転生少女リリアの魔法の旅
amya
1章
第1話 転生か夢かわからない
第1話 転生か夢かわからない
――ぬるい風。
草の匂いがする。鳥の声が聞こえる。目を開けると光の粒子がただよっているのが見えた。
「……ん。ここ……森……?」
ゆっくりと体を起こす。
視界いっぱいに広がるのは、見知らぬ景色。
幻想的で、美しいのに。
「……え、なにここ?夢……じゃないよね……?」
両手を見る。
細くて小さい、十二歳くらいのときの小さな手になっていた。
「えっ、えっ!? わ、わたしの手!? ちっちゃ……!」
それにこの服、濃い桃色のワンピースで太もも出てるし、ヒラヒラしてて、
17歳の私にはちょっと恥ずかしい。
全身見ようと慌てて立ち上がろうとして──
どてっ。
「きゃっ!?」
木の根につまずき、顔面から土へ突撃してしまった。
頬には土がつき、髪には葉っぱが絡まり、口の中には草の苦い味がした。
「……え、なにこれ……夢にしてはリアルすぎ……?
転生……?いや、そんなわけ……ある?」
土に汚れた自分の姿や訳の分からない状況に半泣きになる。
そして、さっきまでの記憶が、唐突にフラッシュバックする。
高校でのホームルームが終わって、電車に乗り、自宅近くの駅からのいつもの帰り道。駅前のバス停からバスに乗り、シートの揺れに合わせながら帰宅後の宿題のことを考えていた。
ふいに私の席に向かって横から迫るトラックが窓越しに見えた。
耳に痛い程のブレーキ音。金属音。まぶしい光。
ガシャアアアアン!
生きたい!と強く思った。
周りの人の叫び声が聞こえた。全身に痛みを感じた。そして闇。
「……え……あれ、夢……だった……の?」
声が震える。
でも、不思議と苦しさはない。
ここは現実? 夢? 死後の世界?
(いや、考えてもわかんない……とりあえず、生きる!)
ぱちん、と頬を叩く。
ゴォォォ……
頭上から低く響く唸り声が聞こえた。
見上げた視線の先には、赤い眼で炎のような揺れるたてがみのある巨大な狼のようなものがいた。
「ひっ……!? ちょ、ちょっと待って!?
さっきまでバスに乗ってたのにいきなりボス戦てどゆこと!?」
巨大な狼のようなものが牙を剥く。周りには火花が散っている。
鼓動が速くなり、手が震える。
「で、でも……何もできずに終わるのはイヤ……!」
震える両手を前に突き出す。
「魔法……とか出ろっ!お願いっ!!」
……無音。
「あれ? 魔法さん?お休み中?起きてぇぇ!」
その瞬間、足元が光る。
「え、なにこれ……魔法陣……?」
地面に浮かび上がる、幾重にも重なった光の紋様。
複雑な円が私を中心にゆっくり回りはじめ――
急に、ぶわっと速度を上げた。
「ちょっ、なにこれっ!? 回ってる回ってる回ってるーー!」
凄まじい勢いで輝きが増していき、
次の瞬間、光が足元の一点に凝縮して――
「あ、これ絶対やばっ、まっ──!」
ドゴォォォン!!
紅蓮の光が爆ぜ、風が渦を巻く。
光の粒子が花火のように散り、木の葉が吹き飛ぶ。
「ひゃあああぁぁ!?森さんごめんなさーーい!!」
巨大な狼は吹き飛び、リリアも宙に舞っていた。
ずさぁっ。
「う、うぅ……目が回る……」
狼は尻尾を巻いて逃げていった。
「……勝った……?いや、事故では……?」
呼吸を整え、胸に手を当てる。
「……生きてる……夢じゃない、よね……?」
ふらりと立ち上がる。
でもすぐ足を滑らせて、
すってーん!
「きゃあああああ!?」
葉っぱまみれで空を見上げる。
「……どこかわかんないけど……とりあえず、生き残りを優先しよう……」
強がりか弱音かわからない声。
夢なのか現実なのか、転生なのかさえもわからない。
でも、小さく息を吸い、前を向いた。
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