真(リアル)は〈現場〉で起きてるんだ ~『虚構の中の都市空間』、『カクヨムコン11』出張版~

隠井 迅

第一現場 202512071457C10

 二〇二五年十二月七日・十四時五十五分——

 書き手は、皇居近くの東京メトロの〈C10〉番口へと続く階段にいた。

 それから、書き手は、十四時五十七分になるや、タブレットをワンタップし、ダウンロードしておいた動画を再生させたのだった。


 タブレットの画面にアップになったのは、スマホのディスプレイで、そこにはこう映し出されている。


  14:57

  SUN,DEC7

  2025


 つまり、かくの如く、タブレット内のアニメにおける正確な時刻と日時が分かるわけで、そう、書き手が大手町にいたのは、まさに、〈その〉アニメの物語が展開しているのと全く同じタイミングだったのだ。


 やがて場面が転じると、白と赤を基調とした衣類を身に纏った女性キャラが登場する。彼女は、地下鉄の出入口に立っており、その後、待ち合わせ場所である皇居の大手門前にまで赴き、こう独り言ちるのだ。


「現実世界と仮想世界の違いって何なのかな?」

「情報量の多寡だけさ」


 そう自分の思考を思わず声に出してしまったのは、『ソードアート・オンライン』(以下『SAO』と略記)のメイン・ヒロインの「結城明日奈(ゆうき・あすな)」で、彼女の疑問に応じたのが、『SAO』の主人公「キリト」こと「桐ヶ谷和人(きりがや・かずと)」である。やがて、合流した二人は、一般公開されている皇居の「東御苑」に入ってゆく。


 ちなみに、原作小説の第五巻の「2」では、明日奈が時刻と日付を確認したのは、アニメのようにスマホではなく、左手首に巻いていた腕時計で、物語の日時は、原作小説もアニメも同じく、「二〇二五年十二月七日、日曜日」である事に違いはないのだが、小説では、「約束の午後三時まではまだ五分以上」と叙述されていて、時刻に関しては、アニメほど正確ではない、という相違点が認められる事をここに指摘しておきたい。


 さて、二人の待ち合わせ場所である〈大手門前〉から最も近いメトロの出入口こそが、書き手が午後三時前にいた〈C10〉番口で、現実におけるこの場所とアニメの背景を照らし合わせると、明日奈が利用したのも、この〈C10〉であるとの予想もできよう。


 もっとも実を言うと、なるほど、アニメには、明日奈が出たのがメトロの大手町駅の何れの出口かという、具体的な情報までは描かれていないのは確かなのだが、原作小説を参照してみると、「永代通りを皇居の大手門に向けて」という場所の具体名を伴った移動描写のみならず、実際に「千代田線大手町駅のC10番口」という出入口に関する正確な記述が為されているのが分かる。


 とまれかくまれ、このように、原作小説とアニメの間に、時間や空間に関する違いはあれども、現実の書き手がいたのも、小説やアニメという虚構空間に明日奈がいたのも、〈二〇二五年十二月七日・日曜日〉、〈東京メトロ大手町駅・C10番口〉という全く同じ〈時間・空間〉だった分けなのだ。


 ところで、文学においては、アインシュタインの相対性理論における「クロノとポス(時空間)」から援用した〈クロノとポス〉というミハイル・バフチンの概念があって、これは、物語の基点や結節点となるような、時空間の事を意味する。

 つまり、〈二〇二五年十二月七日・十四時五十七分の大手町駅のC10番口〉とは、『SAO』の「ファントムバレット」の物語の始動の〈起点〉となっている、このような意味において、『SAO』のクロノトポスの一つになっている、と言えるのではなかろうか。


〈参考資料〉

〈書籍〉

 川原礫(著)、『ソードアート・オンライン5 ファントム・バレット』、出版社:KADOKAWA(旧アスキー・メディアワークス)〈電撃文庫〉、、二〇一〇年八月十日発売。

〈アニメ〉

 『ソードアート・オンラインII』第一話、アニメーション制作:A-1 Pictures、二〇一四年七月五日初放映日。

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