しりとり姉妹

椎本ハルコ

第1話

 あやか かな なみ みあ

 四姉妹の私たちの名前はしりとりになっている。四女の私の名前は「みあ」だから、長女の「あやか」に戻ると、ぐるぐる永遠にしりとりができる。

『姉妹の絆が決して切れないように』

 そんな願いが込められている私たちの名前。

 長女の綾花ちゃんはぼんやりしていて、次女の加奈ちゃんは自由人。三女の那美ちゃんは殻にこもるタイプで、末っ子の私が一番しっかりしている。当たり前だけど、性格が全然違う。だから、四姉妹の絆が切れないように気を配る役がいつも私なのは仕方ない。わかってはいるけど、現状は結構大変なのだ。

 家事の分担表も私が作ったし、割り当てもローテーションも全部一人で考えて決めた。完全に公平にさえすれば、文句は言われないはず。言わせない。

 お父さんもお母さんもこの家にはいない。二人は一緒に美容系の仕事をしていて、海外進出の足がかりを作るために、今はスペインに住んでいる。

 綾花ちゃんは大学生だし、加奈ちゃんは高校生。那美ちゃんと私は中学生だから、四人でも十分普通に生きていける。姉妹だけで生活することを決めたのは、しっかり者の私だ。実質この家のリーダーみたいなもの。

 今朝も朝から洗濯機を回し、リビングの換気をして、フローリングワイパーをかけた。朝食は各自好きなものを調達して食べることになっている。

 本当はトースターでお餅を焼いて食べたかったけど、食パンの賞味期限が今日までのことに気付いて、お餅の個包装を破るのをやめ、温めたトースターに食パンを入れる。パンは焼いてもすぐに冷めてしまうからあまり好きじゃないし、「パン」というネーミングだってスカスカな感じがして好きじゃない。それに、バターがジュワッと溶けてくれればいいのに、塗り始めると途中からパンの表面をジジジと削って茶色の粉にまみれていくのも、汚らしく見えて嫌だ。寝起きでぼんやりしていたら、私を嘲笑うみたいに一箇所だけにさっさとバターが染み込んでいくのも、自分の取り返せない失敗を見せつけられている気がして腹が立つ。それに、食パンはいつだってすぐに冷めてしまうのに、なんでみんな毎朝のように食べているのだろう?

 パンに罪はないのに、こんなにも責めてしまうのは睡眠が足りていないからだろうか?滅多にないことだけど、昨日は夜更かししてしまったからまだ眠い。加奈ちゃんが「いらないからあげる」とテーブルに投げたクロスワードをどうしても解きたくて意地になってしまったのだ。加奈ちゃんが通っている進学校のクイズ研究会は、テレビ番組に出演するほど有名で、自作のクロスワードは想像以上に難しく、ユーモラスで、つい夢中になってしまった。

「美亜、疲れたオバサンみたいなため息。もっと気楽にしないと、もたないよ」

 加奈ちゃんにそう言われて、ため息をついていたことに気づく。

「……余計なお世話。わかってるけどさ」

 加奈ちゃんの朝ごはんは、焼かない食パンとヨーグルト。冷たいものだけだなんて信じられない。

「さて、時間だ。行ってきます!」

 バスケの朝練があるから、加奈ちゃんは毎日早く家を出る。朝練といっても近所の公園で一人でシュート練習をするだけらしいけど。

「スカート、後ろが捲れてるよ」

 加奈ちゃんは、スカートの裾を手で叩くと、振り返らずに手を振って出かけた。

 那美ちゃんは、少しも会話に入らないで、もそもそパンを齧っている。何か考え込んでいるみたいな顔をして、テレビをつけていたって、天気予報も占いもまるで聞こえていないみたいな顔をしている。レンジで温めた牛乳のせいで曇ったメガネを指で拭い、壁の仕掛け時計をチラッと見て、またパンを齧る。今の那美ちゃんは、ちょっとネズミに似ている。あんまり喋らないからか、那美ちゃんは行動次第でいろいろな種類の動物に見えてしまい、ついこっそり笑ってしまう。「動物那美ちゃん図鑑」だって作れそうだ。

