【短編】肝試しなんかこわくない

春生直

第1話

「いるわけねえだろ、幽霊なんて!」

新村勇人は、怖いのを押し殺すように、大きな声でそう言った。

スポーツ刈りの頭に日焼けが似合う男子高校生で、いかにも明るく、この丑三つ時の学校には不似合いだった。

「勇ちゃん、もうやめようよ肝試しなんて……」

後ろに着いてくるのは、彼の幼馴染の不動真白だ。ツインテールに、セーラー服の襟を揺らしながら不平を言う。

彼女は、いつも勇人の出来心に振り回されていた。

「理科室の人体模型に触れば、クリアらしいんだ!」

彼はそう言って、理科室のドアを開けた。

「野球部のやつらとうまくやるのも大変でさ、先輩が度胸試ししてこいって!」

「そんなの、聞く必要ないよ〜」

彼は人体模型を探して、軽く手を当てた。

「はい、これで終わり。何か起こる訳ないよな。教室で荷物とって帰ろうっと」

流石に眠気が回ったのか、ふああと欠伸をする。


教室に戻ってきた。

彼は自分の席で荷物を肩にかけると、ふと隣の席を見る。

それは真白の席だった。

彼は、その方向に手を合わせて拝む動作をした。

それを見て微笑む真白の姿にはーー

足から先がなかった。

真白は、先月交通事故で亡くなっていたのだ。

「真白。幽霊でいいから、出てきてくれよ」

彼は涙ぐむ。

「俺、悲しくて野球の練習にならないんだ。だから、見かねた先輩たちが、丑三つ時に学校に行ってこいって」

「私なら、ここにいるよ」

真白の声は届かない。

彼に肝試しは、向いていなかった。

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【短編】肝試しなんかこわくない 春生直 @ikinaosu

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