1-2 背中を追う影

 村では年に一度、競技会が開かれる。種目は一般の部と少年の部に分かれて行われ、レオンは少年の部の三連覇がかかっていた。


 少年の部の多くは、走る、投げる、木に登るなどの単純なものばかりだが、最も注目されている種目は木工競技であった。


 木工の審査役を担う長老は偏屈で知られ、腕の立つ職人だ。どんな作品にも唸らず首を振るばかりだったため、長らく優勝者不在となっていた。


 広場に着くと、子どもたちが集まっていた。


「レオン、今日も走るのか?」


「ああ。今年は距離が伸びるかもしれないって聞いた。」


「どうせ一位はレオンだけどな!」


 笑いと羨望とからかい。その中心にいることはレオンにとって日常だった。去年も一昨年も主な競技を総なめにしているため、どうしても期待が集まっている。


「三連覇ってすげえよな。父さんが言ってたんだけど、続けて任される者が信用されるってさ。」


「続けることが大事なんだね。」


 アレクはぽつりと言う。

 木を削る時の感触が好きだった。下手なりにナイフが木肌を剥ぐ音を聞き、削りカスが香る時間が好きだった。だが、それが競う舞台で通用するかは別の話だ。


「俺、ちょっとだけ思ったんだ。」


 唐突にレオンがアレクに振り返る。


「お前なら、長老が唸るかもしれないって。」


「僕が?」


「いつも裏の林で削ってるじゃないか。俺、知ってるぞ。」


 アレクの胸に熱が灯る。小さな火だけれど確かにある。


「じゃあ本気出せよ。俺も本気で勝ちを狙うから。」


 届かない背中だと思っていた。

 追えば追うほど遠ざかるように見えた。

 けれどレオンは振り返り、手を伸ばした。


 アレクは初めて、小さく息を吸い、胸の奥で応えた。


(できるところまでやってみたい。)


 影はならんで伸びる。

 ほんのすこし距離が縮まったように見えた。

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