特別な女学園なのに、なんで普通な私を好きになるの!?

青いバケモノ

第1話

 私、夏子 文月なつこ ふみつきは、月読命つくよみ女学園に通う、昨日始業式を終えたばかりのピチピチの高校生!


 中学生時代は色々あって、友達も一人しかいないようなボッチで……まぁ、本当に辛かった。

 だからこそ、高校生は楽しく過ごすぞー!



 私の目標は、高校生活を普通に楽しく、なんのアクシデントも起きず、むっちゃんと過ごすこと!



 って、昨日までは思ってたのに…「普通」は、無理そうだ。



 §



「おはようむっちゃん!」

「おはようみっちゃん……」

「どうしたの?なんか元気無い?」


 むっちゃんとは、中学時代からの、唯一の友達…親友の、玲美 睦月れいみ むつき。むつき→つを小さいつに変える→むっちゃん。

 むっちゃんの、みっちゃん呼びも、同じ理由だ。


「ついに、この時が来ちゃった…」

「?どういうこと…?」

「………みっちゃんは、私が何をしたら、私のこと嫌いになる?」

「え?」


 唐突すぎる、意味も分からない質問。私がむっちゃんを嫌いになる?そんなこと、あるわけない。


「そんなこと無いと思うけど……むっちゃんがむっちゃんではなくならない限り、嫌いにはならないよ。」


 むっちゃんは、天使だ。

 天使は、悪いことをしない。つまり、私がむっちゃんを嫌いになる…犯罪とかに手を染めた場合、それはむっちゃんではない、何者かに変わってしまった、という事。


「えーっと、つまり、どういう事かな?」

「犯罪に手を染めたら、かな。」

「それだけ?」

「うん。」

「あり得ないけど、私がみっちゃんの陰口を言ってたりしたら?」

「私がむっちゃんに対して何かしちゃったんだな…ってなって死ぬだけで、嫌いになるかは分からない…かな。」

「死なないでね!?」


 でも実際、唯一の友達であり親友のむっちゃんにすら嫌われたら、普通に死にそうではあるけどね……むっちゃん、一生私の親友でいてね?


「………実はこの、私たちがこれから通う月読命女学園って、ちょっと普通じゃなくて…」

「普通じゃない?」

「特別な人しか入学できない学校で…」

「特別な人……じゃあ、なんで私が?」


 むっちゃんなら、どこからどうみても特別な人間だからまだわかる。

 私は?どこからどうみても平々凡々な一般人ですけど?


「それは、ちょっと親の力を使ってまして…」

「うん?」

「でもでも!みっちゃんの学力は本物だよ?学力は、本当に、みっちゃんの努力の結果で…」

「うん。じゃあ、親の権力って言うのは?」

「……月読命学園への入学申請を、みっちゃんの分もしておいたの。お父さんから、私たちが通ってた中学の校長にお願いして。」

「?…うん。」


 なんか………頭が追いついてこないぞ?…でも、今の所別に何か私にとって悪いところ…無いよね?結局合格してるんだし。


「だから、ネットにも月読命学園の情報とかなかったんだ。むっちゃんに言われる通りに書いた、あの入学届は?」

「それは、私がお父さんに頼んでもらった、本物。あの後、私が校長先生に直接渡して…」

「うーん……結果論で言うと、何も私に悪いこと、ないよね?合格出来てるし。」

「問題はここからで………さっきも言ったけど、月読命女学園は特別で……月一でテストではない、ミッションが各々に配られるの。」

「面白そう」


 月一でレク的なイメージでいいのかな?


「そのミッションをクリアでいなかったら……その、赤ポイントで…退学になる危険性が出てくるの。」

「へー…………退学???」


 退学って、あの、学校から退場させられる、あれですよね?


「こんなこと言ったらみっちゃんに申し訳ないけど……まさか、みっちゃんが合格すると思ってなったの。みっちゃんだから、じゃなくて、あの中学に通ってて、この学園に通える人なんて、いると思ってなったの。」

「……だから、あんなに滑り止めを受けさせてたんだ…」


 この女学園は特殊で、国公立も滑り止めとして受けることが出来るらしいとのことで、国公立の滑り止めも、私立の滑り止めも、両方に行ってたんだけど……これも、もしかして親の権力ってヤツ?


