【円城塔先生へ】丑の刻参り!!!
立花 優
第1話 儀式と経緯
あれは、遥かに、遠い遠い昔の事。
このワシが、高校生時代の事じゃったのう。
当時、県内、最低の高校の普通科に進学してのう、何故と言うに、運悪く中学三年生で体を壊してのう。
当時、I県K市の駅前にあった、国立病院に入院したんじゃが。
そやけど、先程の病気で、すっかり「体力」に自信を無くしてのう。まあ、県内最低の公立高校に進んだのじゃがなあ。
それにのう、ある諺にもコロリと騙されたんやろうなあ。いわゆる、
【鶏口となるも牛後となるなかれ!】とな。
だがなあ、高校には、その高校の独自の校風があるんじゃ。
どうしようも無い、ゴミやクズの高校の独自の校風がのう……。
いくら勉強しようと思っても、同級生らは、全員でワシの足を引っ張る。
周りをみても、アホやバカばっかりじゃ、どうしようも出来ないわなあ。
更に、拍子の悪い事に、上級生の番長グループに、目を付けられてのう。
普通科じゃねえ、県内最低の商業科だから、今になって思えば、猶更、目を付けられたんじゃろうのう。
腕力じゃ、4人から5人で、いつもつるんでいる、あのグループには絶対勝てないわなあ。
では、どう言う方法が有ると言うのか、色々と考えてみたんじゃが……。
出した結論は、のう。
学ランの右ポケットに隠し持った、先の尖って良く研いだナイフで、グループの天辺(てっぺん)の番長を刺すか、
もう一つは、人にも言えないような危険な武器じゃったのじゃ。
いわゆる、鎖鎌で言う、その鎖の先に、文鎮の銅製の小さな重り(重さ、十数グラム?)を針金で縛りつけた武器だったや。
当時は、ブルース・リーの例の「ヌンチャク」は、まだ知らなかったからのう。
高校から帰ってから直ぐに、裏山にある杉林に行ってのう、その杉の太い木の幹に赤いインクで印を付けて、その分銅付き鎖をブンブン振り回す。
で、如何なる角度からも、如何なる場所からも、その赤い印に、確実に命中させれるだけの技術は、何とか身に着けたのじゃ。
狙うは、上級生の番長の「眉間」か、鼻の下にある「人中」と言う急所だ。
伝統空手道で言う、人間の正中心上に並んでいる、全て、一撃必殺の急所である。
じゃがのう。
私の腕が上がる程、ホントに一撃で相手を殺せる事が分かってきたんじゃのう。
だが、ここでやが。
本気で、あの武器の鎖分銅を使えば、この私は、確実に番長を殺せるのだ。
だがだよ。
一旦、その武器を左ポケットから取り出して、番長を狙ってだよ。
仮に、「眉間」や「人中」に命中出来なくても、右目や左目に当たるだけで、一瞬で失明は免れ無い。
こうなると、少年法により、触法少年として、少年院に送られる。
運良く、「眉間」や「人中」に命中すれば、多分、即死になるのだ。
その歳で殺人犯には、流石に、なりたくねえわなあ。
で、色々とオカルト関係の書物を読んでいるとだなあ。
呪殺と言う方法、つまり古来から、「丑の刻」に神社に行って、神社の御神木に、藁で作った人形に、五寸釘を打ち込んで、呪い殺す方法を、発見したのじゃよ。
これだと、如何なる証拠も残らず、上級生の番長を、この世から消す事が出来るのじゃのう。
ああ、嬉しやな、嬉しやな、嬉しやな。
親にも、兄弟にも、親戚にも、誰にも、如何なる迷惑を掛けないのやから。
遂に、このワシはのう、この方法しか残っていなかったと言う事に気が付いた。
ヤってやる。ヤってやる。ヤってやる。
後に進んだ大学で学んだ「刑法」では、「丑の刻参り」では人を殺せぬとして「不能犯」と定義されていたんじゃがのう。
その時は、知らんかった。
「そんなことより」(現高市総理大臣の答弁風に……)もだ、
「果たして、生きて、無事にこの高校を卒業できるのか?」のほうが、より切実な問題だったのや。
しかし、加速度的に、このワシの思いのみは、進んで行く。
だが、困った事に、藁人形を作る為の、藁が手に入らねえ。
そこでだなあ、ボール紙を、人の形に切り抜き、金物屋で買った五寸釘、金槌を用意してじゃなあ。
更に、本来は、この儀式は、2本の蝋燭を鉢巻で頭に縛って行うらしいのじゃがのう。
流石に、そこまで用意すると、万一、誰かに見られた時に言い訳が効かない。
そこでじゃ。単三乾電池2本入った細長い懐中電灯を、2本用意し、1本はズボンの左ポケットに、もう1本は神社への道中の道明かりにする事にしたのじゃ。
服装は、学ランにした。
家で飼っていた猫が出て行って、その猫を、探している事にしてじゃのう。
これで、ほぼ、用意万端なのじゃ。
しかし、不思議な事に、その呪いの紙人形を作っていても、如何なる怪奇現象も何も起きはしねえ。
俗に言うポルスター現象も、急に奇妙な物体や神様や悪魔が出現すると言う、オカルト本に書いてあったような超常現象の何にも、起きはしなかったのや。
こりゃ、実に、不思議な話じゃねのえかい?
