第5話 仮面の冒険者
「それじゃあ、行ってきます。アンディー師匠」
偶然手に入れた新しい俺のスキル『なりすまし』のお陰でようやく本当の目的へと辿り着く可能性が見えてきた気がする。
曲がりなりにも最強の力を手に入れるのは、あくまでもその手段に過ぎない。それとて命を天秤に掛けなければ辿り着けないだろう。
「なら、とことん走り続けてやふ……」
ちくしょう、いちばん良いところで噛んでしまった!
そんな締まらない俺だが、あれからいくつかのダンジョンを周り、またレベルを上げた。今のステータスはと言うと……
[ライル・スティンガーEX]
LV 298
HP : 3200/3200
MP : 2500/2500
スキル
仮面師 LV10
鑑定 LV2
なりすまし LV10
ニコイチ LV1
メルシアの加護
とまあこんな具合だ。
超一流冒険者のレベルが、三桁後半ということを考えるとまだまだだが、ダンジョンを選べばソロで潜れるレベルにはなったと思う。
アンディーを誘ったこともあるのだが、黒剣を手に入れた彼は、なぜか本気で料理に目覚めてしまい、ゆくゆくは自分の店を持つんだと日々、隣村の料理屋に修行&アルバイトとして通っている。
お金ならダンジョンで稼げばいいと思うのだが、ダンジョンでは料理の腕は上がんないからなぁと断られてしまった。そもそもダンジョンのダンを聞いた時点でダンボールにくるまるジョンの姿が浮かんで足が震えるらしい。
ちなみにジョンと言うのはアンディーがかつて冒険者になろうとした時の仲間でジョン・キタヒラという名前の人らしい。アンディーがあんな風だから速攻で疎遠になり何処かに旅立って行ったとの事だった。
経験値も上げたいしソロならソロでいい。仮面のことも詳しくはアンディーにも話していない。愛と友情の不思議な力が働いてダンジョンボスのグリーンスライムを倒したことになっている、ボッチだけどな。
他の冒険者にも聞いてみたが超初心者ダンジョンのボスは、スライム確定でちょっぴりつよつよの奴との情報だった。黒い騎士なんて話をしたら笑われて終わりだろうな。やはりあの時は、俺にだけ特別な何かが起こったのは間違いない。
そのおかげで強い冒険者としての可能性が見え始めた俺は、本当の目的を果たす為、レベルを上げ、スキルを使いこなせるようにならないといけない。
ミスティア……
回り始めた運命の歯車が、きっとお前に引き合わせてくれると今は、信じたい。
「さてと、次のダンジョンは、どこにするかな」
アンディーと別れた俺は、隣町チーカバの冒険者ギルドに来ていた。ダンジョンに入る申請をする必要があったからだ。
帰還予定日を過ぎても冒険者が戻らない場合、捜索対象になることもあり、ギルドとしても保護管理の姿勢を見せなければならないという建前もあるせいだろう。
ギルドの扉を開けて中へと歩を進める。初めて訪れるギルドは、最初が肝心だ。舐められないよう落ち着き払って奥の受付へと向かう。
「おい、あれ見ろよ……」
「うっ、こりゃまたヤバいのが、来たもんだ……」
「関わらないほうが、良さそうだな……」
ヒソヒソと声が聞こえてくる。レベルが上がったから俺の強さのオーラみたいなものがダダ漏れているのだろうか? だがソロでやると決めている俺にとってはあまり関係ない。
「あの~、この辺のダンジョンに入りたいんだけど……」
書類に目を通していた受付嬢に声を掛けるとハイと返事をして彼女は顔を上げた。
「ひ、ひいいいいいっ!」
途端に青ざめて悲鳴を上げる受付嬢。
「えっ!?」
俺の顔に何か付いているのだろうか? そんなに驚かなくても……
これでも村では、ご老人に評判の男前なんだが……
不思議に思い自分の顔を触ると付いてました、例の『不気味な仮面』が!
