第7話


 メビウスは柵で囲われていたゾンビの群れに突っ込むと

ゾンビと影が重なり、見えなくなる。


 ふと、動く影が見えたイージスはそこから出た黒い影を

迷いなく射撃した。


 だが、それが照明の下にさらされると、正体が分かった。

 頭部を首から切り離され、生命活動を終えたゾンビだ。


「まさか、、、。

アテナ、後ろだ!」


 そう叫んだ時にはもう遅い。

 アテナの視界を塞ぐように、

ゾンビの死体をもう一つ投擲した後、

メビウスはその返り血に濡れた瞳で、照準を合わせる。


「ひぃぃ、、、バケモノだ!」


 研究者の男がそう叫ぶと同時に

銃撃が放たれる。


「アイギス、行け!」


 だがそれは、またもやイージスの出現させた盾。

アイギスによって、弾き落とされてしまった。


 イージスの出現させた盾に、行く手を阻まれ

一瞬、動きが鈍くなる。


 その一瞬でアテナはメビウスの懐まで近づくと

盾で殴打し、メビウスをイージスの傍まで吹き飛ばした。


 倒れているメビウスに、イージスはこう言う。

「君が誰かを殺さなくとも、この人も殺されなくとも

 何も、起こさせはしない。」


 歩き、そう言うイージスにメビウスは言った。

「それで、手遅れになってもか?」


 膝をついて立ち上がったメビウスは、

ハンドガンを構えなおす。


「手遅れなんて事態を引き起こさない為に、、、。」


 イージスがメビウスへと走り、接近し

ランスカノンを、槍形態へと変形させ

薙ぎ払う。


「僕達、ナンバーズが居るんだろ!」


 甘い考えだ。


 後ろへバク中で飛びのき、メビウスは呼吸を整える。


「七〇式ウェポンラック、五番射出。」


『了解。

五番、バトルブレイド、射出。』


 遠方に設置されたウェポンラックから、

近接武器、バトルブレイドが

使い捨て推進器と共に、メビウスの現在地まで飛来する。


 まるでミサイルのように着弾したその剣を

メビウスは地面から引き抜き、一目散に

イージス目がけて走り出す。



 アイギスを展開して、止めることはできる。


 ただ、アイギスを展開して防御に回った瞬間

あの弾丸が全ての物理干渉を無視し

今逃亡し、アテナが確保しようとしている研究者の男の心臓に

運動エネルギーを保ったまま出現し、

死に至らしめるだろう。


 それは、させてはいけない。


 なぜならば目の前で起こる人殺しを、

看過することは、僕にはできないし

それに、彼の手だけを

これ以上汚させるわけにもいかない。


「メビウス。

あえて聞かせてもらう。

退く気は無いかい?」


 接近してくるメビウスに、

あえてイージスはそう問いかけた。


「、、、無い!」

 メビウスから、斬撃と共に答えが口から放たれる。


「来い、アイギス!」


 イージスは咄嗟に斬撃を回避できないと踏み

アイギスを出現させて、メビウスの斬撃を弾く。


 返す手で振るわれるメビウスの斬撃と

イージスのランスがぶつかる。


 その時、イージスのインカムに、無線が入る。

『研究者を確保、および引き渡しました。

そちらに合流します。』


 アテナからだ。


「メビウス、こちらにもうすぐアテナが戻ってくる。

そして、アテナが戻れば

僕も本気を出すことが出来る。」


 一瞬出来た斬撃の隙間に、先に出現させたアイギスを

押し出し、メビウスを遠くへと追いやり

イージスは、こう言った。


「君と、本気でぶつかりたくない。」


イージスの言う事は、至極単純だ。

 これ以上、本気を出せば

互いに無事ではすまない。


 それどころか、周囲も無事じゃ済まないだろう。

正直言って、引くべきなんだろう。


 だが、この施設を誰かが破壊しつくし

標的を殺さなければ、例え技術の断片だとしても

それが流出してしまう。


 そうすれば、人造デモンズによって引き起こされた

あの死傷者1000にも上る事件。

 黒の百鬼夜行の再来になってしまう。


 それは、阻止しなければならない。

「、、、イージス、これ以上お前が引かないなら。

俺も、本気を出すしかなくなる。」


 メビウスはそう言い、

鉄でできた、顔を隠すマスクをコートの中から取り出す。


 その様子を見て、苦虫をかみつぶすような表情で

イージスは空から降りてきたアテナに、こう言った。


「少し、本気で行くよ

アテナ。」


 アテナはその言葉を聞き、一瞬ひるむ。


「いいのですか?」


「、、、不本意ではあるけれど。

 そうなってしまう、かな。」


 両者の間の空気が凍り付く。

 チク、タク、チク、タク、時計の音が

脳裏に響く。


「「戦を超え、時を超え、」」

 イージス達の声が響く。


「それは、人の身に留まれし力、」


 呼応するように、メビウスの詠唱も始まる。


 両者互いに退かず、衝突は確実と思われた。


 だが、瞬間

イージスの開けた天井の穴から、誰かが降ってきた。



 私は、人を守りたい。

 人の役に立ちたい。

 だったら、ここが私の初任務!


「三人とも、止まって!」

 突如として現れた私、レミエルに

その場全員の動きが止まる。


「メビウス!」


 驚愕の瞳で、メビウスはこちらの方を見やる。


「神宮さんから伝言!

ここからばれないように、逃げてって!

あと、任務は中止とも言ってたよー!」


 そう言いながら、私はメビウスの元に滑空して飛んでいく。

 そんな私を見ることなく、メビウスは呟く。


「撤退、か。」

 メビウスはイージスに視線を向ける。

 何を想っていたのか、私には分からない。


 けれど、少し悔しそうな表情で

そして、なにかを後悔するような様子で

メビウスは、イージスへとこう言った。


「悪い、後を頼む。」

 それを聞き、何故か嬉しそうにイージスはこう言った。


「あぁ、もちろんだよ。」

 そう言い、立ち去ろうとするメビウスに

私は声をかける。


「ね、ね。

これから、よろしく!」


 そう言って、握手を求めて手を差し出した私の手を、

メビウスは取ることはなかったけれども。

 代わりに、少し刺々しい態度で

こう言った。

「、、、好きにしろ。」


 その言葉を聞き、小走りでレミエルは

メビウスの横に行くと、こう言った。

「分かった、好きにさせてもらうね!」

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