研究室で過労死して転生したらニュートリノ素粒子だったんだけどほぼ光速で飛んでるから質問に答えるとかはちょっと無理かな

常陸 花折

ミューニュートリノビーム!

 研究室で意識を失ってからの記憶が無い。

 多分、過労死で死んだ。

 休んだ記憶もないし致し方ないか、という気持ち半分。ノーベル賞取りたかったな、という気持ち半分。

 なぜ死んだかと思ったか?

 だって起きたら全然知らないところを超速で飛んでいるから。



 本当によくわからないのだが、僕は死んでニュートリノに転生したらしい。

 何でニュートリノか分かるかって?

 うーん、寿命がこれを考えている間も続いていることと、日本を飛んでいるのがわかることから推理したって感じ。


 と言うか、死んだあとって神様が出てきて転生~とか地獄の審判とか何もないのな。

 人間って死んだ後に素粒子になるもんなの?それもニュートリノに?

 ニュートリノって「幽霊粒子」とか言われてるけど、そういうことなの? 


 僕が「自認ニュートリノ」になったのは、基本的に素粒子の寿命は短いが僕はこれを考える時間ほどの猶予があるからだ。

 そして、どこか見たことのある景色を超速で飛ぶ。日本だ。

 ここから察するに、ニュートリノの中でも太陽や超新星爆発で生まれたニュートリノじゃない。つくばの高エネルギー加速器研究機構(KEK)で人工生成されたミューニュートリノだ……!



 そう考えているうちに僕は、水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置スーパーカミオカンデの荷電粒子にぶつかって、チェレンコフ光を放つ。

 これは偉業だ。KEKを発射したミューニュートリノの中でもスーパーカミオカンデで観測されるのはごくわずかだ。

 KEKから発射されたミューニュートリノビームは1ミリ秒でスーパーカミオカンデに到達する。


 「水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置」っていうのは今、僕がやったように超純水の中の荷電粒子を素粒子が通過した時に放つチェレンコフ光という光を、「光電子増倍管」という要するに超高性能な光センサーで観測する装置だ。

 因みにスーパーカミオカンデは世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置だ。

 国民として誇らしい。


 そして先ほども言ったように「KEKから発射されたミューニュートリノビームは1ミリ秒でスーパーカミオカンデに到達する」

 つまり僕はこれを1ミリ秒で思考している。



 僕はあっという間に地球を離れ、宇宙へ到達する。

 ニュートリノの寿命は無限に近い。

 人が死んだら素粒子になるのだとしたら、ニュートリノになるのだとしたら、

 無限に近い時間宇宙を突き抜けていくことになる。


 死んで初めて宇宙の広さを実感できるなんてちょっと感傷に浸る。

 しかし、ニュートリノにはわずかだけど「質量」がある。

 宇宙を直線的に飛ぶとして、自分の通過先にブラックホールがある確率ってどのくらいなんだろう。そしてニュートリノは地球から発射して寿命内に宇宙の果てに辿り着けるのかな。

 因みにここまでも数ミリ秒で思考している。


 ニュートリノになってしまったからには人生はほぼ無限だ。

 ゆっくり考え事をしようと思う。

 考えることはたくさんある。これならノーベル賞も取れるかもしれない。


 うん、一人でも大丈夫な人はニュートリノに転生するの結構いいんじゃないかな。

 ずっと宇宙の映像を高速で見続けてるだけだし。

 素粒子の体感時間は光速に近いから時間の進みは人間に比べて遅いけど、それでも素粒子の意識としてはそこまで長くないかもしれないし。

 ああ、何のことかわからない人は「ウラシマ効果」と「定常生命理論」で調べてみて。



 ところでさ「高エネルギー加速器研究機構」の略称KEKって

 Kou Enerugii Kasokuki Kenkyū Kikōの略なんだよ。

 なんか可愛いよね。ローマ字なんかい!ってなるよね。

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研究室で過労死して転生したらニュートリノ素粒子だったんだけどほぼ光速で飛んでるから質問に答えるとかはちょっと無理かな 常陸 花折 @runa_c_0621

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