そう言えば仮面に慣れておこうと思って付けたままなの忘れてたよ。
さっきのヒソヒソって超不気味な奴が、現れたってことだったんだな……
今更素顔晒すのも恥ずかしいし、もうこのままでいこう。よくよく考えると特殊なスキルのこともあるし身バレしない方が都合が良いかもしれない。
「顔に酷い怪我をしているので仮面を付けているのだが何か問題でもあるかな?」
こわばった顔の受付嬢に声のトーンを落としてもう一度話しかける。
「はっ、いえ、問題ありまてん」
噛んだ、噛んだよ受付嬢。
「それでは冒険者カードの提示をお願いできますか」
「それなんだが冒険者登録も頼めるだろうか」
「えっ、へっ!? ご、ご新規の方ですか!?」
また、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「マジかよ、どっかのベテランじゃねえんだ」
「変態だよ、ありゃ」
そんな感じであらためて冒険者登録をする俺。
名前は、どうしようか、一旦登録した冒険者名は余程の理由がない限り変更出来ないみたいだからな。そうだ謎の冒険者って事で仮面Xとかどうだろうか……
早速、申請書に記入する。
「ありがとうございます。登録できました、こちらがギルドカードになります、仮面バツ様」
えっ? 今なんて、バツって聞こえなかったか。
どうやら受付嬢は、Xをバツと読んだらしい。しかしもはやアフターフェスティバルだ。
「バツだってよ、アイツ」
「そうか、怪我のせいで自信がないのかもな……」
「だったら結構かわいそうな奴だな……」
また、ヒソヒソ声が聞こえる。バツが悪いったらありゃしない。
「あの、急がせて悪いがダンジョンの紹介も頼む」
一刻も早くここから立ち去りたいのだ。
「かしこまりました、私が言うのもなんですが元気を出して頑張って下さい。バツさん」
受付嬢に励まされてしまった俺。
新規なのでFランクからのスタートになってしまったが、それはしょうがない。とにかく強くなれさえすれば良い。気持ちを切り替えて紹介された『マイーナ』ダンジョンへと向かおうじゃないか。
今まで稼いだ小銭で最低限の装備は、整えてある。少しでも強そうに見えるように黒いローブを羽織っているが防御力は、雨合羽程度しかない。
一階層は、お馴染みスライムだけで罠もなく無難にクリアして二階層へ。
出てくるモンスターは、エビモグラが中心で手持ちのスチールソードでどんどん叩き切るというか切れ味が悪いので叩いてるだけ。
「よし、99HITだぜ!」
モグラ叩きの要領で討伐を重ねる。だんだん楽しくなってきた。最終的には、この階層で250匹ほどのエビモグラを叩いた。
「ああ、腹減った」
仮面をつけたままなので体力の消耗が早いのかもしれない。取り敢えずご飯にするか。
エビモグラは、美味しいって聞いたことがあるんだよな。俺は、大量に狩ったエビモグラを解体して食べることに決めた。普通に市場に並んでいる肉なので危険はない。
アンディーに持たされた薪に火を灯し肉を焼く準備をする。着火の生活魔法は、アンディーに習ったものだかとても役に立つ。安定のアンディー頼りだ。
肉を串に刺し塩を振って炙り焼きにすると香ばしい匂いが立ち上ってくる。焼けた頃合いで肉を頬張るとモグラなのにエビの風味が舌に伝わった。
「うめーーーーっ!!」
少し焦げたところが、たまらなくエビだ。
来て良かった、叩いた数だけ旨み成分が溢れてくるようだ。この分だとスターシイタケと煮込んでも美味しいに違いない。後で試してみよ。
肉を腹一杯味わった後のデザートは、グロウアップルの果実だ。本来は、これがメインの食料なのだがデザートへと格下げされた。
「よし、腹も膨れたし続きをやるか!」
できる限り早くレベルを上げたいのだ。最強を目指すとかそんな事じゃない。ただ俺は、力が欲しかった。
食事の為に外した仮面を再び着ける。この町では人に素顔を知られたくない。仮面のまま登録しちゃったんで俺が悪いのだが……
このダンジョンの特徴は、階層ごとに魔物の種類がかたまっている。例えば三階層は、ネコウルフ、四階層は、オカマキリという具合だ。
そこそこレベルが、上がっていたお陰で十階層までは、サクサク進むことができた。
「さて、問題はこのフロアのボスか……」
ボス部屋に挑むのは、あの時以来だ。もしかしたらまたとんでもない奴が現れないかと気にはなっていたからだ。通常なら問題なく倒せるんだろうけど変なのが現れないと良いんだけどな。
仮面の力は確かめたいしレベルを上げるならボスと戦うのが効率がいい、しかし死んでしまっては元も子もない。
「足踏みしてたってしょうがないか、案外杞憂に終わる可能性の方が高いよな」
半分覚悟を決めてボス部屋の中に入る俺。
中は薄暗く空気がひんやりと頬を撫でる、モグラ叩きとは、少し違った高揚感を感じているのがわかる。念の為、仮面を着けていることを確認し更に中へと進む。少なくとも入った途端攻撃を仕掛けてくるタイプの奴ではないらしい。
「ああ、君だったのね……」
「!?」
誰かが、いや間違いなくボスだろう、そいつが俺に話し掛けているのか?
