数日後、なんだかやたら手の込んでいるしゃれたボードとともに夫の聖さんが言うことには。



「アドベントカレンダーを作りました」


 板で作られた小窓が25個。

 たしかアドベントってドイツとかでクリスマスまで子どもが毎日めくっていくものだよね。


「すごい……」


 天使やリースの絵が描かれた窓。

「この中には、お菓子が?」


 聖さんは微笑んで、口元に手をあてる。


「いいえ」


内緒ですよと、耳元に口をよせて。


「はうがいい子になるためのミッションを、一日ごと書いていけたらと」


 おおお。

 感動して、わたしは思わず長身の夫を仰ぐ。


「さすが聖さん! 教育効果ばっちり‼」


「とはいえそんなにかたくならず……家族で楽しむための予定、とかでもいいですね」


 顎に手を当てつつ楽し気にそんなふうに呟く。


「わぁ、楽しそうじゃない」


 それから、我が家の日常にアドベント・ミッションが組み込まれた。



 ――12月4日 お皿を拭こう。


「ボクふきふきするよ!」

フフフ。息子よ。まぁ、初日だから、この意欲は当然といえよう……。


「ふきふきふき!」 

うん、完璧なのは掛け声だけだけどね。ぜんぜんふけてないけどね。


「はう~、雫さんがついてるでしょ? これだとまだ終わりじゃないんだよ」


「えーそうなんだぁ……」


苦笑して聖さんがとなりにやってくる。


「とはいえ、ふゆさんの日頃の拭き方と、あまり変わりない気もしますが」

「ひどーい。聖さんだって似たようなものじゃない」


 抗議すると聖さんは少し頬を染めて、


「俺の場合は……。丁寧にやっているつもりがなぜか、うまくいかなくて」


はなから雑でアバウトなあたしと違うって言いたいんか。


「聖さんって、工作とか大工仕事は得意なのに、なんで家事はだめなんだろうね……」

器用なんだか不器用なんだかわからない人だ。


 なんてことをやっていると、はうが急に、


「いーーこと思いついた!」


 と絶叫しだしたのでなにかと思えば、大きく息を吸ってふーーーっと、濡れた皿を吹き始めた。


「なにやってんの?」


「デパートのトイレにあるやつ‼」


 ハンドドライヤーか?



 がっくしとわたしは首をもたげる。


「こういう大ちゃくなとこはたしかにあたし似だわ……」

 反省。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る