第4話 ミナとの出会い
レイドは村を出て、辺境の商都ヴァルガへと向かった。
知識のコアが示した情報によると、この街には、貴族の魔導技術に匹敵する「発明」の才能を持ちながら、平民であるためにその努力が報われない一人の女性がいる。
彼女の名はミナ。
ヴァルガの平民区画は、貴族区画の豪奢な建築物とは対照的に、魔素の光も届かない陰鬱な場所だった。
レイドは、古びた工房の扉を叩いた。
「誰?」
中から出てきたのは、煤で顔を汚し、ゴーグルを額に乗せた、まだ年若い女性だった。
それがミナだった。彼女はレイドの幼い姿を見て、警戒心を露わにした。
「子どもの遊びなら、よそでやって」
「遊びではありません。私はレイドといいます。あなたが発明した『魔導熱変換効率増幅装置』についてお話しにきました」
レイドがそう口にした途端、ミナの目の色が変わった。
それは、ミナが半年間誰にも見せていない、最も秘匿性の高い発明品の正式名称だった。
ミナはレイドを工房の中に招き入れた。
中は、奇妙な歯車や導線、そして蒸気を発生させるためのボイラーがひしめき合っていた。
「なぜ、それを知っているの? 貴族の手先?」
ミナは問い詰める。
レイドは静かに答えた。
「貴族は、それを知っても理解できません。なぜなら、あなたの発明は、彼らが信仰する魔素ではなく、熱力学という『論理』に基づいて設計されているからです」
レイドは、工房の片隅に置かれた、ミナが失敗作として放置していた巨大な歯車を指差した。
「あなたは、熱を魔力に変換する際、エントロピーの増大を考慮に入れなかった。その熱の拡散を、この『二重反転機構』によって逆運動量として回収すれば、変換効率は理論上、さらに20%上昇します」
ミナは息を呑んだ。
彼女が数ヶ月間、行き詰まっていた理論的な壁を、目の前の少年は、まるで当たり前のことのように指摘したのだ。
「そんな、バカな……。二重反転、逆運動量……なぜ、そんな論理を平民のあなたが……」
ミナは膝から崩れ落ちた。
彼女は、自分の人生を賭けて、「魔法の不公平さ」を技術で打ち破ろうと挑んできた。
貴族が生まれ持った魔力で簡単に実現することを、彼女は計算と努力と泥臭い試行錯誤で追い求めてきた。
だが、その努力のすべてが、才能と血筋という貴族の壁に阻まれてきた。
彼女の最も優れた発明も、貴族の魔導機関には遠く及ばず、特許申請は却下され、試作品は貴族の手によって破壊されてきた。
「…貴族に捕まるかもしれない。それでも、私はこのまま腐るより、レイドさんの創る世界を見てみたい」
ミナは、涙を拭い、顔を上げた。
彼女の目は、これまでの絶望ではなく、レイドの言葉によって灯された熱を宿していた。
「教えてください、レイドさん! あなたの持つ、その世界を変える知識を! 私は、あなたに仕えます。私の技術のすべてを、あなたの革命のために使わせてください!」
レイドは静かに頷いた。
彼の論理が、ミナの情熱と決意という、かけがえのない人間的な力を引き出した瞬間だった。
「ミナ。あなたの技術は、この世界を創世するための鍵です。あなたの知識と、私の知識を融合させれば、貴族の魔法など、もはや旧時代の遺物となるでしょう」
レイドは、彼女に手を差し伸べた。
その手は、幼いながらも、滅びた人類の知性と、未来への確固たる使命という、途方もない重さを感じさせた。
ミナはその手を強く握った。
ここに、科学(知識)と技術(情熱)の、最初の融合が成された。
「では、旅立ちましょう。この世界に、論理と平等の国を築くために。次に向かうのは、騎士の理想を求める男がいる場所です」
レイドとミナは、工房の扉を閉め、ヴァルガの街を後にした。
彼らが向かう先は、王国の軍事の中枢、騎士団の拠点だった。
***
本話の表現意図
ミナのレイドへの協力が、単なる「尊敬」ではなく、「自分の技術と人生が初めて報われる場所」への切実な希望と、科学的な真理に突き動かされた、論理的かつ人間的な決意であることを補強しました。
レイドが「知識を共有し、理性と論理に基づいて新たな文明を創世する」という理念を、ミナという最初の仲間に体現させることで、革命の核となる哲学をより明確にしました。
リステディア創世記〜転生した俺はチートな地球文明で革命を起こす〜 ねこあし @nekoasi2025
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