第1章 自分で蒔いた種


点滴の音も、雨音も、もう聞こえない。

「……死んだか」

俺が呟くと、すぐに返事が返ってきた。


「いや、まだだよ。少なくとも俺が許すまではね」


目の前に、黒いローブの魔人が現れる。

赤い瞳に、どこか楽しそうな笑み。

まるで面白いおもちゃを見つけた子供みたいだ。


「佐藤太郎、35歳。死因:末期癌。

 負債残高:ゼロ。人間関係残高:ほぼゼろ。

 ……自分で蒔いた種で、自分を地獄まで追い詰めた男か」


「……知ってるなら、さっさと連れてけよ。地獄でも天国でも」


魔人はくすくす笑った。

「いやいや、そんなつまらない結末は似合わない。

 お前、欲をかいたんだろ? 不動産投資で一山当てようとしたんだろ?

 失敗して、友達も恋人も全部失って、10年かけて返し続けた。

 最後まで逃げなかった。最後までちゃんと“責任”を取った」


「……それがどうした」「それがすごいんだよ」


魔人は指を一本立てて、俺の額に軽く触れた。

「欲をかくのは悪じゃない。

 失敗を背負って、逃げずに完済するのも立派。

 ただ、お前は“人”を切り捨てすぎた。

 だから、もう一度だけチャンスをやる」


「チャンス?」


「15歳の体。

 どの属性にも適応できる、無限成長型の魔力。

 そして――」


魔人はニヤリと笑った。

「ポケットは完全に空。0円。0アクア。

 お前が一番得意な“ゼロからのスタート”だ」


「……最悪の嫌がらせだな」


「違うよ。これは最高のプレゼントだ」


暗闇の中、魔人がニヤリと笑った。

「15歳の体で転生させてやる。

 それと……まあ、ちょっとだけ“特別な魔力”をくっつけておいた。

 詳しくは着いてからのお楽しみだ」


「特別な魔力?」


「言ったらつまらないだろ。

 ただ一つだけ確かなのは、

 お前が前世で欲をかいた分、今度は正しく欲をかえるってことだ」魔人は俺の額に指を当てる。「金も、力も、人も……

 欲しいと思ったら、今度は逃げずに掴め。

 逃げたら、その時は本当に地獄行きだ」


光が強くなる。


「ポケットはもちろん空っぽ。0アクア。

 お前が一番得意なスタートだろ?」


「……最悪だな」


「最高のプレゼントだよ」


魔人は最後に小さく呟いた。

「借金も孤独も完済したお前が、

 次に何を稼ぐのか……

 俺はそれが見たいだけさ」


ゴォォォン……シュィィィィン!滝の轟音と魔力の共鳴が、


俺の新しい人生を告げた。




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