「ここで待っていた甲斐があったわ」
こんなセリフの流れは、ろくなことにならないことを俺は、知っている。
「いえ、どなたか存じませんが、全く、全然、これっぽっちも、違います。むしろ人違いですごく迷惑しています。ではこれで俺は失礼します」
後は、回れ右だ、ターンライト。これは、普通じゃない、完全にヤバいのが、俺に話し掛けてきているのだ。
「おいおい、君よ、随分とつれない返事だね。仲間の騎士を倒した英雄の言葉とは思えないわね」
「なっ!? どうして……? 俺が!?」
「ほうら、その慌てよう、やっぱり君なんだろ、暗黒騎士を倒したのさあ」
足を止めて振り返り、声の主を確かめる。
もはや逃げられる気がしない。
「人間!?」
声の主は、黒いゴシック調のドレスを身に纏い、床に垂れるまで伸びた黒髪は振り乱れていた。そのせいで顔もよく見えないのだが、声の高さや見た目から人間の女性のように思える。
だが、あまりにも不自然だ。どうしてボス部屋に……
「あはは、クククッ戸惑っているね、私の名はアリナス。控えめに言ってここで君の命を奪うなんてのもアリナス……アリナス……」
ちっとも笑えないのだが……、二回言ったのはパワープレーだろうか?
「ハイハイ、今の笑うとこでした。これだから笑いの素人は、困るんだよね」
お手上げのポーズをするアリナス、こんチクショウ!
こんな煽るというか腹立たしいボスもいるのだろうか。
「笑っていられるのも今のうちだけだぜ」
威勢よく啖呵を切ったものの、これ十階層のボスじゃねえよな。多分あれだ、俺だけのイレギュラーってやつだよな。
なら、初めから全開だーーっ!
『なりすまし』
俺の体は、以前対峙した暗黒騎士へと変化する。
「へえ、ブラちゃんソックリだね」
眼を丸くして愉快そうに話すアリナスに恐れる素振りは感じられない。
ちょっとは、ビビって欲しいんだが、何か間違えたのか俺。こうなったらアレだ!
「我が名は、ブラッキー。久しいなアリナスよ」
「はい、嘘確定ーっ! ブラちゃんは、私の事をアリナスって呼ばないからね」
ちっくしょう! 完全に見破られてやがる、超恥ずかしいんだが……
「あはは、はずーっ、ねえ、なんで呼んでたか知りたい? 知りたいでしょ」
「知るかよ! そんなの知りたかないやい!」
俺は、黒剣を引き抜き頭上に高く構える。出し惜しみは無しだ。
「ダークネス・クラッシュ!」
黒い波動が、アリナスを呑み込むように伸びていく。同時に辺りは、粉煙に包まれた。
「やったか!? やったよな」
「やったね、おめでとう」
「おうよ、ありがとう……っ!?」
背後から、今瞬殺したはずのアリナスの声がする。
振り返ろうとした瞬間、恐ろしいほどの衝撃と共に俺の体は、反対側へ吹き飛ばされ壁を砕いてめり込んだ。
「舐めんじゃないわよ。アンタバカでしょ! そんな大技、相手が弱ってから出すものよ!」
そうだった、こいつは暗黒騎士の事を良く知っている。俺が、剣を振りかぶった瞬間どんな攻撃がくるのか分かっていたに違いない。
壁と共に床に崩れ落ちた俺の姿は、衝撃のせいだろうか元の生身に戻っており、途切れかけた意識は命の危機を告げていた。ぴこーんぴこーん。
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