 綾花ちゃんは、多分まだしばらく起きて来ない。気配がないから絶対にノンレム睡眠中だと思う。

 七時五十分。

 行ってきますも行ってらっしゃいもなく、家を出た。

 

「親が家にいないって、どんだけ自由なの?うらやましー」

 門限が厳しい蘭ちゃんはいつもこう言う。

「自由っていうより、時計はあるけどアラームがないみたいな感じだよ」

「それが羨ましいんだよー。親ってさ、いくつもアラームかけたバカうるさい目覚まし時計みたいじゃん?」

 蘭ちゃんは大袈裟に机に突っ伏した。タイミング悪く、チャイムが鳴る。まるでアラームみたいだからおかしくなって一緒に笑い転げた。

「蘭ちゃん、席に戻るね」

 蘭ちゃんはひらひらと手を振り、また机に突っ伏した。馬の尻尾みたいに艶々したポニーテールが美しく揺れ、肩から机へと流れていく。掴んで引っ張ってみたくなったけど、さすがにそれはできないから、毛並みを乱さないように気をつけて頭をよしよしと撫でた。蘭ちゃんは、気持ちよさそうに目を細め「美亜〜」と甘えた声を出す。まるで私が蘭ちゃんをコントロールしているみたいな錯覚に陥ってしまいそうで、さっと手を離し「あとでね」と、自分の席に戻った。

 

 放課後、蘭ちゃんは「彼氏とサーティワンに行く」と言って、わざわざスカートを短く折り返した。

「学校出てからにしたら?怒られちゃうよ」

 煽ったわけじゃないのに、蘭ちゃんはツンとした顔をして、もう一回ぐるっとウエストを折り返す。ルールを破ることに生きがいを見出してる蘭ちゃんは、叱られることはわかっているのに、遅刻したりメイクしたりスカートを短くしたりする。

 ルールがあるからこそ楽しいのに、と私は思うけど、そんな私の心の中を知らない蘭ちゃんは、まるで遊びに夢中になっている幼い子どもみたいにウキウキ楽しそうだ。

「美亜、今日は一緒に帰れないけど一人で大丈夫?」

「大丈夫だよ。また明日ね!」

 ハイタッチして別れた。

 ちょうど心理学の本を借りに行きたかったから図書館に寄る。書棚からあれこれ本を引き出して借りるべき本を探していたら、あっという間に閉館時間になってしまった。慌てて貸出の手続きを済ませ、門限なんてないのに小走りで家に帰る。

「ただいま」

 リビングのドアを開けると、バイトでいないはずの綾花ちゃんがソファーにでんと座っていた。右手に持っているビール缶をぐしゃっと潰して、凄い勢いで喋り始める。

「待ってたんだよ!美亜ちゃん、聞いてよ!この間話した脱毛サロン、倒産したんだよ!まだ二回しか行ってないのに。十五万も払って返金なしなんてあり得ない!」

 綾花ちゃんは、大学生になったら絶対に永久脱毛すると決めていたらしい。やっとバイトでお金が貯まったから契約できたと、誇らしげに教えてくれたばかりだった。

「行ったら店が閉まってたってこと?そんな急に?」

 先に手を洗って着替えたかったけど、しばらくこの話から抜けられそうにない。ひとまずソファーに浅く座る。

 綾花ちゃんが欲しい反応は、ほとんど喋らない冬眠中みたいな那美ちゃんからは期待できないし、加奈ちゃんは、いつものバトルゲームの真っ最中らしく、椅子の上に胡座をかいて背中を丸めている。

「……日曜日に行った時は普通だったんだよ。それなのにメール一本で倒産だなんて。説明求めに行ったところで、せいぜい貼り紙があるくらいでしょ?」

 閉ざされたドアに殺到する人々に混じり、モザイクで顔を隠されインタビューに答える綾花ちゃんが思い浮かぶ。悪いけど、なんだかそんな場面が世間知らずの綾花ちゃんに似合うなんて思ってしまった。