「本当にごめん!!!こんなリスクのある学園に通うことになっちゃって。私が、もっと早く、真実を伝えておけば………でも、私も……みっちゃんと、同じ高校…学園に、通いたかったんだ。」

「………」


 退学のリスクは、確かに厳しい。だけど――――


「私にとっては、退学のリスクより、むっちゃんと別の高校になるほうが、リスクだよ。」


 私をどん底から救ってくれた、天使。それでいて、唯一の友達。

 私は、とっっっっに、むっちゃんに依存している。


「…本当にごめんね。」

「むっちゃんが謝ることなんて何もないじゃん。寧ろ、私を同じ学校入学出来るようにしてくれてありがとう。」

「みっちゃん……」


 正直、まだ全然話に追いついていない。

 だけど、私とむっちゃんは同じ学校。それだけ分かっていれば、大丈夫だ。



 §



「あ、みっちゃん。昨日ぶり〜」

「昨日ぶり~!」


 むっちゃんに会えたことに対して感極まり、座っているむっちゃんを抱き締める。だでて、最近は春休みで長い間会えてなかったんだもん。昨日あったくらいじゃ、足りない。


 昨日も言ったけど、むっちゃんは、天使だ。人じゃない。人なら誰しもが持ってるであろう、闇の部分を持っていない、天使。最初は、良い子を演じてる。100%裏がある。

 そう思っていた時期が私にもありました。

 ……そう、私にも、バカな時代があったのだ。……いや、私はずっとバカか。



 そして私は、中学三年生の、約一年間過ごし、思い知らされる。むっちゃんに裏などない。悪の部分など、一つもない。

 つまるところ、人間ではなく、天使だ、と。



「高校生になっても仲良くしてね!!私、一人は嫌だから!一人とか耐えられないからね!?体育の授業とか!ペアを作る授業とか!一人は嫌だよ!!」

「大丈夫だよ。だって、みっちゃんがこの学園に通っちゃうことになったのは、私のせいだもん。ミッションも、私の全てをかけて手伝うよ。」

「私はこの学園に来たこと、後悔してないよ。だから、私のせい、だなんて言わないで?」

「…うん。ありがとうね?みっちゃん。」


 本気だと思われていない。

 でも、本気なんだよ。私は、一生むっちゃんの隣にいたいし、むっちゃんも、一生私の隣にいて欲しい。


「…むっちゃん、むっちゃんは、一生私の隣にいてね?」

「えっ!?」

「そして、私が困ってる時、手を差し伸べて、優しくして?私も、出来る限りのことはするから。」

「あ、始まってたんだ…みっちゃんの、いつもの。」

「え?なんの事?」

「ううん。なんでもないよ。ただ、みっちゃんは、本当に私の事好きなのかな〜って。口だけじゃないのかな〜って。」

「いやいや、そんなのもう。だれっっっよりも愛してますよ。」


 人間が天使を愛するのは、当たり前だ。天使が嫌いな人間なんて、人間じゃない。それは悪魔だ。



 そんなことを考えていたら、教室に先生が入って来た。


「えー、昨日の始業式でも言ったと思うが…君たちのクラスを担当することになった、田中だ。女子高なのに担任が男かよって思った人もいるだろうが、まぁ、俺が決めたわけじゃないんだ。文句はお偉いさんに言ってくれ。それでは、よろしく頼む。」


 めちゃくちゃ死んだ魚の目をしている先生だ。感情が、一切表に出ていない。


「早速だが、今日の日程は、特にない。ミッションが配られるのも、明日だ。各々クラスで自由にしろと言われている…ので、まぁ、自己紹介でもしてもらおうか。それじゃあ一番から──」

「せんせー!自己紹介って自由にやっていーんですか?」

「いい質問だな、神無月。じゃあ…名前、入りたい部活、趣味とか好きな物、事。そんな感じでいいぞ。まぁ、適当にな。それじゃあ一番から、立って自己紹介を始めてくれ。」


 そうして、一人一人、自己紹介が始まる。


 一番から、33番まで。私は22番なので、最初でも最後でもない、最高の位置と言えるだろう。

 因みに、むっちゃんは28番だ。



 §



「夏子 文月です。部活は、入るつもりはありません。好きなことは、友達と遊びに出かける事です。三年間よろしくお願いします。」


 ……なんとか、自己紹介は出来た。うん。変な所はなかったはずだ。…うん、大丈夫。

 めちゃくちゃ緊張した~。心臓バックバク。でも、先に言いたいこと考えてたから、なんとかなった…


「玲美 睦月です。部活は…今の所、入るつもりはないです。趣味は、お話すること…かな。三年間、よろしくお願いします。」


 凄い、優しい声で、聴いてるだけで天に昇ってしまいそうだ。…それにしても、趣味がお話って…流石はむっちゃんだ。

 ここが女子高じゃなかったら、今頃クラスの男子はみんなむっちゃんに釘付けだっただろう。うん。天使に対してガチ恋する、哀れな男共が大量発生するところだった。危ない危ない。



