を探してるのか?」

「やめとけやめとけ!近づいたら緑の炎で焼き殺されるだけだ!」


 危険だからと警告をする?そうじゃない、復讐に燃える存在が死んでも構わない。

 だが下手に刺激して他の人類に矛先が向いたら困る、それが本心だ。


「迷惑はかけません、知っていることを教えてください」


 顔は見えない、けれどその声には覚悟を感じた。

 2人は考えるが、下手に隠してもいつかは知ることだと判断する。


「この国を出て少し離れた場所に森があるだろ、『緑炎姫』はそこにいるって話だ」

「倒す見込みはないが調査はしている、それがこの国の方針らしい」

「…ありがとうございます」


 その女性らしき存在は礼を告げ、2人のテーブルに酒代らしき金を置いて立ち去っていった。


「…どう思う?」

「大方生き残りだろうが…」


 少し考え、考えるのをやめる。

 顔も知らない存在がどこで死のうと関係ない、それが原因で害があるならその時はその時だ。

 それよりも、2人には大事なことがある。


「おい!新しい酒を用意してくれ!!」

「金はあるぜ〜!」


 置いていったお金がそこそこ高額だったため、2人はたらふく酒を飲むことができた。





 日差しを遮るほど生い茂った森の奥にその根城はあった。

 何度も通っているのか獣道ができており、迷うことなくたどり着く。

 岩壁に突如現れる大きな穴、不自然に掘られたと判断できる洞窟を見つける。


「ここに…」


 洞窟に近づき周囲を調べると、新しい足跡が洞窟内に進んでいる。

 少なくとも何かいる。その何かが目的の相手かどうかはまだわからない。

 気配を消して洞窟に入り進んでいく。

 中はそこそこ整えられており、過去に人の手が入っていたと思われる。

 所々にある曲がり角を慎重に曲がり最奥らしき場所にたどり着く。


『クルルル』


 岩を削り座れるようにしてある台座、周囲に散らかっているなんらかの動物の骨、さらに奥に進む横穴。

 そして、部屋の中央に立っている…魔物。

 一見すると女性と思える体型の存在だが、人ではないとはっきり言える。

 人ではあり得ない2mを余裕で超える身長、土色とも言えてしまう茶色の肌、頭上に生えている3つの大きなツノ。

 そして、あの日に見た全身に灯る緑色の炎。


「見つけた…見つけたああああ!!!!」


 大声で叫びながら一気に距離を詰める。

 声に驚いた様子の魔物、緑炎姫が目を見開いてこちらを見る。

 すでに距離は近く、こちらの攻撃を避けることは不可能だ。

 だが、緑炎姫は避けようとせず手のひらをこちらにかざす。


「!?」


 視界が緑色に染まる、あの一瞬で緑の炎を一気に発射してきたらしい。

 全身が緑の炎に包まれる。





 緑炎姫は終わったと思い、手を下げる。

 直後に炎から飛び出た人間に腕を斬り飛ばされる。


『グルウウウ!!?』


 想定外の攻撃に驚きながらも人間を凝視する。

 全身を覆っていたフードもマントも緑炎の勢いで吹き飛びその姿が露わになっていた。

 無駄なく鍛えたとわかる細くも力強い四肢、女とわかる胸や腰のくびれ。

 そして、長めの髪は緑色に光っていた。


「今まで殺した人間と同じと思うな!!!」


 人間は叫び、同時に片目から緑炎が噴き出す。

 髪も光が強くなり緑炎のように靡き始める。

 緑炎姫はその姿を見て、歓喜した。





 固まっている緑炎姫を見て、絶好のチャンスだと判断する。

 どんな生き物も予想外の状況におちいれば判断が鈍り動きが遅れる。

 その隙をついて殺す、兄弟の、家族の、生まれ育った村の仇を今ここで!!


「はあああ!!!」


 最初に切った時に感じた手応えから、確実に殺せる首を狙う。

 小さな傷は意味がない、首の両断を狙う!


