第4話【ないものねだり】

テーブルセットを片付けて、洗い物をしている内にヴェスタがシャワーを終わらせて来た。

「あがったよお」

色々とエネルギー節約をアイカが決めて、空調も自動ドアも停止中だ。

入口はあけっぱなしでいいよね?となりシャワー室兼トイレだけは手で開け閉めしている。

女の子の二人暮らしなので、もちろん外部ドアはロックまでする。

訪問者は捉え次第攻撃されるのだが。

そういった油断からか、髪を拭いているヴェスタは全裸だ。

「ちょっとヴェスタ裸でうろうろしないでよ」

「え?だってまだ髪が乾いてないから‥‥すぐ着るよ?」

ヴェスタにはジュノに対する羞恥は無いようだ。

「わたしが気になるよぉ」

ジュノは少しだけ羞恥がある。

ヴェスタのほうが少しグラマーなのだった。

保護スーツのリングを装着し、シュッと保護膜が色々隠した。

保護膜ごしでも湿気を感じるので、乾かしてからでいいかとヴェスタは付けなかったのだ。

火照った肌にも風が気持ちよかった。

やっとジュノもヴェスタを視界にいれて、交代する。

「ベッド出しておいてねヴェスタ」

洗い物を片付けて、キッチンも片付けるジュノ。

ミニキッチンも壁に収納される仕組みだ。

「はーい」

ゴシゴシとまだ髪を拭いているヴェスタが答えるとジュノも通路の向かい側にあるシャワー室に入る。

そこには一応身だしなみ用に大きめの鏡がドアに貼られていて、上半身を写している。

シュッと保護膜をしまうとほとんど全裸と変わらない。

首と腰に細い銀のリングだけが残るのだ。

ブーツは普通にブーツなので脱いで部屋に置いてきていた。

普段はスリッパをつかっている。

ジュノのは水色でかわいい猫デザインが入ったスリッパだ。

このプロジェクトに参加してから数少ない女の子成分であった。

スリッパの猫が可愛いなと、にっこりわらってドア横の壁にある履物入れにしまう。

ここの床はシャワーを使うと全部濡れるのだ。

手を広げられないくらい狭いスペースだが、ジュノにとっては鍵がかかる貴重な個室。

貴重なプライベートの時間なのだ。

この星にくるまでの3ヶ月の旅でもヴェスタとはうまく生活出来ている。

唯一気にしてるのはヴェスタが裸で平気そうにすることだ。

「‥‥わたしだってそれなりにあると思うんだけど」

そういって両手ですくい上げるように胸を持ち上げた。

むにゅんと変形したそこは平均的女子より立派だろう。

ヴェスタが立派すぎるのだ。

保護膜で覆うと下着のようにサポートするので形が整うが、とると柔らかいのでぷるんと下がるのは普通なのだ。

ヴェスタのようにパンと張って、形が変わらないほうがおかしいのだ。

そう言い聞かせるジュノ。

「ま‥‥あんま気にしちゃダメだ‥‥」

自分でちゃんと結論を出すジュノだが、3ヶ月も気にしてきているので、なかなか難しいようだ。

シャワーを使い身体を綺麗にしながら、色々と考えてしまう。

(0.6Gの人工重力とちがって‥‥1.1Gあるこの星では‥‥差が大きく‥‥)

そこまでまた考えてふるふると首をふるジュノであった。

色々考えるのはそこだったらしい。

長期移動中は節約のためほとんどを無重力ですごしたが、寝る前後の生活時間は人工重力が少し入り運動などをする。

その時間にヴェスタは裸でうろうろするので、ついつい見てしまうのだった。

このように普段悩みのなさそうな明るいジュノだが、心に秘めた悩みがあるのだった。

湯気で曇る鏡を見てまた胸を持ち上げ、ため息まででてしまうのだった。

「はぁ‥‥ヴェスタはかっこいいなぁ‥‥」

自分では割と気に入っていたはずの身体が、ヴェスタというジュノの理想の身体をみて価値を下げてしまったのだ。




天井と壁に仕舞われているベッドを引き出し引き下ろす。

二手順で寝床が準備され、シーツもマクラも綺麗なものが洗われて準備されている。

こういった室内の清掃や洗濯なども、今は船の設備を使わず手動でしている。

しているといっても持っていって突っ込むだけなのだが。

正常に本船が動いていればベッドから勝手に回収して、新品のものがベッドメイクされる。

今は自分達でするので、ベッドメイクはヴェスタの仕事になっていた。

ヴェスタも一人になると思うことが有る。

(ジュノはどうしてあんなに明るくて可愛いのだろう‥‥うらやましいな)

ヴェスタもこの3ヶ月一緒に生活してジュノの可愛らしい仕草や考え方に憧れた。

そもそもヴェスタは施設で生まれ施設で育ったので、あまり他人と仲良くしてこなかったのだ。

記憶をたどってもジュノほど魅力的な女の子は見当たらない。

(笑顔が‥‥とても可愛いな‥‥わたしもあんな風に笑えたら良いのに‥‥)

初めて会った瞬間からヴェスタはジュノにそうして憧れたのだ。

生き生きとした動き、楽しそうな笑顔。

そういった自分の回りになかったものに惹かれたのだ。

自分の分が終わり、はしごを上りジュノのベッドを整える。

ヴェスタのは無地で色気のない白い支給された寝具だが、ジュノは自分で持ち込んだ可愛らしい寝具をつかっている。

水色が好きなのか、掛ふとんのカバーは、薄い水色の縦しまストライブでかわいいデザインだ。

まくらカバーは同じ色の無地だが右下に猫が入り、とても可愛い。

すんすんと臭いも嗅いでしまう。

洗濯しても残る甘い匂いはジュノからもするので、体臭なのだろう。

(いいにおい‥‥)

自分も結構甘い匂いをさせているのだが、自分の匂いはあまり気にならないものだ。

この旅の間に他人の側にいることで、匂いという条件を知ったのだ。

そしてジュノはいい匂いだと定義した。

下にもどって自分のマクラも嗅いでみる。

(これはシャンプーの匂いなのよね)

いい匂いではあるのだが自分の匂いだと思えなかった。




作業が終わって髪をドライヤーの温風で少し乾かしているとジュノが戻った。

すぐ目の前がシャワー室なので、出てくるのが見える距離だ。

すっかり髪が乾いたヴェスタはドライヤーをそのまま引き出し式のサイドテーブルに置いた。

そこは二人が化粧台として使うので、鏡が貼り付けられている。

「ジュノつかうでしょ?ドライヤー」

ドライヤーは個人のものだが、同じような性能のものなのでヴェスタの物を共用していた。

「うん、つかうーそのまましてて」

おしおしと髪をタオルにくるんで、ちゃんと保護膜を展開して入ってくるジュノ。

ちらと視線があう二人。

((いいなぁ))

そうしてお互いを羨む二人であった。

仲良しの秘訣なのかもしれない。


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