「良かったじゃん。急所晒して生きることないし。毛ぐらい自由に生やしとけば」

 突然、加奈ちゃんが揶揄うみたいに話に入ってきた。綾花ちゃんの体から怒りがブワッと溢れる。

「バカ言わないでよ。あんたみたいな高校生とは違って私は大人なわけ。脱毛はマナーなのよ。それに急所って、原始人じゃあるまいし、誰が私の脇の下やお股を狙うって言うの?」

 笑いそうになったけど、このままだと喧嘩になりそうだから、真顔で口を開く。

「飲み過ぎだよ、綾花ちゃん。それに原始人バカにしないほうがいいよ。初めてピアスしたのだって縄文人なんだから」

 加奈ちゃんが、スマホからガバッと顔を上げた。

「ラッキー!このアイテム強っ!ランキング29位だよ。やったあ!」

 この空気の読めなさに私も腹が立ってきた。

「あのさっ!加奈ちゃん、マイペースにも程があるよ。今は綾花ちゃんの話してるの!」

 綾花ちゃんが落ち込んで荒れていても、私が怒っても、加奈ちゃんは少しも動揺しない。

「飲みすぎてる人の話、まともに聞く必要ある?ねえ、それよりピアスの話ってさ、テレビで見たあれでしょ?どこかの博物館に日本最古のピアスがあって、それが縄文時代のものだっていうやつ。綾花ちゃん、覚えてない?」

「いつのことよ?そんなの見た覚えないよ」

 不貞腐れた綾花ちゃんは、冷蔵庫から新しいビール缶をひったくるみたいに持ってきた。プシュッと潰れたような音がして泡が少し溢れた。テーブルの上には潰れた500mlの空缶が2本もある。これだけ飲んだ割には冷静に見えるけど、酔い潰れでもしたら本当に困るから早く寝て欲しい。

「酔っぱらいすぎだよ。バイトも休んじゃったんでしょ?もう寝たら?」

 そう声をかけると、綾花ちゃんは何か言う代わりに、諦めたみたいなため息をついてリビングを後にした。

 開けたばかりのビールがもったいないけど、成人は綾花ちゃんしかいないから、シンクに流す。お酒を飲んでみたい気はするけど、やっぱりルールは守らなくちゃいけない。ドクンドクンと心臓が音を立てるみたいにビール缶が脈打った。

 那美ちゃんは、私たちが、やいのやいの喋っていても、しんとしている。動かないハシビロコウみたいだ。騒がしいリビングが那美ちゃんと馴染むくらい静かになってから、すうっと部屋に引っ込んでいく。いつもそう。ほとんど喋らないのに、喋っている場には必ずいる。姉妹関係を疎かにはしているわけじゃないことはわかる。

 制服のまま、ビールでベタベタしたテーブルを拭いていると、滅多にならないチャイムが鳴った。モニターには、蘭ちゃんが映っていた。

「蘭ちゃん?え?」

 ドアを開けると、短くしたスカートも顔も歪んだ蘭ちゃんがいた。

「どしたの?」

 右の頬だけ、赤い。

「ごめん。急に。門限五分過ぎたら玄関で引っ叩かれた」

 いつものちょっと悪ぶった蘭ちゃんとは様子が違って、一回り小さくなったみたいだ。学校ではこれでもかと言うほど叱られてきたけど、家ではそれなりに良い子だったのかもしれない。