少なくとも、相手を呪い殺すべく必死で頑張っているのにやなあ。
如何なる、怪奇現象も、このワシの周りでは、只の一片も起きはしねえのだ。
このワシの努力は、全て、無駄になるんかい?
その年の夏休み、目も当てられない程の太陽光を浴びている運動場の「光る砂」の前で、私の左手の甲に、凸レンズで十字架(クロス)の焼け跡を刻み付け、一種の「狂人」を演じて、その場の校内暴力を逃れた私だったのじゃがのう……。
その私を、更に激怒させた事が起きたのじゃ。
そのバカ高校では、それまで全員、男子は全員、坊主姿と決まっていたのやが、当時の生徒会長が頑張って、9月1日から、運動部員以外は、髪を伸ばして登校していい事になったんや。
この私にはどうでもいい事だとは言え、夏休みの間には、長髪にしていたんじゃがのう。
高校に行くと、例の番長グループに呼び出され、「お前は、長髪だけは切って来い」と命令されたんや。
せっかく、1ケ月以上かかかって伸ばした髪だ。
これを、切って来いだと、何だとぅぅぅ……。
これで、完全にブチぎれたこのワシじゃったんじゃ。
いよいよ、呪殺の即日、決行だ。
その日の事はじゃ、今でも、ハッキリ覚えておるんじゃ。
まず、家族が全員寝静まった真夜中の午前0時に、水道からの冷たい水を、バケツ一杯に入れて頭からそのまま被っての、即、身体をタオルで拭き、新しいシャツと下着を履いたんじゃ。
何故と言うに、身体を清めなければならんからじゃ。
寒く無かったかって?
イヤ、ヤるき満々だから、全く寒くはねえ。まだ、9月中だしなあ。
そして、丑の刻とされている、午前2時から、行動開始なのじゃ。
只、金槌は持って行くのを止めた。万一、神社に行く途中で、夜間警備中の警察に尋問されると、説明が付かないからのう。ここは、前もって、小石の大きめなのを、神社に隠しておいたんじゃ。
ここで、それでも、万一、神社付近で警察に見つかった場合は、勉強の成績が良くなるように、敢えて真夜中に祈願に来た事にして弁明するつもりじゃったんだ。
いわゆる、お百度参りなのだ。
しかし、裏道を通り、コッソリと歩いて行って、約10分で神社に着いた。
上手い具合に神社に着く迄に、誰にも見つからなかったよ。
いよいよ、「丑の刻参り」の実現だ。
このワシは、全精力を込めて、腹の中に隠し持っていた、ボール紙で作った人形の切り抜きの「心臓辺り」に、五寸釘を、大きめの石で、御神木に打ち込んだ。
「死ね、死ね、死んでしまえ!」と、なあ。
真っ暗闇の神社の境内で、明かりは、ワシの額にタオルで縛り付けた、2本の細長い懐中電灯だけだった。
普通の人が見たら、完全に「狂人」だろう。
やがて、5分間、呪いを込めて、五寸釘を打ち込んだ後、今度は、その石を使って、五寸釘を上から叩き付け、グラグラにしてから、五寸釘と紙人形を抜き取り、コッソリと帰路についた。
全力での呪いである。
アドレナリン全開だから、全身から汗が出た程だよ。
先程、水道の冷水を被ったのにも、だよ。
このワシの呪いの本気度が分かると言うものじゃろうよのう。
さて、自宅へ帰って、仮眠を取って、次の日、意気軒高と高校へ行ったのやが。
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