『クルル〜!』


 止まっていたはずの緑炎姫が眼前にいる。

 明確にわかる表情、笑顔で立っている。

 予想外の事態に足が止まってしまう。

 そして、視界外からの攻撃を受けて体が勢いよく吹き飛ばされる。

 壁に叩きつけられめり込む、失われていく意識の中で緑炎姫を見る。

 拳が握られている、あれで腹部を殴られたのだと理解する。

 さっきまでの笑顔と異なり、なぜか焦ったような表情になっている。

 そして、駆け寄ってくる緑炎姫を最後に意識は闇に沈んでいった。





 意識が戻ると、見覚えのない岩の天井が目に映る。

 なぜ寝ていたのか、なぜ見覚えのない場所にいるか、少し考えてしまう。

 体を起こそうとすると、腹部が異常に痛み起き上がることができなかった。

 同時に思い出す、私は緑炎姫に負けたのだ。


「なんで…私は、死んでない?」


 魔物に負ける、つまり殺されるということ。

 食糧になったり見せしめになったりと結末は違うが、どれも死ぬという運命だ。

 けれど私は生きている、捕まった?

 ごく一部の魔物は繁殖に他種族のメスを使うことがあるという。

 けど緑炎姫はメスのはずだ、捕まえるならオスなのでは?


「考えてもわからない、とにかく脱出をしないと」


 激痛に耐えながら無理やり起き上がる、この部屋に見覚えはないので最奥の部屋だとわかる。

 目的がどうあれ生かされているなら何か目的があるはず、逃げ出しても即座に殺そうとはしないだろう。

 ふらつきながら立ちあがろうとして断念する。思った以上に体が弱っている。

 四つん這いの状態で少しずつ入口を目指す。


『クルル〜?』


 向かっていた出口から緑炎姫がやってきた、隙をついて攻撃できないか?

 武器として持っていたナイフも仕込みナイフも全て外されている。

 体術は立ち上がることすらできない状態では不可能に近い。

 可能な攻撃は噛みつき程度だろうが、それだけ近くにいる時点で何かされているだろう。


「目的はなに」

『クルル?』


 問いかけるが首を傾げる、言葉が通じていない?

 警戒して見ていると、懐から何かを取り出した。

 ぼたぼたと血が垂れる肉、非常に大きく人肉ではないと理解できる。


『クッルル〜!』


 肉が緑炎に包まれる、少しして緑炎が消えると滴っていた血が消えていた。

 その肉をそのまま近づけ、口に押し付けてきた。


「ちょ、ま、なに!?」

『クル〜ル〜?』


 なぜかキョトンとした表情でこっちを見てくる。何が目的なの?

 まさか、餌を与えていると?生の肉を食べろと?

 少しすると、緑炎姫が何かに気付いたと言わんばかりに目を見開く。

 そしてよく見えるように、肉を食いちぎり始めた。

 食いちぎった肉をそのまま力強く咀嚼し飲み込んだ。

 突然の食事を見ていると、再び肉を口に押し付けてくる。

 どうやら食べて欲しいらしい。


「むぐ…モゴモゴ…」


 硬い、臭い、美味しくない。

 今すぐにでも肉を遠ざけたいが押し付けてくるせいで何もできない。

 無理矢理にでも噛みちぎろうとするも歯が立たない。


『クルル…?』


 ここにきて食べれないと気付いたらしい。

 すると目に見えるように狼狽え始めた、何がしたいのか全くわからない。

 だが、非常に近い。

 狼狽えてこちらに意識をあまり向けていない、今ならいける!


「があああ!!」


 痛みを極力無視して腕に噛み付く、全力で痛みを与えて怯ませる!


