ブラック企業に勤めてた俺。転生して悪徳奴隷商人を目指します。

コメツブ

第一話 転生と悪徳商人



ハァ、と今日もまた溜息を吐く。

明日が来るのを嫌だと思っても、明日は必ずやってくる。

やってもやっても終わらない仕事に目を背けながら、俺は固くて仕方がないオフィスチェアーに体を預けた。


もう三十を過ぎたこの体はもうボロボロだ。

成人してすぐ入社した会社は、物凄いブラック企業。

休みなんて無くって、ひたすらに画面と向かい合い頭を抱える日々。

ブラック企業なんて、さっさと辞めれば?とよく言われた。

まぁ、確かにそうだ。辛いなら辞めてしまえばいい。

逃げればいい、それだけのこと。

でも、俺は逃げなかった。別に、誰かの為だとか責任とかそう言うんじゃない。

ただ、辞める気力すらなかったってだけ。


やっとこさ帰れるって会社を出る時間には、もう終電が無かったりして。

多分だけど、家の布団よりも会社の床の方がよく寝ていただろう。

まぁ、絶望しかなかったってわけじゃないんだ。

それなりに生きがいという物もあったし楽しい事もある。

俺が働く会社には同じように働く仲間がいたし、働くのも少しは楽しかった。

ま、仲良くなったところで数か月経ったらいないんだが。


そんな俺にも趣味という物がある。

会社でも休憩の時間に楽しめて、徹夜しながらでも楽しめるもの。

小説投稿サイトに投稿される、異世界転生の小説を読むことだった。

出てくる主人公に、自分を重ねてみたりして。


「うっし、今日は早めに帰れる。んじゃ、お先ですー」

「えぇー。先輩もう帰るんすかぁ?ハァ、今日の夜は一人か」

「ハハ、今日も頑張れよ。んじゃ、またな」


会社の外に出ると、少し肌寒い風が俺の体に当たった。

熱の籠ったような頭痛のする頭を冷やしてくれて、何とも言えない心地よさに包まれる。

まだ日の落ち切っていない時間帯に帰路に着くなんて、もう何か月ぶり何だろうか。

というか、数年ぶりかも?と考えながら家へと続く道を歩く。


「……?、あれ猫だよな。何で、あんな道路のど真ん中に」


今日は少しだけ遠回りして帰ろうと、一本違う道を歩いていると道路の真ん中に寝ころんでいる猫を見つける。

明らかにおかしい、あの道はそう多くはないとは言え車がかなりの速度で走っている道路。

体が、勝手に道路の方に走っていた。

大事な資料とか、ノーパソが入ってる鞄を煩わしいと放り投げながら全力で走る。


別に、猫の命が危なかったとか救いたかったとか。

そんなヒーローみたいな考えはない。でも、助けれるのに助けないのはなんか違った気がしたんだ。

ただ、ボロボロになりながら死にかけている。そんな姿が俺に重なったって、それだけ。


まぁ、そこからは一瞬だった。

猫に飛び掛かるように覆いかぶさった後、肉のクッションになるように抱きかかえる。

強い衝撃と、肺から空気が全て抜けていく感覚。

不思議と痛みは無くって、すごい勢いで体が吹っ飛んでいく。

それでも、離してやるものかと俺は抱きかかえている猫を守る。

ゴロゴロと少し転がった後、縁石にぶつかって体が静止する。

あぁ、車に引かれるってこんななんだなぁ。

体が動かないって、こんな風なのかと思い知る。

体から熱が抜けていく。

どろりとした感触と、体の芯から冷たさがやってくる。


ははっ、死ぬんだなぁ俺。

もうわかるのだ、俺は助からないってことが。

死ぬ寸前になってから、いろいろと分かった事が有る。

思ったより、そんな考える事も思い出すこともねぇんだな。


俺は最後の力を振り絞って、抱えていた腕を開く。

すると、黒色の綺麗な毛並みをした猫がこちらを見て鳴いていた。

にゃぁと、力のないような声で。


まぁ、頑張れよ。こんなクソみたいな人生でも、何かをなして死ぬのなら。

ここまでで、俺は死んだのだった。



まぁ、でも。これで終わりって訳ではなかったのだが。

目を覚ますとそこは、大理石?で出来た大きな神殿のような場所だった。

辺り一面、真っ白で。こんな場所があることが信じられない位。

本当に綺麗な景色には、言葉が出てこない。


「……ぉお。ここ、何処だ?」


さっきまでの寒さと冷たさは無くて、体は何か暖かい物に包まれている様な気がしている。

体の隅から隅までがぽかぽかするのだ、安心して心地よい。

すると、俺の後ろから足音が鳴る。

とてとてと、こちらに近づく足音。

振り向くとそこには、何か焦ったような顔をしながら歩いてくる美しい女性がいた。


「あのぉう。そちら、猫を助けてお亡くなりになられた……方ですよね?」

「ま、まぁ。そうですねぇ。猫助けて、そのまま車にどーんって」

「……それは心が痛みまね。お辛かったでしょう?」

「まぁ、本当にクソみたいな人生だったんで。別にそこまで気にしてないよ」

「そうですか、それならお気持ちの方は大丈夫そうですね」


ところで、さっきから話しているこの方は誰なのだろうか。

死んだ後に、綺麗な神殿に来てて。出てくるのって多分……


「あっ、そうですね。私は女神ですよ」


やっぱりねぇ。神様でしたかぁ。

ま、そうだろうとは薄々察してたのはあったけど本物なんだってあれ?

何で、今の伝わって。

あ、あー。心読めてたりはするんです?


