謎を解けない名探偵、今日もトリックの解説に失敗する。~これがあやしいのはスキルで分かるのになぁ~

かがみ

第1章 収容所編

1-01 はじめての取り調べ

 そこは薄暗い部屋だった。近代の日本では滅多に見ない石造りで、窓は小さなものが一つだけ。しかも手の届かないような高所にある。そのせいか換気が滞り、梅雨の夜を彷彿とさせるような、じめじめとした空気に満たされていた。


 室内のインテリアは質素の一言に尽きる。木製の机が一つと椅子が二脚のみだ。その机上にはランタンが置かれ、俺達の顔を目障りなほどに照らしてくる。


 俺達というのは、椅子に座った俺と二十歳ほどの男性のことだ。取調官として現れた彼は、長めの銀髪を後ろに撫で付けた、サファイアのような青い瞳を持つイケメンくん。ついでに背丈が百八十オーバーの細マッチョである。


 上が黒で、下が白。俺の記憶が正しければ、この軍服は王都騎士団のものだ。勲章らしきものは見当たらず、年も若いので新兵なのかもしれない。


 どこからどう見ても武官なのだが、手にしているのは剣じゃなくペン。彼は机を挟んだ向こう側で、着席してから三度目になる溜息を吐いた。


「オレはカイルだ。これからお前さんの取り調べを行う」


 カイルは困ったように言った。絶対に俺の方が困ってるんだけどなぁ。


「名は?」


「ノクス」


「年は?」


「九」


「ロールは?」


魔力観測者マナリーダー


「保有スキルは?」


魔力感知マナセンサー


「センサー? その年でセカンドスキルを修めているのか?」


「ファーストスキルだよ」


「通常、魔力観測者のファーストは魔力探知マナレーダーのはずだが」


「よく言われる」


「そもそも、マナセンサーとはなんだ。初めて聞くぞ」


「それもよく言われる」


「魔力探知とは違うのか?」


「似たようなものなんじゃないの? 知らんけど」


「魔力探知は一定範囲内の魔力を探し出すスキルだ」


「魔力感知は一定範囲内の魔力を感じ取るスキルだよ」


「……嘘を吐いているようには見えないが」


「嘘か本当かを判別できるスキルってないの?」


「あればオレは取調官に任命されていないな」


「保有スキルを鑑定する魔道具は? ロールを鑑定できるやつはあるんでしょ?」


「聞いたこともないな」


 カイルはまたも溜息を吐く。室内のどんより具合が増した気がする。


「んー、協力的な態度も見せているし、オレとしては釈放してやりたいんだが」


「釈放と言うか、俺、何か悪いことをした? これって完全に冤罪だよね?」


「そこを判断するのはオレの仕事じゃない。しかしお偉いさんがそう思っていないことは確実と言えるな」


「いやいや。刑罰は客観的な判断で処さないとダメでしょ。主観的な判断なんかを許したら、偉い人は罰されなくて、気に入らない人は罰するとかになるじゃん」


「お前さん、幼いくせに小難しい話をするよな」


「耳タコレベルでよく言われる」


「だが残念ながらそれが現実だ。偉い人は罰せられないし、偉くない人は簡単に首を斬り飛ばされる。嫌なら偉くなるしかない」


「九才の孤児が処刑されるまでの三日間でそこまで偉くなれる方法を教えてくれ」


「ないな」


「絶望した」


「実際のところ、騎士団所属のオレが五十年を費やしても無理だと思うぞ」


 俺達は同時に溜息を吐いた。この世界は本当にクソだな。


 俺はこんなことで殺されたくない。


 カイルはこんなことで未来ある子供を死なせたくない。


 なのに打つ手がない。本当にクソだよ。


「てかこれって何のための取り調べなの? どうせ処刑なんでしょ?」


「そういう規則なんだ。少しでも冤罪を減らすための措置だな。どんな罪人であっても一通りの聴取をすることになっている」


「これっぽっちも冤罪を回避できてない件」


「そうは言うがな。お前さんの場合、証拠が多すぎるのが問題なんだ」


「俺が何をしたって言うんだ」


「国王陛下を侮辱した。不敬罪により斬首」


 本当にふざけた話だよ。俺は顔も知らないおっさんの悪口を言ったとかで処刑されるらしいんだ。


 俺はそんなことをしてないのにさ! 異世界人どもめぇ!


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