『…クル?』

「あがが…」


 肉より硬い、そこまで臭くない、味はわからない。

 歯が通らないどころかめり込む気配もない。

 ナイフで切り飛ばせたはずだから噛み付けると思ったのに…

 いやまて。


「ふへは、はふ!?(腕がある!?)」


 先ほどの戦いを思い出し異常に気づく、腕が元に戻っている。

 生えた?引っ付けた?どうやったかは不明だが、切り飛ばす程度では意味がないらしい。


『クルル!!』


 うまく噛み付けず元通りの腕に驚いている間に、緑炎姫は何かを思いついたらしい。

 手に持っていた肉を再び噛みちぎる、そして咀嚼する。

 咀嚼しつづけ…顔を近づけてくる。

 私の噛みつきは疲れと痛みで既に外れて、今は地面に倒れている。

 そんな私に咀嚼しながらどんどん顔を近づけていき。

 キスしてきた。


「むぐぐぐぐぐぐぐ!!?」

『ぐぷぐぷぐぷ』


 口の中に何かが流れ込んでくる。千切れたいくつもの硬い何かだ。

 つまり、あの硬すぎる生肉を噛みちぎって口移ししてきたということだ。

 勢いよく流し込まれてしまい、そのまま喉奥へ流し込まれる。

 突然の行動に呼吸ができない、苦しい。


「〜〜!!!」


 声が出ない、喉にも口にも異物があるせいだ。

 吐き出そうにも未だ大量に流し込まれ、飲み込まないと本当に窒息する。

 なんとか飲み込むと、ようやく口が離れる。


「何をすむぐぐぐぐ!!?」

『ぐぷぷぷぷ』


 抗議しようと呼吸を整え、声を出したタイミングで次の口移しが始まった。

 肉に混ざって流れ込んでくる緑炎姫の唾液が多い。

 呼吸困難になっていき、意識が朦朧とし始める。

 気がつくと緑炎姫が離れており、口移しは終わっていたらしい。


「ゲホゲホ…」

『クルル〜』


 緑炎姫はそのままどこかへいき、この部屋に1人取り残された。

 なぜ食事を与えられる?、なぜ抵抗を無視する?

 疑問は痛みで中断される、殴られたお腹に大量の肉と唾液が流し込まれ痛んでいる。


「少なくとも…すぐに殺される様子はない」


 なら、怪我が治るまでおとなしくいよう。

 武器も探して、寝込みでも襲ってしまえばいい。

 痛む体を引きずり、さっきまで寝かされていた場所に戻る。

 休むと決めると、猛烈な睡魔に襲われそのまま寝てしまう。

 怪我の治りが普段よりも早いことには、気付いていなかった。





 どれだけ時間が経ったかわからない、少なくとも食事は8回ほど行っている。

 食事は全て肉であり、全て口移しで食べさせられている。

 何度も行われ慣れてくると、だんだんと量が増やされていることに気がつく。

 そして、その増えたはずの量を問題なく飲み込んでいることにも気付かされる。


「あんな量…私はどうやって食べてるの?」


 口移しという強制的な方法ではあるが、問題なく食べきっている。

 今までの食事はこの半分以下の量でも多いと思っていた。

 怪我を治すために体が多く吸収しているのかもしれない。

 その怪我もある程度治っており、今なら歩く程度は可能だろう。


「逃げるのは、まだ無理ね…」


 痛むお腹を押さえながら考える、緑炎姫の目的は何か。

 食糧、これはない。生きているのが証拠だ。

 奴隷、これもない。働かされていない。

 伴侶、あり得ない。同性で子供は作れない。

 玩具、これが一番ありえる?


「何にしても、あと少しで完治する」


 緑炎姫のおおよその活動時間は把握した、食事をした後かなり長い間どこかに行っている。一度そのタイミングで逃げ出そうとして入り口付近まで這いずることができた。

 けれどちょうど帰ってきた緑炎姫に担がれてここに戻された。

 走れるようになれば、確実に逃げ出せる。


「心変わりして殺されさえしなければ…ね」


 予想はできても生かされている理由は結局わからない。

 次に来た時に用済みだと判断されて殺される可能性はある。

 回復に専念し、逃げる時は全力を出せるようにするべきだ。





 あれから再び時間が経ち、問題なく歩き回れるほどに回復した。

 その様子を見た緑炎姫は非常に喜んでおり、殺す気がないことがはっきりと分かった。

 後少しすれば走ることもできる、つまり逃げ出せる。

 逃げたあと体制を立て直し、次に来るときに必ず仇をとる。そう誓う。


「次に目が覚めた後、食後に様子を見て逃げよう」


 相変わらず食事は全て口移し、もはや抵抗は一切せず受け入れている。

 隙をついて殺せないか窺ったが、下手なことをしても意味がないと悟った。

 横になって目を瞑る、逃げた後を考えながら…


「なんで、あんなに喜んでいるんだろう」


 未だ残る疑問、緑炎姫が私を好ましく扱う理由。

 妄想じみた可能性はいくつかあるが、現実的でないため排除していく

 そして、最も可能性があるのは…


「私も、緑の炎を宿しているから?」


 村ごと全てを焼き尽くされた地獄の日、私は生き残った。

 黒かった髪は緑色に発光し、茶色がかった瞳は緑炎を噴き出すように緑色の瞳になっていた。

 仇を取るために探し回り、その見た目のせいで人里に長居できず野宿がほとんどだった。

 まさか、あの緑炎姫は…


「…!」


 洞窟の入り口から物音がする。緑炎姫のものとは違う複数人の足音だ!

 閉じていた目を開き立ち上がる。

 助けがきた!


