ペン
三角
靴底
今度の休日は充実させたい、と願った先週の自分を裏切ってベットに寝転がる。
まだ真っ白な壁を眺めているとどうしようもなく虚しさが込み上げて、とりあえず部屋の整理をしてみようと飛び起きた。
何気なく漁った棚の中に、黄色のマーカーペンがひとつ。随分とボロボロで、もうインクも出なかった。
こんなもの捨てようとゴミ箱に手を伸ばした瞬間、鮮やかな記憶が蘇ってくる。そうか、これは自分の物ではないのか。
学校を卒業してから取り違えに気づいたペン。いつか会えたときに返そうと思っていたけれど、結局会えないまま大人になった。
いつだか、彼はどこか遠い国で働いていると聞いたから、もう返せる機会はないんだろう。
そのペンの持ち主が好きだったバンドの曲が脳内で流れ出す。澄み切った青空のような曲を作るバンドで、彼にぴったりだと思ったのが懐かしい。
思い出が心を満たして、気づけばイヤホンを手に取っていた。
記憶の中の曲名とバンド名は褪せてしまったから、辛うじて覚えているひとフレーズを打ち込んだ。
表示された文字列はあの頃の時間を閉じ込めているようで、流れ出した音に感じたのは記憶と違えない快晴の空だった。
何もかもが変わってしまったと、今日までは思っていた。
かつて同じ道を歩いた同級生と別れ、少し走っただけで息切れするようになった。日光の持つ心地よさを忘れ、すっかり社会の陰に溶け込んでしまった。
灰色になった生活に、変わらないその音は青い色をつける。
友と浴びていた陽の光が懐かしくなった。
ペンを棚にしまって、買ってから一度も使っていない真新しいスニーカーを取り出す。
まだ綺麗な靴底。これから何を踏み締めて擦り減っていくんだろう。
せっかくの休日だから、どこか出掛けてみようか。
ペン 三角 @Khge-132
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