冒険者仮面X 〜 仮面しか作れないけどどうにか最強目指しま〜す 〜

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第1話 冒険者を目指して

「では、ライル・スティンガーよ。そなたの賜りしスキルの名を告げる」


超聖堂で司祭は、うやうやしく俺の希望に満ちた能力の名を告げる。これまで努力を重ねて来たのだ。きっと凄い良いものを授かるに違いねえ。

高鳴る胸は、鼓動の音を隠しきれない。さあ早くその栄光に満ちた力の名を告げてくれ! そしてこの場にいる皆にどよめきを響かせろ!


「その名は……」


司祭は、もったいつけるように、いや、むしろ首を傾げて言葉を止める。

どうした、良いんだぜ剣聖でも賢者でもドンとこいだ! と言うかまさか勇者なのか!? それならば確かに歯切れの悪さも納得だ。つまりは、選ばれし者と同時に過酷な運命を背負いし者ってことだ。やばいな、それはちょっぴり想定外だが運命に従う準備はたった今完了です。


なんなら少しずつ建物内にいる人々の騒めきは増しつつある。


司祭は、その雑音を制すようゴホンと咳払いをした。そうだ皆の者静粛にだ。歴史に残るこの瞬間を聴き逃すな!


「えー誠に何というか、私もこのような事は初めてというか……」


そうだろう、そうだろう、こんな場所で勇者なんて何十年いや何百年ぶりのおおごとに違いない。


「この者のスキル名は……仮面師である!」


えっ? いま何て? いつから勇者を仮面師って言うようになった……?


「ライルよ、お前は『仮面師』だ」


はっ!? 何だ、仮面師って……?


「どう言う事ですか? 仮面師って何ですか?」


もはや疑問符の嵐が、俺の脳内を駆け巡る。想定外の想定外だ。麺でもなく面だよ、食えねーとはこのことだ。


「いや、その、アレだ。お祭りの時、売ってるあのお面を作る力だ……と思う」


舐めんな!! と思う、って適当過ぎるだろ!

この一年間363日、風邪をひいて二日休んだ以外毎日体を鍛え続けた俺が、お面職人だと!?


ざわつく館内だが、思ってたのと違う! コレじゃないんだ。愕然として立ち尽くす俺に司祭は、さらに追い討ちをかける。


「立派なお面を作るのだぞ、さて次の者……」


おいいいいいいいいいーーーーーーっ!!!!

スルーって何だよ!!


「ちょちょっ、ちよっ、ちょっと待って下さい」


「何だね、仮面師くん」


これ完全に見下した人間のそれだ。


「いや、何かの間違いですよね。仮面師なんて職業聞いたこと無いですし」


俺は、司祭様に食い下がる、出来ればもう一度やり直してクレヨン。


察してくれたのか、はたまた面倒だにゃと思ったのか司祭は、もう一度俺に手のひらを向け鑑定の儀をおこなう。


「特別だからにゃ……だからな」


噛んだよな今!?

かみツンデレかよ!? 司祭だけに……


「ふむふむ、おお、これは、うん、ああなんと……くおおおおっ」


どうなんだよ! おい!


「そうじゃな、お前のスキルは……」


頼む、頼む、たのむーっ! 違うやつプリーズ!!


「ふむ仮面師じゃな」


マジかーっ! 何だったんだよ今の溜め。

確定、確定の生産職、俺の冒険者人生の幕は、クリエイティブに黒く塗り潰される。


魔物と戦い剣を折られるのではなく、先に心を折られることになるとは思ってもみなかった。謎の職業仮面師と共に俺のつよつよ冒険者への夢は、サラサラと崩れ去ることになるのだった……


その後、数日は体育座りで膝を抱えて過ごした。落ち込んだのもあるが、仮面師なるものが戦闘といかに接点を持つことが出来るのか、ワンチャン考えていた。


そしてようやく今日その結論が出た。


「防具としての仮面なら、もしかしていけるのでは」


そう考えた俺は、早速スキルを発動、ってかスキルってどうやって発動するんだ!?

ふぬぬぬっと力を込めるがいっこうに発動の気配はない。

ぶち当たった壁を乗り越えるには、あれしかない!

