輪廻の桜
しとえ
輪廻の桜
また会いましょう
どうかその時に
私だとすぐにわかるように
目印をつけておきましょう
あなたの名前と同じ
桜の花を1つ
「今度さ一緒に出かけない?」
幼なじみがいきなりそう言ってきた。
中学生になって小学校の頃より校区が広くなった。
3つの小学校が校区の中学校に通う。
生徒数は2.5倍。1クラスだった学年は3クラスになった。
クラスメイトはそれぞれバラバラ。彼女とも違うクラス。
当然、顔を合わせることもすっかり減ってしまった。
仕方がないこととはいえ、どこかほんの少し寂しかった。
「いいけど、どうしたんだよ」
「だって来週誕生日じゃん」
そういった後彼女は目をそらした。
気難しそうに眉を釣り上げ、頬が少し赤くなっているような気がする。
じゃあ週末9時に待ち合わせ、分かったね
そう 吐き捨てると自分のクラスにさっさと戻って行ってしまった。
急な誘いにびっくりしたが正直とても嬉しかったというのが本音だ。
週末は思いのほか天気が良かった。
確か天気予報では崩れやすいって言ってたけどなぁ。
そんなことを考えながら、彼女と一緒に電車に乗る。
「それで今日は、どこに行くんだよ」
「行き先は私が決めるから」
とぶっきらぼうに連絡が来たのを思い出す。
「着いてからのお楽しみ」
自分から誘っておいてなんだかずいぶんと不機嫌そうな顔をしている。
3つほど先の駅で降りる。
秋の風が心地よく頬を撫でる。観光客もまばらに歩いていて、いかにも行楽日和と言った雰囲気である。
「ここって道桜寺?」
「紅葉が綺麗なんだって」
「桜の名所じゃなかったっけ?」
「うん、でも紅葉も結構有名。それに銀杏もいっぱい 植わってるし、あと桜の葉っぱもそれなりに綺麗だよ」
「それもそうだな」
確かにそれほど有名 というわけではないが、もみじも 銀杏も桜の紅葉もすっかり美しく色づいていた。
「お寺って手を叩かないんだっけ?」
「手を叩くのは神社だろ」
室町時代後期に作られたらしい仏像に手を合わせて2人でソフトクリームを食べる。
寺の由来の看板がすぐそばに立っている。
「へえ、こんな伝説があったんだ」
看板には、かつてこの地にいた村娘が足軽に行った男と交わした約束が載っていた。
娘は病気で男は足軽に行くのでどちらが先に死ぬのかわからない、だから死ねば生まれ変わってまた会おう。その時にすぐにわかるようにお互いに体に桜の目印のあざを。結局のところ男より娘の方が長生きし桜の木を植え亡くなった者を弔ったのがこの寺の始まりだそうだ。
「ねえ、桜のアザある?」
「……なんだよ急に」
「いや、ごめん忘れて」
そう言った彼女の顔は真っ赤になっていた。
俺は言えるはずがなかった。
ちょうど胸の真ん中あたりに桜のあざがある。
いや、こんなのはきっと偶然だ……
その時に気がついてしまったのだ。
彼女の首筋に微かに見える桜の花びらに――
輪廻の桜 しとえ @sitoe
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