「安全に逃げれる!」


 ふと体を見ると何も着ていない。慌てて適当に落ちている布を纏って体を最低限隠す。

 武器はどこにもない、けれど戦うわけでもないので問題はない。

 足音が近づいてくる、もう少しでこの部屋に来てくれる。

 入口に視線を向けて最初に見えたのは、眼球を狙って飛んできた矢だった。





「それで、その女が原因で緑炎姫が頻繁に暴れていると?」

「ああ、そうとしか思えない!」


 国の酒場では、新しい噂が広まっていた。

 緑炎姫が手当たり次第に魔物を襲っている。

 今までこんな頻度で緑炎姫が活動することはなかった。原因があるとすればあの時の女だろう。


「緑炎姫が縄張りを荒らしまくるせいで魔物の被害が増えてるんだ」

「きっと中途半端に怪我させたせいで暴れてるんだ!!」


 酒を飲んでいる2人の男が叫ぶ、その話を聞いて仲間たちと相談する。


「どうする?このままだといつこの国が襲われるかわからないぞ」

「決まってる、緑炎姫を狩にいこう」

「簡単に言わないでください!何か作戦でもあるんですか!?」


 弓矢での狩を得意とする仲間、回復魔法による治療を得意とする仲間、俺たちはいわゆる手練れだ。

 それでも緑炎姫などのネームドを相手するときは慎重にならざるを得ない。


「巣穴は分かっているんだ、寝込みでも食事中でもいいから最初の一撃で目を潰せば怯むはずだ」

「なら俺がその隙をついて手足を切り取ろう、とどめを刺しても手足があると反撃を喰らうこともあるからな」

「死ななければ私が治療します、けれどできるだけ怪我をしないでくださいね」


 作戦は決まった、ならば迅速に行動するだけだ。


「明日の朝、夜明けと共に実行だ」

「巣穴の場所は分かっている、道中で遭遇した場合は?」

「可能なら潜伏、バレたなら速攻だ」

「私はギリギリまでこの国の怪我人を治療します、先に宿に帰っていてください」


 各々が昼と夜を過ごし、日が変わって少しした時間に出発した。

 夜の森は非常に危険だが、狩の達人がいるため問題なく進める。

 擦り傷などは回復魔法で治す。魔力は十二分にある。


「あれだ、間違いない」


 岩壁に不自然に空いた穴、手の入ったその穴に警戒しながら近づく。

 入口には複数の足跡がある、頻繁に出入りしていることしかわからない。


「中に居そうか?」

「…かなり奥の方で物音がする、少なくとも生き物が中にいるぞ」

「よし、入ろう」


 洞窟を進むと広い部屋にたどり着く、中央にある岩の台座、周囲に山積みになっている動物や魔物の骨、奥にはもう一つ通路がある。


「これは…」

「おそらくゴミ捨て場だな、中央の台座で仕留めた獲物を食べて骨を投げ捨ててるらしい」

「こんなに襲われてるなんて…」


 少し調べると、新しい骨がいくつもある。最近のものだ。

 付着した肉は不自然なほどに干からびているが、骨は取り出してすぐとわかる。


「奥に行こう、気配は一つだけだ。」


 息を潜めながら返事を返す、先制攻撃のためには気づかれないようにしなければならない。

 ふと、人の骨がないことに気がついたが…今は気にすることではないだろう。





 最奥の部屋を静かに覗く、物音は立てていないはずだ。

 だが、それは俺たちに気がついていた。

 緑色の炎で全身を纏い、緑色に光る眼球がこちらを見ている。


「バレている、仕掛けるぞ!」


 即座に矢を構えて放つ。意表をつくことができ矢は狙った通りに眼球を貫いた。


「ウオオオオオ!!!」


 怯んだ様子の緑炎姫に反撃など許さない、剣を構えた仲間が即座に手足を切り飛ばしてその勢いで体を吹き飛ばす。


「がああああああああああ!!!?」


 緑炎姫が吠えている、同時に緑色の炎を噴き上げている。


「下がれ!!引火するぞ!!」


 声をかけるまでもなく仲間は後ろに飛び距離をとっていた。余計な心配だったらしい。

 少しすると、緑炎が減っていき体の炎だけになる。

 斬り飛ばした手足からは血が流れ出ており、致命傷だと理解できる。

 勝った、俺たちは緑炎姫に勝ったんだ!