 この自己紹介で、特に私が印象に残ったのは――――



「お初にお目にかかりますわ。十六夜 姫香いざよい ひめかと申します。部活動は、入りませんわ。趣味は、自宅でアフタヌーンティーを嗜むことですわ。以後、お見知りおきを。」



「神無月 瑠奈かんなづき るなでーっす!部活は~遊びたいので入りません!趣味は楽しいこと!青春を謳歌するために高校に入ったら、女子高でした!恋したかったです!!以上!」



「如月 きさらぎ りんです。部活は入りません。趣味は、姫香をボコボコにすること。以後よろしく。」

「なんですって!?凛!あなたがわたしくに勝っている点など……す、少ししかありませんわ!身の程を弁えなさい!」

「今は自己紹介中よ?他の人の邪魔をしないでもらえないかしら。あなたのせいで、進行が遅れてるわよ。」

「……二人とも座って。はい次。やりづらいだろうけど、次、普通に、やっていいぞ。」



「14番の~小望 愛華こもち あいかちゃんです!あいちゃんって呼んでね!小さく望む、とかいてこもちと読むけど、私は大きくなることを望んでます!精神的にも、肉体的にも、権力的にも、全て上を目指して歩いてます!えーっと、…田中っち、何言えばいいんだっけ?」

「……もう色々と伝わった。座っていいぞ。」

「はーい。」

「……さっきから、やりづらいだろうが…次、普通に、やってくれ。」



 十六夜 姫香いざよい ひめか

 神無月 瑠奈かんなづき るな

 如月 きさらぎ りん

 小望 愛華こもち あいか

 この4人だ。

 言い方は悪いが、明らかに異質。死ぬほど目立ってる、4人だ。



「自己紹介は終わりだ。次は……何したい?意見がある人は言ってくれ。」

「椅子取りゲーム!!!!」

「淹れたての紅茶が飲みたいですわ。」

「ジャンケン列車!」

「…子供かお前ら。途中お嬢様混ざってたけどな」

「んーー…席替えーとか、どうですか?先生。」


 席替え!!この、素晴らしい提案をしたのは、猗窩……じゃなくて、天使ムツキエルだ。流石はむっちゃん。あの怖い人たちの飛び交う言葉の中に、簡単に踏み込んでいく。私だったら、発言なんて出来っこない。


「席替えか…分かった。席替えをしよう。意見ありがとう。玲美。」

「いえいえ~」

「睦月ちゃんがかわいいからって、ひーきですか!先生!」

「………それじゃあ、黒板に図、書くから。そこに、ジャンケンで先生に勝った人から順に自分の名前を書いてけ。複数人で勝った場合は、その中からジャンケンで決めろ。」


 華麗に神無月さんの口撃を無視する先生。そんな先生に、神無月さんは不満そうに、頬をぷくっとさせていた。



「…勝った。じゃあ私は…ここにするわ。」



 如月さんが、真ん中の一番後ろの左側の席を取った。



「ふふん、わたくしに掛かればジャンケン程度、お手の物ですわ。」

「私の方が先に勝ってるけどね」

「いちいちうるさいですわ。凛。それじゃあ私は…凛の1個前に席にしましょうかしら。これで、凛より前。つまり、凛より上ですわ。」

「…アホらし。」



 十六夜さんが、如月さんの前の席に。



「やったー!次は私~!じゃあ~…睦月ちゃ~ん」

「どうしたの?神無月さん。」

「睦月ちゃんはどの席にするつもりなの~?」

「私は~…」



 むっちゃんは、私の方を見ながら困ったような顔をしている。……これは…私と近くの席にしたいってことであってるよね?天使の考えることは分からないけど、そうだとい信じていいよね!?


 天使が私の隣に座りたがってる、そんな嬉しさの余韻を楽しんでいたら、何やらむっちゃんは神無月さんに対して耳打ちをしている。

 耳打ちされ終わった神無月さんが、私の方に近づいてくる。

 ………え、何?むっちゃん、何を言ったの!?


