第10話 いつの間に
「にしても、どうする? 次は」
「そうねぇ……、しばらくは冒険者ギルドも大変でしょうしねぇ……。もう少し何もしないで行きましょう」
ユウとフウアは宿でご飯を食べていた。どちらも軽食を食べている。結構運動はしたが、案外お腹が空いていないもんなんだなとユウは思った。宿はいつも通り、冒険者でいっぱい。が、それでも今までより少ない。
「宿、冒険者、何人かいませんね」
ユウはそう呟くが、内心その理由は分かっていた。おそらく、冒険者迷宮で死んだのだろう。あそこには、たくさんの冒険者の死体があった。その中の一人として、死んでいてもおかしくはない。
それに、冒険者という職業はいつ死んでもおかしくはないからだ。
フウアの様子をユウはちらりと見た。相も変わらず冷静に振舞っている。とはいえ、内面色々抱えがちな奴だ。大丈夫だろうか。ユウはそう思いながら、ご飯を食べ進める。
「フウアはその間、何かするのか?」
「特にはかな。部屋で色々するわ」
「そっか」
ユウはそれを聞くと、少し安心した。特に無茶をする予定はないらしい。別にフウアが責任を感じることじゃないので、特に気にする必要もないのだが。
「じゃあ、私は食べ終わったから先に行くね」
「分かった。じゃあ、また明日ね」
「……うん」
フウアはそう言うと、部屋へと戻っていく。その姿を見送りつつ、ユウは部屋とは逆の方向に行く。そして、そのまま宿を出た。
「とりあえず、散歩しよう」
そのまま部屋に戻ることもありだったとユウは思う。でも、何となくそれじゃあ落ち着かないのだ。どうしようもなく、心の中でふつふつと何か湧き出ていた。あの場にあったマエさんたちの死体を見てからずっと。
何となく、それを沈めたかった。
冒険者の街を歩きながら、ふと夜空を見る。星々が浮かんでおり、きれいな空。それを見てユウは思う。あの人達はもうこの空を見る事が出来ないんだなと。
そう思うと、再び心の中でふつふつと何かが沸く。どうしようもないほどに、何かが湧きだしてくる。ユウはそれを抑えた。
このまま自分が行っても、何にもならない。事態が収まるまで、待つのが一番。ユウはその辺は分かっていた。
「ふぅー」
深呼吸をする。そうでないと、もうどうしようもないほどに何かが湧き出そうになるから。そして、そのまま歩いていく。迷宮がある場所とは反対の方面へ。
夜ではあるが、わりと結構町は明るかった。たぶん、みんな酒とか飲んでいるんだろう。ユウは適当に近くの酒場に入った。この世界ならもう酒を飲める年齢だ。どうせなら、酒を飲んで気を晴らすのもいいかもしれない。
「よう兄ちゃん、見ない顔だな」
「はい、始めて来ました」
「そうか! なら、この酒とかいいぞ!」
ユウは勧められた酒を注文する。来たことない酒場ではあるが、中はとても喧噪にあふれていた。食いどころもそんな感じだったし、この世界の酒場はどこもそんな感じなのだろう。
「そういや、兄ちゃん。冒険者ギルドで見たな。新人冒険者か?」
「たぶん、そうですね」
階級的にも一番下だし、たぶん新人冒険者なんだろう。ユウはどこまでが新人冒険者なのか分からないが、とりあえず頷いた。
「大変じゃねぇか。新人ってのは?」
「そうですね。でも、頼りになる仲間がいるので何とかなってます」
「おっ、パーティー仲間がいるのか!」
「新人なんだから、そりゃいるだろ」
声をかけて来た人以外にも冒険者達が続々と集まってくる。見たことない人達が多いなと思いながら、ユウは出て来た酒を飲んでいく。
「にしても、しばらくは冒険者迷宮はいけないらしいな」
「マジかよ。なんか、トラブルだっけ?」
「そうらしいぜ」
ふと、そんな会話がユウの耳に聞こえた。今、一番聞きたくなかった会話に思わず顔を顰める。当たり前ではあるが、やはりもう話題になっているらしい。
「兄ちゃんも災難だったな。しばらくはあそこに行けないなんて」
「そうですね」
ここは適当に頷いた。正直なところを言えば、あそこにはもう行きたくない。ユウとしては、日本に帰れそうな手がかりもないので、なるべく近づきたくない所だった。ただ、マエ達がまだあそこにいるということが気がかりというだけで。