「やったぞ!!ネームドを倒したぞ!!」

「油断するなよ、まだ死んではないんだ」

「私の出番はなさそうですね…ふぅ」


 後ろの方で魔法使いが腰を下ろしている、とりあえずもう安心だ。

 あとは討伐の証拠に首を切り取って持ち帰ればいいだろう。


「まだ生きてるか?」

「…嘘だ」

「おい?どうした?」


 近くに移動していた仲間が狼狽えている、何か問題でも起きたか?


「おい、どうしたんだ?さっさと首を切って持ちk」

「緑炎姫じゃない!!」

「…はぁ!?」


 叫びを聞いて慌てて駆け寄る。仲間が見下ろしているソレを見る。

 そこにいたのは血まみれで、今にも死にそうになっている1人の人間だった。


「おい嘘だろ!?何がどうなってる!!?」

「まずいまずい!!捕まってたんだ!!生きていたんだ!!!」


 あり得ない、1ヶ月前に行方不明になったはずだ!あの時からずっと生きていた!?

 死なせるのはまずい!!


「おい!!今すぐ回復ま…ほう…を」


 振り返ると、そこにいたのは鬼だった。

 手には引きちぎられた恐怖に染まった仲間だった生首を持ち、全身には吹き荒れるほどの緑炎が天井までも焼き焦がそうと火柱になっており。

 一瞬見えた表情は、この世界全てを憎み怒っているような顔だった。





 なんで私は倒れているの、なんで私は切られたの、なんで私は殺されそうになっているの、なんで、なんで?なんで…

 痛みで意識が飛ぶ、痛みで意識が戻る、貫いた矢のせいで何も見えない、切られた手足のせいで身動きが取れない。

 血が流れて寒い、切られた場所が熱い、頭が現実逃避しようとしている、けれど痛みで現実に引きずり戻される。

 声が聞こえる、倒した、油断するな、死んでない、首を切れ…

 私は、人間に殺されたの?


「ぎゃああああああああああああ!!!!!」

「ゆ、許してくれえええええええええええええ!!!!!」


 悲鳴が聞こえる、けれどどんどん遠くなっていく…

 痛みで不安定な意識もだんだん消えていく…

 なんで人間に殺されたの…

 なんで私は死ぬの…

 なんで私は…

 なんで…

 なん…

 …


『グギャアアアアアアアアアア!!!!!』


 最後に聞こえたのは、あの緑炎姫の絶叫…だった…





 目を開くと、いつもの洞窟の天井が見える。

 ぼーっとしながら体を起こし、周りを見る。

 変わらない部屋、いつもの部屋。


「えっと…あれ?」


 おかしい、何かがおかしい。

 覚えているのはなんだ?忘れているのはなんだ?

 私は復讐のためにここに…復讐?


「誰に、なんで復讐しようとしたんだっけ?」


 頭痛がする、咄嗟に頭に手を伸ばすと異物が手にぶつかった。


「痛!?」


 頭が揺れる、目がチカチカする。

 落ち着いてきたのでゆっくりと手を頭に伸ばす。

 頭に、ツノが生えている。


「待って、待って待って!?」


 私は人間だ、明らかに何かを忘れているが自身の種族を忘れてはいない!

 生まれも育ちも今までも人間だ、間違ってもツノの生えた種族ではない!!


「何が起きているの!?」


 とりあえず他の明らかに違うものを探す、けれどツノ以外に手探りでわかる違いはない。

 姿見でもあれば違っただろうが、ここは緑炎姫の巣穴だ。


「そうだ緑炎姫!!」


 思い出した、ここには緑炎姫が住み着いている。

 私は緑炎姫を…を?


