第3話【周囲を偵察しましょう】

銀河中央連邦の外縁開拓はもう随分と昔から取り組まれており、すでに探査は80%以上終わっている。

特に有用と思われる探査星系だけで数億単位であるのだった。

そのなかでも優秀な惑星を含む星系は、長い時間を書けて開拓してきた。

勇気ある開拓者達を歴史と伝統に乗っ取りハンターと呼んでいた。

そのハンター達はハンターオフィスと呼ばれる組織に所属し、能力と実績に応じてクラス分けされていた。

ヴェスタ達はクラスDの新人だが、連邦に所属する有力国家がプロジェクトして送り込んできた。

今回のプロジェクトには大きな目標が2つ有る。

一つは勿論今後に向けた開拓拠点の構築。

もう一つはヴェスタとジュノに加えられた実験のデータ取得だ。

この実験はデータに意図的差異のでないよう、被験者には秘されていた。


「海はちかいね」

ジュノは水色のガーダーを各所に付け、頭にはヘルメットとバイザーをおろしている。

あごと口は出ていたので会話は実声でしていた。

インプラントされた装置でも通信可能だが、ジュノとヴェスタは同郷なので言葉が通じる。

「そうね、戻ったらすぐホースを引っ張りましょう」

海水を採取できればエネルギー貯蓄にも、ナノマシンの増殖にも使える。

「アイカ、なにかあったら教えてね。いってきます」

『はい、気をつけていってらっしゃいヴェスタ。こちらでも船体側タスクの準備だけ進めておきます』

アイカの声はジュノにもヴェスタにも通信として届く。

「お土産さがしてくるね!アイカ」

『情報だけでいいですよ。ジュノも気を付けて』

「うん、いってきまーす」

ジュノとヴェスタ側の会話も通信として届けていた。

通信媒体は霊子波と言われる距離や障害物による減衰やラグのない便利なものだ。

この通信も小型開拓船の機能を使うので、スタンドアローンでは二人の間でも使えない。

一度船体のアイカが受け取り、リアルタイムに相手に届けているのだ。

もちろんエネルギーを消費するので、節約のため定時連絡だけの予定だ。

「事前調査のマップと、今回の落下時に撮影した画像で見比べると現在地はここね」

インプラントデバイスは映像の共有もオーバーレイで視覚に割り込める。

今二人にはミニマップとして右下に表示されていた。

この共有は本船を経由しないので、コストが低い。

通信媒体は電磁波だ。

「そうだね、実際の地形とも誤差はほとんどないね。予定通り右回りで海岸線を回って行けるとこまでいこ」

ジュノが計画した偵察コースなので、ちょっと緊張しながらもしっかりとコースをなぞる。

ミニマップにも二人の現在地とともに表示済みだ。

よほど離れなければ、この個人通信もみだれはすくない。

「海の色が濃いね‥‥想定したより深いのかも?」

ヴェスタの声は少し心細そう。

事前調査ではスペクトル分析で主に地形を描く。

現地での精査は必須項目だ。

「ほんとだ‥‥なんだか怖いよ‥‥大きな敵性生物とかいないよね?」

ジュノもすこし不安がまじる。

「ここはかなり大きいけど島なんだよねえ‥‥必要なものが全部あるといいけど」

「うん‥‥あ!あれ見てヴェスタ!!」

ジュノが海岸線を走り抜けながら、すこし内側の森沿いに露出鉱床を発見する。

走りより、調査採取用のマインビームを手首から当てる。

分析は本船のアイカから回ってくる。

『いいですね。錫の含有量が多いです。サンプルをもう少し取ってきてください』

「りょーかい!」

にこにこになったジュノがビームをあちこちに当ててサンプルを取った。

ヴェスタは周囲警戒しながら、ジュノのそばまで来た。

「これで銅があれば更にはかどるね」

「うん、花崗岩は初期リスにあったもんね」

ジュノはゲーム好きなので、そちらの用語がちょくちょく交じる。

拠点を「初期リスポーンポイント」と表現するのだ。

距離もチャンクなどと表現するが、流石にそれはわかんないからやめてとヴェスタに止められた。

「これくらいでいいかな‥‥じゃもう少し進もう!」

「うん、警戒は任せて前だけお願い」

ヴェスタはそのまま周囲警戒しながらジュノに続いた。

二人の保護スーツは外骨格のように動作の補助もするので、走行速度もジャンプ力も非常に優れている。

ちょっとした超人の完成だ。

特にジュノは身体を動かすのが得意なので、上手にスーツを使いこなす。

ヴェスタはまだ練習中だ。

フル稼働で1時間程度のエネルギーを持ってきているので、現状は30%程度の出力で2時間の偵察を予定している。

本船にいる間は勝手にチャージされ、キャパシティを強化すればさらに稼働時間を増やせる。

そのためには最低限、錫と銅と花崗岩が要るのだった。




本船まで戻った二人は一旦充電の意味でも船内に戻る。

船内にいれば保護服はどんどんチャージされるのだ。

「ただいまーアイカ」

ジュノはもどるなり防具を外しだす。

『おかえりなさいジュノ、ヴェスタ。収穫でしたね』

「ただいま。銅はなかったけどね」

ヴェスタも習って防具を外す。

防具は保護スーツと別でチャージなので最初に充電にまわす癖をつけようとジュノから提案されていた。

『錫だけでも大分違います。木材の次くらいには欲しい素材でした』

「そっか‥‥ちょっと先までの目標も表示しておいて」

「そうだね‥‥なんか見えたほうがモチベーションあがるよ」

視界の左下に目標と進捗をしめすバーが追加された。

項目は木、石、錫、銅となっている。

ジュノも同意しながら、電磁ポットでお湯を沸かす。

紅茶を飲もうと誘っていた。

「アイカにもご馳走したいな、紅茶」

『そうですねティア1でも人間程度のものなら作れます。ヴェスタどうです?一度つくりますか。細かい作業なら手伝えるようになりますし』

ちょっとだけ考えるヴェスタ。

「プロジェクト全体の効率が上がるならむしろ歓迎だわ‥‥あがらなくても歓迎だけどね!」

にっこり笑顔でこたえたヴェスタ。

うんうんとジュノも嬉しそうにする。

「アイカの義体かわいいから好き。早く作って!」

二人はこの船に乗る前にアイカの使っていた義体を何度か見ていた。

『戦闘には向きませんが雑用くらいは可能になります。消費は二人よりすくないですよ?』

クスクス笑いのニュアンスがアイカの声にはあった。

「ふふ、ジュノより燃費よさそうね!」

「ひどぉい、そんなに食べないもん」

『あはは、じゃあ早速作りますね、さっきもらった木材と花崗岩のサンプルで作成可能です』

ジュノが指をあごにあてて考える。

「どれくらいでできるの?」

あざといポーズだが無意識だとヴェスタは知っている。

『8時間もあれば出来上がるので、明日の朝食は3人分おねがいします』

「はーい」

ジュノとアイカが楽しそうにするので、ヴェスタもしっかり笑顔になった。





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