「ちなみに、兄ちゃんは何で冒険者になったんだ?」
「というと?」
「兄ちゃん、わりとそこまで悪い出でもなさそうだからさ」
「まぁ、諸事情で」
さすがに事情は言えないのでユウはそう誤魔化した。冒険者達もそれで納得したようだ。ユウはほっとしつつ、彼らの話に耳を傾ける。
「お前は何だっけ」
「家、追い出されたんだよ」
「ははっ。俺は金稼ぎ」
どうやら、みんな色々事情があるようだ。そんな話を聞いて、ユウはふと思う。フウアは何で冒険者をやっているんだろうと。憧れてなったのだろうか。でも、そんな感じには見えない。何か、事情があるんだろうか。そう考えていた時だった。
「そういや、兄ちゃんの仲間ってフウアちゃんだろ」
今まで話していなかった冒険者がそう聞いてきた。ユウは思わず頷く。それを見て、男の冒険者はやっぱりなと言った感じ手にしていた。
「俺、兄ちゃんとフウアちゃん見かけたのよ」
「あぁ、なるほど」
「でも、フウアちゃんとか~。あんな子と一緒にやりたいよ、俺も」
「諦めろよ」
「とっくに諦めてるさ」
ユウはそんな笑い話を耳に傾けながらふと思う。そういえば、この前もそんな話を聞いたなと。フウアは案外、冒険者の中では有名なのだろうか。そう思い、彼らに聞いた。
「フウアって有名なんですか?」
「おっ、兄ちゃん知らねーの」
「あの子、めっちゃいい子なんだよ」
「俺、あの子によくお金とかもらってるしさ」
「は?」
最後の言葉に思わず、ユウは言葉が洩れた。先輩の冒険者にマズいことしたなと思いつつ、特に謝るつもりはなかった。明らかに年下からお金をもらうのは正直どうかしてると思うからだ。
「別に誤解しないでくれよ。あっちが渡してきたんだ」
「何でです?」
「いや、俺が防具を欲しそうにしてきたときとか、酒飲んで金がヤバそうだった時とかに」
「あー」
確かにそれはやりそうだとユウは思う。というか、ユウ自身も宿とかこの冒険者の服とかはフウアに払ってもらってるから。そういうことをするかしないかで言ったら、する奴だ。
「良い子だよなぁ」
「でも、少し危うくないか?」
ユウはそうだと全力で同意する。フウアは間違いなく、良い奴なのだ。お人よしで、責任感もあって、誰にでも優しい。間違いなく、良い奴だ。ただ、自分のことを考えてなさすぎるのだ。自分はどうでもいいと言わんばかりに、他者に優しくし続ける。
「んっ?」
すると、ふとユウは考える。あいつは、どこまで他者のことしか考えない人間だ。そんな奴が、迷宮にずっと置いてかれている冒険者達の死体のことを考えないのだろうか?
「……⁉」
嫌な予感がした。他人のためになら、自分のことなんて一切考えない奴だ。想定外の事だったから、無理だったとかで納得できるような奴じゃない。酒を急いで、飲み干す。一瞬、頭に来たが気にしてはいられない。
お会計を澄ました後、急いで店を出る。そして、ユウは宿まで全力疾走で走っていく。宿に駆けこむと、フウアの部屋へと行く。
「フウア、いるか!」
部屋の中まで聞こえるように叫ぶが返事がない。マズい、絶対にマズい。ドアノブを握る。すると、すぐに開いた音がした。
「フウア!」
そう叫びながら、ユウは中に入る。が、そこには誰もいない。ユウが当たりを見渡した時、ふとテーブルが目に入った。テーブルには誰かからの手紙と、メモ書きがあった。メモの方を見る。
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すみません、迷宮に行きます。すぐに戻るので、気にしないでください
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「あの馬鹿ッ!」
その文字を見て、ユウは思わずそう叫ばずにはいられなかった。
Fantasia the Wizard~ある臆病な青年が魔王を倒すに至るまで~ 蒼林檎 @callall
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