「やっぱりおかしい、記憶が欠けている」


 考えても思い出せない、少なくとも何か目的があってここに来たのは間違いない。

 そしてその目的は復讐だ。けれどなんの復讐か思い出せない。

 状況から…

『私』は『緑炎姫』に『復讐』に来ている。

 けれど『復讐』の内容が思い出せない、『緑炎姫』への嫌悪も憎悪もない。

 そもそも『私』が異常になっている事しかはっきりしない。


『クルルー…』


 悩んでいると、入口から落ち込んだ様子の緑炎姫が入ってきた。

 そして、私を見るなり固まった。

 目には涙を浮かべ、どんどん顔が泣き顔になっていき…

 私に勢いよく飛び掛かってきた。


『クルルー!!!』

「あぶ!?危ないって!!」


 慌てて受け止めて、宥める。

 抱きつく形で背中を撫でで落ち着かせる。


「あれ?何かおかしいような…」

『クルル〜』


 落ち着いた緑炎姫がそのまま抱きついている。声色からも喜んでいるのがわかる。

 そして、気がついた。


「ねぇ、ツノが一本折れてるけど…」

『クルル?』


 緑炎姫の頭上には3本のツノがあったはずだ。けれど今の緑炎姫の頭には2本しかない。

 それも、バランスが悪い真ん中と左のツノだけだ。右側には根本から折れているツノだったものがある。


『クッルル〜!』


 言葉が通じたのか、緑炎姫は折れたツノのあった場所を触ったあと私のツノを触ってきた。

 いきなり触られて驚いたが、何を言いたいのかは理解できた。

 緑炎姫の折れたツノは、今私の頭に生えている。


「いやなんで?」

『クルル?』


 どうしてツノが私の頭に?何がどうして?

 考える、異常な現象の原因を推測する。

 私の失われている記憶に答えがある、それはわかる。

 けれど、なぜか頭痛がするばかりで何も思い出せない。

 何かきっかけがあれば思い出せるかもしれないが…


「…ん?あれは」

『クルル!?』


 部屋の隅に何かが見えた、それに気づいた瞬間緑炎姫が見えないように私に覆いかぶさる。

 突然の妨害に驚くも、が記憶に関係するものだと理解した。


「ごめんね、ちょっと見せて?」

『…クルルー』


 渋々といった反応の緑炎姫をどかして、近づく。

 そこにあったのは、3つの死体だった。


 首と体が離れて、頭部だけが乾涸びた女性の死体。

 衣服から魔法使いだとわかる。

 全身が乾涸びて性別程度しかわからない男の死体

 近くに落ちている剣の持ち主だとすると、おそらく剣士だと思う。

 両手が引きちぎられており、恐怖と絶望の中で死んだのだとわかる表情の男の死体。

 バキバキに壊された武器はおそらく弓、狩人だったのかもしれない。


「…ああ、そうか」


 人を見ても何も思い出さなかった、けれど矢と剣を見て痛みを思い出した。

 そして何があったかも思い出した、全てを思い出した。

 私の『復讐』の内容を、思い出した。





 大きな村が燃えている。緑色に燃えている。

 人々は炎から逃げようと走る、水に飛び込む、土をかぶる。

 けれど炎は追いついて足から燃やしていく。

 水中で炎に包まれて燃えていく。

 土中から火柱が立ち上り地中すら燃えていく。


「…」


 誰1人助からないように、念入りに全てを燃やし尽くしていく。

 私のような存在を作らないために1人も逃さない。


『クルル…』

「大丈夫だよ」


 私の横で緑炎姫が心配そうにしている。

 落ち着かせるために優しく抱きしめる。


 私が思い出した復讐。

 私は、緑炎姫と共に、人間に復讐する。

 私を苦しめ、殺そうとした人間は敵だ。

 だから1人残さず焼き尽くす。


「さぁ、次の街に行こう」

『…クルル!』


 生存者のいなくなった街から離れていく。

 後に残ったのは、乾涸びて皮と骨になった人だったものだけだ。





「なあ、聞いたか?」

「あれだろ、緑炎姫とその娘」


 とある国で新しい噂が広まる。

 曰く、魔王が和解を望んでいるとか。

 曰く、英雄が3股して逃げ回っているとか。

 曰く…緑炎姫が娘を産んで一緒に移動しているとか。


「あの暴れっぷりは娘への食糧調達だったみたいだな」

「なんにせよ、ここから離れてくれたんだから安心だろ」


 酒場で酒を飲みながら話し合う、新しい話題がないかと耳を立てる。

 その耳に、足音が近づく。


「ねえ、緑炎姫について知ってるの?」


 復讐は続いていく。

 緑の炎が燃え尽きるその日まで。











 緑炎姫

 元オーガの女性

 緑炎病の適応体であるため唯一生き残った

 同じ体質の主人公に歓喜したが主人公が死にかけたため命を削って救った


 主人公

 緑炎病の適応体であるせいで唯一生き残った

 目から常に緑炎が漏れるため隠して復讐相手である緑炎姫を探していた

 オーガのツノで蘇り、ハーフオーガに転生した


 緑炎病

 魔力を持った特殊な病原菌に感染すると発病する

 生命力や魔力を緑の炎に変換して全て燃やし尽くしてしまう病気

 生き物全ての生きる力を燃やす凶悪な病気だが病気と思われていない

 適応体は望んだ量だけ燃やすことができ他者への感染も自由に操れるようになる

 無機物は燃えないが、魔力が宿ったものは魔力を燃やせる

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