第9話 まあまあの店

「おめでとうございまーす。バツさんは見事Cランク冒険者にランクアップしましたーっ!」


「しっかし、お前はどれが素の話し方なんだ? でもありがとな、リピット」


 一応喜んでくれているようなので素直に受け取っておこう。


「姐さん、おめでとうございます。俺は、絶対やれると信じてました!」


 駆け寄ってきたのは、シーザーだったが、いつからサリアは、こいつの姐さんになったのだろうか。というかコイツ俺達のクエスト阻止しようとしてたよな……


「キモい、あっちいってくれ!」


 サリアは、心底嫌そうな顔をする。


「それとバツ様には、今回の討伐報酬に加えてゴールデンサンド滝登り竜の砂金の買い取り額が加算されております」


 リピットの差し出した報酬は、結構な金額になった。当分生活費には困らないだろう。暗黒騎士討伐のドロップアイテム、マジックバックにしこたま砂金を入れて持ち帰れたのが良かった。


 ギルドは、クエスト受注業務の他に飲食店を経営していることが多い、ここチーカバのギルドでも同様に冒険者向けの酒場を開いていた。


「よし、ここは景気良く振る舞うか! 今日は、俺の奢りだ! 皆んな好きなだけ飲んでくれ!」


 俺の言葉に沸き立つ冒険者たち。


「うおおおおおおおおおおおおおーーっ! バツさん最高っす! ありがてえ、ゴチになります!」


 その夜は、お祭り騒ぎとなり、俺の株も少しは上がったのだった。




 ◆◇◆◇


「あいたたた、頭が割れるように痛いよ、主人殿」


 翌朝、サリアは、二日酔いになった。邪竜でもこんなことあるんだな。しかし、これじゃあ出掛けられそうにない。キュアヒールをかけてやると楽になったのかサリアは、宿屋のベッドに横になりそのまま眠ってしまった。なりすましを使わずとも少しの魔法なら使えるようになっていた。どうやらアリナスの魔法を感覚で習得していたらしいのだ。


「今日は、街に出てアイテムの買い出しにでも行くとするかな」


 俺は、久しぶりに仮面無しで買い物を兼ねた街の散策にでかけることにした。


「まずは、武器屋だな」


 考えてみれば、まともな剣も持ってない。アリナスの魔法に頼ってきた弊害とも言える。取り敢えずそこそこの剣くらい持っていた方が冒険者らしいというものだ。


 一応へっぽこ侍流の弟子でもあるしな。


 しばらく歩き回った俺は、一軒の武器屋の前で足を止めた。直感で選んだというか店名が『MAA MAA』だったので、そこそこの武器が買えそうだと思ったのだ。


 店内に足を踏み入れた瞬間罵声が飛びかっていた。

 直感外れたな……


 店員であろう女性が、目の前にいる冒険者の男に容赦ない言葉を浴びせていた。


「アンタみたいな奴に売る武器はないよ。なんだいその品のないキラキラとした飾りは、ミリほども強さを感じないよ。ゴブリンの方がよっぽどシュッとして見えるよ。そうだね、ダンジョンに入っても瞬殺されるか、けつまづいて心臓に装飾が刺さってあの世行きが、せきの山だろうね!」


 すげえ言われてるな、気の毒になる。


「まあまあ、一体何があったんですか?」


 割って入った俺を見て店員は、冷静さを取り戻す。


「あら、かわいらしい冒険者さんだね、いらっしゃい」


「ずいぶん私の時と対応が違うじゃないか!」


 男は、不服そうな声で店員の女性に詰め寄るが、今度は完全スルー。


「今日は、何を買いにきたのかしら?」


「うん、俺でも扱えやすそうな剣が、ないかと思って……」


 俺の言葉を遮るように店員と揉めていた男が割って入る。全身豪華な装飾を施したフルプレート装備を身に付けている。


「ちょっと待て、私が先客だろうが!」


 フルプレートの男は、ライルの襟を掴み後ろへと押しやろうとしている。


「ちょっとアンタ! 坊やに乱暴するんじゃないよ! さっき話は、ついたはずだよ。アンタに売る物は無いよ! よくそんな図体して恥ずかしいと思わないのかい! ああ、そうか人間の言葉が通じないんだね。おおかた人に化けたゴリラかなんかに違いない。よく見たら顔もまだ変身途中みたいだし、獣臭いったらありゃしないよ。そこでリンゴでも買ってサッサと森に帰んな!」


