第2章-2 初めての「にゃはは~!」

「おはよ~~~! 新入りさん、おはよ~!」


目の前に現れた50cmのマスコットが、両手をバタバタさせて跳ねてる。


「にゃはは~! 泣いてる? 泣いてる~? 大丈夫だよ~! ここはユグドラ・アクアアリスの最下層、ルートヴィレッジの外れだよ~!」


「……え、あ、うん……」


俺は涙を拭って立ち上がる。

声が裏返った。恥ずかしい。


「名前は~? 名前教えて~!」


「佐藤……太郎」


「たろ~ちゃん! いい名前~! 私、ゴレちゃん! よろしくね~!」


ゴレちゃんが俺の目の前でくるっと一回転。

水晶の葉の羽がキラキラ光って、小さな虹の輪が残る。


「たろちゃん、なんで泣いてたの~?」


「……綺麗すぎて」


「え~? ここいつもこんなだよ~?」


「俺、前世じゃこんなの見たことなくて……」


「ぜんせ~? なにそれ~?」


「あ、いや、なんでもない」


ゴレちゃんが首を傾げて、ぴょんって俺の肩に乗ってきた。

軽い。まるで羽みたい。


「たろちゃん、おなかすいてるでしょ~? グゥグゥ鳴ってたよ~!」


「……バレてたか」


「にゃはは~! ゴレちゃん耳いいから~! 腹ペコ新入りさん大歓迎だよ~!」

ゴレちゃんが両手を広げる。

「ルートヴィレッジまで案内してあげる~! 歩ける~?」


「ああ、大丈夫」


「じゃあ行こ行こ~!」


ゴレちゃんが先にぴょんぴょん跳ねて歩き出す。

俺は慌てて追いかける。


「ねえねえ、たろちゃんってどこから来たの~?」

「えっと……遠く」「昇華の門通った~?」


「……通ってない」


「え~~~!? じゃあ勝手に降りてきたの~!? すごいすごい~!」

ゴレちゃんが目をキラキラさせて振り返る。


「たろちゃん、魔力めっちゃ強い匂いするよ~! ゴレちゃん感じるもん~!」


「そう……なのか?」


「うんうん! 虹色~! すっごく綺麗な虹色~!」


ゴレちゃんが俺の目の前で両手を合わせて、

ぱっと虹のバリアを広げた。

直径1メートルくらいの、完璧な円形虹。


「ほら~! たろちゃんの魔力、ちょっと借りてみた~! すごいでしょ~!」「……俺の魔力?」


「うん! ゴレちゃん、世界樹の加護で誰の魔力でもちょっとだけ使えるんだよ~!」


俺は呆然とその虹を見つめた。

確かに、俺の中から何か温かいものが抜けて、戻ってきた感覚があった。


「たろちゃん、強いよ~! 絶対強いよ~!」


「……そうか?」


「うん! だから安心して~! ゴレちゃんが守ってあげる~!」


ゴレちゃんが胸を張る。

50cmの体で。


「……ありがとう」

俺は自然と笑ってしまった。


「にゃはは~! 笑った笑った~! たろちゃん笑うと可愛い~!」


「やめろよ恥ずかしい……」


「えへへ~! これから毎日一緒に遊ぼうね~!」


ゴレちゃんが俺の手をぎゅっと握る。

小さな手なのに、すごく温かい。


「……ああ」


その瞬間、俺の中で何かがぽきっと音を立てて外れた気がした。前世では、誰の手も握らなかった。

誰にも手を差し伸べなかった。

誰にも、握ってもらえなかった。

でも今、50cmのマスコットが、俺の手を握ってくれている。


「ねえゴレちゃん」


「なに~?」


「友達って……どうやって作るんだ?」


ゴレちゃんがぱっと顔を上げて、満面の笑みを浮かべた。


「簡単だよ~! たろちゃんが笑えば、みんな笑ってくれるよ~!」


「……そうか」


「うん! だからまずはゴレちゃんが1人目~!」


ゴレちゃんが俺の前でぴょんと跳ねて、両手を広げる。


「たろちゃんの友達1人目、ゴレちゃんでいいよね~!?」

俺は、涙が出そうになるのを堪えて、

初めて自分から手を差し伸べた。


「……よろしくな、ゴレちゃん」


「にゃはは~~~!!!」


ゴレちゃんが俺の腕に飛びついてきて、ぎゅーっと抱きついた。友達1人目。

0アクアの俺が、最初に手に入れたもの。


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