音の無い国

匿名八十六番

1. 音の無いくらし

メワール国、首都ラウェンにて。

本日も電子液晶に文字が映し出される。


『今日未明、ガイウ5番街の街教会に銃を持った複数名の男が押入る事件がありました。礼拝に参加していた市民ら5人が死亡。14名が重軽傷を負いました。防衛局は、犯人らが使用する銃やなどから、隣接する国であるカファ人の犯行と見ており、』


アニマはそこまで聞くと、リモコンで電源を落とした。


「アニマ、なんで消すんだ?まだ見てたのに。」

「だってつまらないもの。」

「いいか?アニマ、世の中つまらないことだらけなんだぞ?そんな理由で大事な問題から目を背けてどうする。」

「だって、ガイウなんて、ここから2000kmは先だよ。」

「いやしかしなぁ、同じメワールの人間が苦しんでるっていうんだ。」

「パパ、そんなことより今度児童館でお芝居をするの。わたし頑張ってセリフを覚えるから手伝って?誰よりうんと素敵なサインで語らなきゃ。」

「わかったよ。アニマ。」


父の名はカーマ。一人娘のアニマは6歳だ。3歳から10歳までの子供たちは児童館と呼ばれる国営の施設で愛と知識を育む教育がなされる。無邪気な赤い瞳と、黒い髪。アニマはまだ知らない。この世には児童館に行けない子供たちが大勢いることを。身振り手振りを使って文字を表すサインすらも、わからない子供たちがいることを。

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