第17話

「デモンズが、人間の負の感情の集合体?」

 呆気に取られたように、レミエルはそう言う。


「あぁ。

、、、だから、戦いが終わることはない。」


 悲し気に、そして当たり前のことを告げるようにメビウスは言う。


 無理はないことだ。

観測されている事実のほとんどは、人間の感情の集合によって

新たなデモンズ、即ち敵が生まれ出ることを告げている。



 もしも。

 もしも、デモンズが消えたら。

 そんな考えが、先の問答を経て

自分の脳内に浮かぶ。


 もしデモンズが消えたら、俺は、、、どうなるんだ?


 いや、意味の無いことを考えるのはやめよう。

 それより今は。


 キョクヤの、大まかな位置こそ分かっているが

正確な位置が分からないのが不味い。

 だから、正確な位置を知る為の交渉が必要だ。


「バク。

キョクヤ、、、いや、一番強いデモンズの正確な位置を教えてくれ。」


「いいよー。

ただ、1つお願いがあるんだけどー。」


 そう言い、バクは片目を気だるげにこちらに向ける。


「ここらで、一番強いデモンズの

死体をちょうだーい。」


 一番、強い?


「それは、キョクヤの事じゃないのか?」


 疑問に思った俺が、そう言うと

バクは首を振ってこう言った。

「違うよー。

ほら、後ろのそれとかー。」


 咄嗟に思考するより早く、ハンドガンを即座に

ホルスターから引き抜き、後ろに振り返りながら構える。


 すると視界に、黒い大きな影が映る。


「敵、、、?!」

 レミエルも状況を把握したのか

背に背負っていたライフルを引き抜き、構える姿勢をとる。


「何も、、、居ない?」


 レミエルが困惑するのも無理はない。


 なぜなら、目の前に影こそ存在はすれど、影以外

なにも存在しないのだから。


「まさか、、、!」

 脳がひとりでに状況を整理し

結論を導き出す。


「シャドウジャイアントか!」


 思考の完結、結論が出されると同時に動き出した

その大きな影を追うように走り出す。


「早い、、、!」


 相手は、物体を持たぬ影だ。

 速度で追いつけるはずもなく、みるみる距離を離されていく。


「状況が分からないけど、あれを止めればいいの?」


「何でここに、、、いや、飛べるのか。

それより、

あいつを止めれるなら、そうしてくれ!」


 目の前の標的、シャドウジャイアント。

 影の姿と、実体化した巨人の姿を切り替える

危険度、常闇のデモンズ。


 正直、対処装備が無ければ倒すことは極度に難しい、厄介な相手だ。


「了解!

レールカノン、発射!」


声と共に放たれる弾丸が、影が走っている地面を抉る。


 だが、影は止まることが無く

街の方向へと前進を続けていく。


 街の方向へ向かっていくなら、、、仕方ない。


 思い立ち、インカムから通話をかける。


「神宮、聞こえるか。」


『君からかけて来るなんて珍しいね。

まさか、デートのお誘いかい?』


「、、、シャドウジャイアントが現れて

ビル街に向かってる。

住民への避難勧告と、ソルミサイルを手配してくれ。」


『はいはい、分かったよ。

じゃ、レミエル君と楽しんでくれ!』


 相変わらずだな、こいつは。

考えても仕方のないことだが、付き合いづらい奴だ。


思考を切り替え、目の前の敵へと意識を集中させる。


「メビウス、攻撃が効かない!」


 レミエルの雷を纏った攻撃なら

あるいは、、、とも思ったが。


「やっぱり、実体化させないと無理か。

、、、よし。

レミエル、今から俺達は

おとりだ。」


「おとりって言っても、どうやって?」


 攻撃の通じないどころか

こちらの攻撃を意に介さない相手に対する囮。


 一見不可能にも思えるが、1つ方法がある。

「あいつは、攻撃の時に必ず黒い体で実体化する。

それを、邪魔し続けてやればいい。」


 話していると、背の高い柵と

ビル街が視界に入ってくると同時に、無線が鳴る。


『こちら管制室、周囲の住民に避難勧告を出しました。

そして、ソルミサイルですが、、、。』


 エンドゾーンと都市を区切る柵を飛び越えながら、嫌な予感を感じ

探るように返事をする。


「何かあったのか?」


『輸送機の大半が任務中な上

残っている輸送機もメンテナンス中で、、、。』


「使える輸送機は、無いってことか?」

 ため息交じりにそう確認すると、無線の奥から

申し訳なさそうな声で返答が返ってくる。


『残念ながら、、、。』


「そうか、分かった。

冥府の門は?」


『一応、神宮さんの指示で

本部で待機をしておりますが、どうされますか?』


 いつも通り、なにかを予期してるのか?

 いや、今はいいか。


「冥府の門を、ソルミサイルを装備させて

こちらに陸路で呼び出してくれ。」


『了解しました。』

 避難勧告は出した。

 ソルミサイルも、時間さえあれば到着する。

 ただ。


 なにかを予知したように実体化し、こちらにぬるりと

振り返る、赤い両目が光るシャドウジャイアントと

対峙して、感じる。


「お前、、、普通じゃないな。」


 七〇式ウェポンラックを背中から降ろし

ハンドガンを構える。


「来るぞ、構えろレミエル。」


「分かってる!」

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