「……とにかく冷やそ?」

 ヒヤロンがあったからハンドタオルに包んで蘭ちゃんに渡す。

「ありがと……」

 蘭ちゃんの手は震えていた。

 体に受けた傷より心の傷のほうがいつまでも治らないし重いなんて思われがちだけど、そうとも限らないのかもしれない。衝撃の度合いと瞬間ダメージは相当なものだ。

 蘭ちゃんは頬にそっとヒヤロンを当てている。

 こういう時、「上がって」と言うべきなのだろうけど、それは困る。咄嗟にもっともらしい言葉が思いつかなくて、「えっと……」の後が出てこない。

「なにこれ?」

 蘭ちゃんは、靴箱の上にかけてある額に、顔を近づけた。

「あ……ごめんごめん!変だよね?気にしないで。一応、家訓なの。冗談みたいなものだけど」

 玄関には家訓を書いた額がかけてある。


『家族間での会話は全てしりとりで行うべし』


 蘭ちゃんは声をあげて読んだ。私は悪戯っぽい笑い方をして無言で頷く。

「へえ。うちの門限みたいなものかなあ?美亜の家族って面白いね。遊び心があるっていうのかな?家訓を破るとどうなるの?」

 蘭ちゃんの表情は少しだけ明るくなった。反対側の頬にも少し赤みがさしている。

「えっ?えっと、何もないよ。別に」

「そうだよね。しりとりで負けたって私みたいに殴られたりするはずないもんね」

 私は口角をあげて頷いた。

「……やっぱ帰るわ。明るい家庭にお邪魔するの申し訳なくなっちゃった。楽しい気持ちの時にまた来てもいい?」

「……いつかね」

 気持ちのいい返事ができないでいると、リビングから、お姉ちゃんたちが出てきた。

「お友達さん、帰っちゃうの?」

 加奈ちゃんはいつも通り愛想も調子もいい。

「あっ、また今度遊びにきまーす」

 蘭ちゃんと加奈ちゃんの波長は合いそうだ。

 珍しく那美ちゃんが「いつでもどうぞ」とフレンドリーに言った。

 綾花ちゃんは長女らしく鷹揚に微笑んでいる。酔っぱらいには見えなくて、ほっとした。

「ありがとうございます。それにしても……四姉妹で全然似てないんですね」

 蘭ちゃんは首を突きだして、私たちの顔を何度も見比べる。

「そうかな?」

 私たちは顔を見合わせて笑った。

「美亜の家、まじ楽しそう!」

 蘭ちゃんは、ぺこりと頭を下げて帰って行った。

 指摘された通り、私たち姉妹は似ていない。それは当たり前だ。みんな血が繋がっていないのだから。

 四人揃って額を見上げる。この家訓さえしっかり守っていれば、住む場所も食べ物も学校もお金も十分に与えられる。

 貰われてきたのは私が一番先だったからか、長女みたいな役回りが染みついてしまった。いつの間にか末っ子になってしまったけど。

 今のお姉ちゃんたちは二代目。その前にここにいた絢香ちゃんと佳奈ちゃんと菜美ちゃんは、家訓を守らなかったせいで、一人、また一人とどこかへ消えた。

 絢香ちゃんは、どんな言い訳も綺麗事も通じないことがわかっていたみたいで、黙って連れて行かれた。

 佳奈ちゃんは「みんながバカだからこうなった!クソ!」なんて大声で悪口を叫びまくって暴れ、皿やテレビのリモコンやスリッパを投げまくった。

 菜美ちゃんは「ビデオには映ってなかったかもしれないけど友達が来てた」と嘘をついて逃れようとした。

 あっという間に、私一人になった。だけど、すぐに新しい加奈ちゃんが来て、那美ちゃんが来て、三ヶ月前に綾花ちゃんが来た。

 家訓には注意書きもつけてある。


『他人がいる時、家訓は無効とする』


 蘭ちゃんが来た時点でしりとりは解除されるから、那美ちゃんも心が大きくなって口を開いたのだ。

 家訓にまつわる禁止事項も二つある。


『リビング以外の場で姉妹が共に過ごすことは禁ずる』


『自室に長時間篭ることも禁ずる』


 那美ちゃんは、家族だけでいる時は口をつぐんで身を守る。加奈ちゃんは、家にいる時間を減らす。綾花ちゃんはまだよくわかっていない。

 私はしっかり者だから、次の人が話しやすいよう語尾を「あ」か「う」で終わらせる。そうすれば、「あの」とか「うーんと」とか、考えなくてもしりとりが続くからだ。逆に話を終わらせて解散したい時は「らりる」で終わらせて話を詰まらせ、みんなを自分の部屋に引っ込ませる。