「んー………」

「な、なに………」

「んー………私、誰だか分かる?」

「え、か、神無月、瑠奈さん?」

「………ふーん。まぁいいや。じゃあ私はー、ここ!」


 神無月さんはそう言うと、1番左下の席に、自分の名前を書いた。…なんというか、まぁ、予想通りの場所だ。


 最後はもちろん―――



「あ、私の勝ち~!」



 小望さんだ。



「どこが空いてんだっけ〜?………ん~、じゃー、ルナっちの隣で!」



 ルナっちとは、神無月さんの事だろう。こんな親しく呼んでるということは、中学が同じだったとか?…少なくとも、顔馴染みではあったのだろう。


「ルナっち?」

「そそ。ルナっち。ダメだった?」

「いや、全然おっけー!じゃあ私は〜…もちちって呼ぶね!」

「なにそれかわいー!」


 全然違った。初対面らしい。

 ヨウキャ、コワイ。

 昔の私でも、あんなパワフルじゃなかったよ…神無月さんと子望さんは陽キャの中の陽の部分を担当してる、生粋の陽キャなのだろう。


 因みに、二人が話しているうちに、「よし、じゃああいつらは無視して次ジャンケンするぞ。」と田中先生が言い、席決めが続いていた。



「あ、…私の一人勝ち?」



 お次はむっちゃんだ。恐らく、むっちゃんは隣が空いてる席にしてくれるだろう。なぜなら、私がいるから!


 となると……1箇所しかない…



「じゃあ、ここでお願いします。」



 やっぱり、ちゃんと隣が空いてる席にしてくれた。……だが、そこは───


「睦月ちゃんだー!」

「よろしくね〜。」

「よろー!玲美ちゃん!」


 神無月さんと、小望さんの、前の席。何故かみんな避けていた場所。だからこそ、この終盤でも、隣同士の席が空いている。


 よし!あとは私が引くだけだ!!


 一人、また一人と勝っていく中…私は、負け続けた。

 結局――――


「最後の一人は…夏子だ。申し訳ないが、今空いてる最後の一つの席に座ってくれ。」

「……はい。」


 私は、最後まで残ってしまった。

 なんで私はこんなに運ないかなぁ…


「じゃああとは各々自由にしろ~。クラスメイトと交流を深める時間だ。犯罪以外何しててもいいぞ。」


 犯罪って……先生は私たちのことをなんだと思ってるんだ。


 まぁでも、別にいい。だって、最後まで、むっちゃんの隣の席は取られなかったからね!

 最後まで残ってたけど、むっちゃんの隣は取れた。運がいいのか悪いのか…


「最後までむっちゃんの隣の席残ってて良かったよ…」

「私も。みっちゃんと隣の席になれて嬉しいな。」


 みっちゃんは、私に向かって天使のような笑顔で笑いかける。うっ、やめてくれ…そんな顔されるとこれから先、一生みっちゃんに貢がないといけなくなる…


「きっと、むっちゃんが神々しすぎて、誰も自分で選ぶことが出来なかったんだよ…」

「うん、違うんじゃないかなぁ?」

「なんせ、むっちゃんは天使だから!」

「私は人間だよ?」


 そう、天使だから。まだむっちゃんを天使だと知らないクラスメイトの人たちも、ただならぬ神々しさに、気後れしてしまったのだろう。


「あははー!面白いね!えーっと…」

「夏子歩月ちゃんだよ。」

「そう!つきちゃん!」


 私とむっちゃんが話をしていたら、後ろから小望ちゃんが話しかけてきた。


「それだと睦月ちゃんもつきちゃんだよ?」

「睦月ちゃんを玲ちゃんって呼べばいいっしょ。いいよね?睦月ちゃん?」

「私は、私だと分かる呼び方ならなんでもいいよー。」

「ありがとー!夏子ちゃんは?つきっちって呼んでいい?」

「も、もちろんです…」


 私に断るという選択肢はない。そんな、勇気も無い。

 まぁ別に、嫌なわけじゃないからいいんだけどね…でも、騒がしいのは嫌だなぁ…


「じゃあ私は、睦月ちゃんのことをつきちゃんって呼ぼうかな!」

「分かりづら!」

「私は全然いいよー。」

「で、ふみふみはふみふみって呼ぶね。」

「ふみふみ…」


 そう呼ばれると、思い出す。昔仲良かった、オタク友達の…いや、あの頃はまだオタクじゃなかった。あの子にオタク界へ連れてこられたんだ。

 懐かしいな…神崎さん。


「ダメ?」


 私が妄想の世界に入っていたら、急に現実に戻された。すぐに妄想の世界に入ってしまう、私の悪い癖が出てしまった…


「い、いや?ぜ、全然。」

「ありがとー」


 ……一旦、近所付き合いは上手く行けそう…だ、よね?…それもこれも、全部むっちゃんのおかげだ。


 むっちゃんが隣にいるだけで、私は頑張れる。

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