 しかし、店員さんも容赦ないな、この人どうしてここまでむちゃくちゃ言われてるんだろうか?

 一見すると金持ち冒険者のように思える。客としては、店にお金を落としてくれそうなんだがな……


「くひーーっ! 大人しくしていればつけ上がりやがって! 私が誰だか分かっているのか! 言うぞ、言ってしまうぞ、後で後悔してもアフターフェスティバルになるぞ」


 煽りすぎて激おこだよこの人……

 しかし店員さんは、意に介さずもはやスルーを決め込み俺に話しかける。すごいやりにくいんだが……


「そうそう、軽めの剣だったわね。少し細身の方が良いかしら」


 無視されたままの男は、歯軋りをしながら腰の剣に手を掛けた。やれやれ厄介なことになりそうだ。


「コラーっ! 我が名はボロカス・ユワレル、先程から貴様の暴言は何なのだ。一体私の何が悪いと言うのだ!!」


 いや、悪いの名前だろっ!!


 しかし、仮にも客であるボロカスは、どうしてここまで店員を怒らせちまったんだろうか?


「そんな名前は知らん、だが貴様が、私の武具を侮辱したことは許せない」


「はあ!? 侮辱だって? 見た目が豪華な剣は無いかと言っただけだろう!」


 なるほど、これは職人のプライドに泥を塗ったってやつだな。収集癖のある貴族や冒険者は、豪華な見た目の武具を好むという。きっとボロカスもそのひとりに違いない。


 良い職人であるほど己が創った武具の性能に誇りを持っている。言わばそれは、自分の子供であり分身とも言えるのだろう。見せかけの煌びやかさで道具を選ぶなど武具を持つ資格すら無い、そんな人間に渡す誇りなど無いのだ。


「すいません、ちょっと良いですか、ええっとオロカスさんでしたっけ、あなたの欲しい武具は、きっとここにはありませんよ。ジュエリーショップでも行ってみてはどうでしょうか?」


「俺の名前は、ボロカスだっ! バカにしてるのか、この小僧っ、捻り潰すぞ!」


 一応、親切心で言ったのだが、名前を間違えたのが気に入らなかったのだろうか。


「あははは、その子の言う通りだよ。近くの露店で観光客用の剣が売ってたけど、それならちょうどいいんじゃないかい」


「ぐぬぬぬぬ、馬鹿にしやがってもう我慢ならん! 少し痛い目にあわせて分からせてやる!」


 ボロカスは、店員さんに飛び掛かろうとしたが、俺は、その手を掴んで捻り上げた。わざわざ『なりすまし』を使う必要もない。レベル上げのおかげで身体能力は、そこいらの冒険者よりも遥かに高いのだ。