 ウワンウワンウワン

 警報が鳴る。

 リビング以外の場所で、姉妹だけで集ってはいけないのだ。目を見合わせて、リビングに戻る。目の前の仕掛け時計の中に隠されたカメラが、じっと私たちを見つめている。

 私たちは監視されている。いつも見られている。

「どしたの?美亜ちゃん、にやっとしてるけど」

 綾花ちゃんはカメラを意識して言う。誰も喋らない状況は好ましくない。珍しく長女らしい綾花ちゃんを、私は少しだけ見直した。また、しりとりが始まる。私は「ど」から始まる言葉をすぐに見つけた。

「どうもしてないよ。綾花ちゃんこそ、もうこの家に慣れてきた?」

 綾花ちゃんは、仕掛け時計をチラッと見る。「た」から始まる言葉を見つけるのはそう難しくない。

「たった三ヶ月で慣れるはずないでしょ。いくら飲んだって全く酔えないよ」

 父と母は、半年に一度くらい帰ってきて、重そうな瓶に入っているお酒を飲みながら、「遊びはシンプルなほど面白い。そうよね?」と言って笑い、私の頭を撫でる。

 お金があるって素晴らしい。いつでも、あやかかななみを手に入れ、取り替えることができる。着替えるように簡単に。

 最初に貰われてきたのはこの私だ。父と母は長いこと子供に恵まれなかったから、大喜びで私を迎え、溺愛してくれた。私が好きだったしりとりをいつまででも一緒にやってくれた。

 しりとりで遊べる姉妹が欲しいと言ったのは、私。

 しりとりが上手じゃない子はすぐに交換してと言ったのも、私。

 姉妹だけで暮らしてみたいと言ったのも、私。

 仕掛け時計にカメラをつけて、いつでも私を見て安心してと提案したのも、私。

 父と母は私の願いは何でも叶えてくれる。

 でも、さすがにもう帰ってこなくていいとは言えないから、「スペイン」にいくことを勧めた。「ン」で終わる国だから、もう次に行く国はないし、日本にも帰ってこなくていいと暗に伝えたつもり。でも、よく考えてみれば、まだお父さんとお母さんは必要だから、一生楽しめるくらいの最強姉妹が揃ってから、賢い私の意図に気付いてくれればいいな。

 あやかかななみには嘘をついた。しりとりに失敗すると追い出され、そのあとはどうなるのか知らない、と。姉妹で力を合わせて上手くやっていけば、ここで何不自由なく暮らせるから頑張ろう、と。

「しりとり出来ないほどバカなの?」

 こんなふうに、お姉ちゃんたちを煽ったり、傷つけたりするような言葉だってたくさん言った。綺麗事だけ並べても、他人を頑張らせることなんて出来ないから、お姉ちゃんたちがムキになるような言葉を探して、時折投げ込む。そうすればきっと真剣にしりとりをやってくれると思ったから。基本の飴と鞭だ。

 人を操るのは楽しい。だけど簡単じゃない。私はもっと人の心を研究しなければいけない。そのための努力なんて楽しみでしかないのだ。

 加奈ちゃんは、もしかしたら何か気付いているかもしれない。私たちをイライラさせたり怒らせるようなことを言ったり、突拍子もないことを言ったりするわりには、危なげなくしりとりを続けるから。

 もしかしたら、加奈ちゃんには体を傷つけるような罰が必要なのかもしれない。さっきの蘭ちゃんを見て、そう思った。心理学だけじゃ足りないのかも。

 あんまり喋らない那美ちゃんもそろそろ何とかしないといけないし、綾花ちゃんとのしりとりは、慣れていないだけかもしれないけど、面白くない。

 蘭ちゃんには悪いけど、「ん」で終わる名前なんて不吉だから、うちには上げられなかった。友達だし、心配だけど、無理なのだ。

 大好きな「しりとり」にいつまでも付き合ってくれる本当の姉妹になりたい。駄目なら何度でも交換すればいい。

 あ……姉妹は不吉だ。「おしまい」のしまい。お兄ちゃんか弟を迎え入れなければ!入れ込めるちょうどぴったりの名前を考えよう。


 窓の外は真っ暗だ。夜が来て、また朝が来る。しりとりみたいにずっと続く。


 

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