「えぇ、読めますよ?女神なので」

「……ハァ、まぁ次からは読まないでいただけると嬉しいですね。心の中見られるの少し恥ずいんで」

「なるほど、分かりました。次からは言葉を介しましょう」

「さて、早速本題ですがに入りましょう。貴方の転生を今回担当します、地球の最高神です」


最高神、ねぇ。

あれ?とんでもない存在が目の前にいるんじゃ?

やべぇ、汗かいてき気がする。もう死んでて体ないけど。


「本来なら、転生は下級の天使のお仕事なのですが……貴方は、少し特例の措置を図りました」

「特例、ですか?それまた、なぜ?」

「貴方の所謂魂という物に傷が付き過ぎていたんです。普通の転生の仕方だと、魂が壊れてしまう危険がありましてね」

「な、なるほど?俺の魂って壊れかけなんすね」

「えぇ。それでです、転生先なんですがご希望などございましたら出来る限りですが叶えさせて頂きます」


転生先、ねぇ。

俺は別に、チートで無双しようとは思っていない。

俺つえーにも、さほど興味がないのだ。

金持ちにも、権力者にも。

まぁ、強いてあげるとするのなら。


「俺は、今度は使う側に回りたいです」

「使う側、ですか?それはどういう事でしょう」

「言葉通りです。俺、ブラック企業にいてずっとこき使われたんで。今度は使う側になりたいなって」

「……そうですねぇ、そうなりますと。これがいいでしょうか」


すると、俺の体が光り出す。

ん!?俺、なんか消えてってない?


「あっ、転生の方押しちゃった。ま、まぁ何とか……なるでしょう!が、頑張ってくださーい!」

「えっ?あ、あぁ分かりまし、たぁ?」


そこで、俺の意識がまた途切れるのだった。

次に目を覚ましたのは、豪華な屋敷?のベットの上。

どれだけの物なのかは知らないが、なんだがとてつもなく高級そうだ。

すると、すぐそこに立っていた黒い執事服をピシッと着こなした老人の執事が俺に話しかけてくる。


「坊ちゃま、おはようござます。さて、起きてすぐに申し訳ございません。本日は、父上様の引継ぎがあるのです」

「引き継ぎ?何のだ?」

「はて、お忘れになられたのですか?父上様がお亡くなりなられて、父上様の商会を引き継ぐという算段になっております」

「あんなに心待ちになされていたじゃないですか。ささ、着替えをさせていただきます。失礼しますよ」


そこからは目まぐるしいくらいに早かった。

何かドアの奥からメイドさんが沢山来て俺の服を脱がしていく。

着替え、というから俺が着替えるのかと思ったが間違っていたらしい。

着替える事も、髪のセットも。ありとあらゆるものが準備され、立っているだけで終わってしまう。

服もきらびやかというか、なんか貴族!って感じの服を着せられる。

ごわごわするというか、なんだか落ち着かないというのが本音だ。


まぁ、着終わった後にも朝ご飯やら契約の手続きとか色々あったが……ハァ。

疲れた、何で最初っから訳も分からずこんなことになってるんだか。

さて、記念すべき転生初日は訳も分からず終わりを迎えようとしている訳だが。

ここまでで分かった事を纏めると、如何やら俺が転生したのは悪徳商人の御曹司らしい。


俺の父親は、まぁ典型的な悪徳商人。

でっぷりと太ってて、金や賭博に溺れていたらしい。

まぁ、そんなこんなで俺を見る目は物凄いものだった。

一言でいうなら、クズとか汚物を見るような目。

ハァ、するなら親父の方を見ればいいのにな。

だが、俺の親は恐らく信じられない位のクソ野郎だったのだろう。

この様子ならば、暴言に暴力。そのあまたを繰り返してたことが容易に想像できる。

何で親の責任を負わなければと抗議したいところだが、その相手はもう死んでいるのだ。


はぁ、そんなクソみたいな親でも残して逝ったものはなかなかのものだった。

説明が長くなるから纏めると、奴隷を扱う奴隷商。

この世界では奴隷が合法で、奴隷狩りという物が存在しているらしい。


「ふぅん、奴隷ねぇ……」


俺は、今回は使う側に回りたい。そう思っている。

しかし、俺の父親みたいにはなりたくない。

屋敷の玄関に、でっかい肖像画が飾ってあったのだが。恐ろしく太っていて気持ちが悪かった。

だけれども、悪徳商人というのにはなりたいと思っている。

奴隷を働かせて、俺はその利益で私腹を肥やす。

随分と理にかなっていて、俺の理想に近い。


転生前は、俺はむしり取られる側だった。

仕事をこなしても、上司に成果を取られるそんな毎日。

だが、今回は違うのだ。次は、俺が使う側。


内心、凄いワクワクしている。

やりたい事も、したい事も今は溢れ出してくる。

だが、この時の俺は気づいていないのだ。

権力に飲まれ、私腹を肥やして賭博に溺れている親が残すものがいい物だけではないという事を。



~あとがき~

さてさてさて。お久しぶりな方はお久しぶりです。

初めて読んでくださった方は初めまして。

新シリーズ、です。今書いてる方のシリーズに詰まっちゃってこのシリーズに逃げてきました。

ゆるくほのぼの進めてけたらなぁと思うんで。読んで頂けたら幸いです!

次回予告!「転生した俺、猫の獣人の奴隷を買う」お楽しみに!


追伸 前の一話が気に食わなかったので、作り直しましたぁ……byコメツブ










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブラック企業に勤めてた俺。転生して悪徳奴隷商人を目指します。 コメツブ @koetubu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