「分からないといけないのは、あんたの方じゃないのか」


「この小僧っ! あっ、いてててて!」


 ボロカスの腕をさらにぐいと捻るとそのまま床に押し倒した。


「心配要らないよ、綺麗に折れば骨も繋がり易いみたいだよ」


「くっ、あっ、やめろっ! ぐあっ、あはっ、や、やめてくれ!」


「なら、このお姉さんに謝って、二度とこの店に近付かないと誓うことだな」


「わ、わかった、誓う、誓うから、や、やめてくれ!」


 俺が手を離した途端、ボロカスは出口へと駆け出した。そこで立ち止まりこちらに振り返る。


「お、お前達、こんな事してタダで済むと思うなよ! 覚えてろよ、いつか吠え面をかかせてやるからな! ううーっ! わん!」


 吠えるのお前かよ! 小物感丸出しの捨てゼリフをを吐いたボロカスは、逃げるように走り去って行った。


「すいません、なんか恨みを買ったみたいで……」


「いいよ、その前に怒らせていたからね。それより武器を探しに来たんじゃないのかい、坊や」


「ええ、軽くて頑丈な剣があれば欲しいんですけど、これって矛盾してますかね」


「そうだね。軽いってのはどうしても剣が細くて薄くなる。逆に厚みを持たせれば当然重くなるよね。ふーむ、ちょっと待ってて」


 店員は、店の奥に消えると2本のショートソードを手に戻ってきた。


「ミスリル製だよ。ミスリルは、魔法が通りやすいのは知ってるよね」


「いえ、そうなんですか?」


「ああ、この金属は、魔法を込めればいくらでも強化できる。上手くやれば滅多なことじゃ折れたりしないよ。それにめちゃくちゃ軽いんだ」


「へーっ、そうなんだ。ちょっと借りて良いですか?」


「ああ」


 そう言って俺に剣を差し出す店員さん。店員さん……だよな。


「か、軽い!?」


 金属のくせにその剣は、恐ろしいほど軽かった。

 まさか、これ、ペーパークラフトの硬いやつか!

 それならスーパーペーパークラフト、略してスパークといったところか……


「へへっ、そうでしょ、気に入ってくれたかい! たまに軽すぎるその剣が、ペーパークラフトだっていう失礼な輩がいるんだけど、全くものの値打ちが分からないったらないよ、まあ、そんな奴が現れたら目ん玉くり抜いて代わりにイガグリぶち込んでやりやがりますわよ」


 おいおい、くり抜いてクリって笑えねえ、こいつ俺の心読んでないよね。ら


「あ、あのう、これ気に入ったんだけど……やっぱり、お高いですよね」


「ああ、お高いよ、良い剣が高価なのはごく当たり前のことだからね。でもアンタのこと気に入ったから、まあまあの値段で譲ってあげるよ」


 まあまあって言っても俺の有り金で足りるんだろうか? 手持ちの金と引き換えでも欲しい、いやコレは、必要だ、きっと、多分、絶対!


 だが、こういう時には、物欲しそうな顔をしては、村から始めて街にやってきた田舎者だと足元を見られてしまう。冒険者たるもの舐められてはいけないのだ。


「ええ、まあ、欲しいことは欲しいけど、そこまで欲しいかと言われれば、まあ、欲しいですけど、俺も冒険者の端くれですし、この剣があれば無茶苦茶強くなれそうですし、そういう意味で左には、とても気になるし、まあ、欲しいサイドの人間かなあと思ったりしてますが……いやあ、むしろ剣の方が俺を助けたがっているような、そんな今日この頃です」


 いや、俺欲しいしか言ってねえだろ、これ!


「あっはっは、アンタこの剣がよっぽど気に入ったんだね。顔に滲み出ているよ。剣に選ばれてるって? そいつは、面白いね」


 そう言って腹を抱えて笑い出す店員。これ絶対からかわれているだけだよな。しょうがねえ、諦めるしかねえよな。


「まあ、そんなにがっかりしなさんな。笑って悪かったよ。譲ってやるよ、アンタの手持ちの金と交換だ」


「いや、でも、そんなことしたら店員さんが、ゴリラみたいな店主に怒られるんじゃ……」


「店員だって!? そうか、坊やは、私が、ただの店番だと思ってたんだね。しかしゴリラって……ふふっ」


「えっ!? それってどういう……」


「そうさ、私がそのゴリラ店主、アリラ・シーカスなのだよ、坊や」


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冒険者仮面X 〜 仮面しか作れないけどどうにか最強目指しま〜す 〜 yu@ @yu01

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