そう近所のスキル持ちに聞けば良いのだ。くくくっ、冴えてるぜい俺。


このコモノ村に住むめぼしいスキル持ちと言えば『へっぽこ侍』のあの人がいるじゃないか。


急いでその家を訪問する行動派の俺、説明書は読まずに道具を使う流儀と言えば聞こえは良いが単なるせっかちだ。


「こんにちは、はぁはぁ、あのアンダーボトムさんの家で、はぁはぁ、すか?」


「いや、俺の名前は、アンディー・バトムだよ。そんな最下層みたいなアレンジやめてくれないか。その前にハアハアやめようか」


「す、すいません、超急いで来たんで、い、息が……み、水をいただけない……ですか」


「わ、わかった、ええっと、ああ、そこに水飲み場があるよ」


アンディーが、指差す納屋っぽい場所に木製の細長い水溜めがあった。ありがたいと思って喉を潤していると横から何やら気配がする。


馬!? しかも迷いなくライルの横で水を飲み始める馬……

これ、もしかして馬の水飲み場かよっ!

めっちゃ水飲んじゃったよ、こんちくしょう!


くそう、アンダーボトムめっ!!

どおりでうまい水だったぜ、馬だけに……


再びアンディーのもとに戻った俺は、スキルについての教えを請うため深々と頭を下げた。


「水の恵みありがとうございます。実は今日は、お願いがあって来ました。どうか俺にスキルの使い方を教えて下さい! 師匠!」


揉手で上目遣いは、貴族が村にやってきた時に村長がやっていた最強の処世術と聞いたことがある。


その上での直球のお願い、俺に回りくどい駆け引きはいらない。


「ふむ、それな。ワシのスキル『へっ……ゴニョ侍』は、なんというか勝手にスキルが発動するのじゃ」


あんたそんな喋り方だったか!? 師匠と言ったのがこの人を甘やかしたのだろうか。


しかも『へっぽこ』の部分は、言葉を濁している。


「勝手に?」


「そうじゃ、なんか棒切れみたいなのを持つとしきりにこう、人を斬りたくなるのじゃ……」


ええーっ、なんかヤバくないかこの人!?


「そしてこう、グッと溜めてヒャッハーと押し出すのじゃ」


全く言っている意味がわからん。これはもう帰ろう。


「さあ、やってみなさい」


質問した手前、一応やってみるしかねえ。


グッ、ヒャッハー! グッ、ヒャッハー!

グッ、ヒャッハー! グッ、ヒャッハー!


何度か挑戦したがやはり何も起こらない。むしろ、コレはコレで何だか楽しくなってきた。


「よし! いいぞ、その調子じゃ!」


グッ、ヒャッハー! グッ、ヒャッハー!

グッ、ヒャッハー! グッ、ヒャッハー!


アンディーも乗ってきたのか俺と共に掛け声を叫ぶ。

イェーイ、ハイタッチをする俺達。


「いやっ、何にも起こらねえじゃねぇかよ!!」


「ふむ、どこで間違えたんだろう?」


アンディー・バトムは、首を傾げてスキルの不発を不思議がるのだが、これで成功すると思う方がどうかしている。


「そうだ! いっそ木を持ってきてナイフで削り出してみてはどうだろう」


名案とばかりに提案するへっぽこ。

しかし、それだともう、スキルとは言えないのでは……


とんでもないポンコツぶりに俺のモチベーションは、しおしおと音を立てて萎んでいく。


だが、もうダメだなと思った瞬間、突然ある考えが俺の頭をよぎった。


「それだ!!」


「良し、直ぐにナイフを取ってこよう」


いや、そうじゃない、アンタはちょっと黙ってて欲しい。


この時、俺の頭に閃いたのは、『素材』という概念だ。侍に剣や棒切れでスキルが発動するなら、生産職なら当然材料が必要なのでは無いだろうか。


俺は、早速アンディーの家の前に転がっていた薪を拾い上げると素材を意識しながらスキルを発動してみた。


すると今度は、光を放ちながら薪が形を変えていく。おおおっ、これは!?


「やったな、成功だ!」


出来上がったのは、目だけが開いたシンプルな面だった。見た目は、とても不気味だ。


「ええ、師匠。遂に俺のスキルが、発動しましたよ」


「良かったな、とても気味の悪い面が完成したな!」


言い方! それ小さい子だったら泣くやつだよ。


「よし、私がその面の鑑定をしてやろう」


と言うか、持ってたの『鑑定』!?

アンディー・バトムは、鑑定持ちだった。聞いてみるとある程度レベルが上がった際に突然身に付いたとのことだった。


スキルの派生は、稀にあるそうだが元々の『へっぽこ侍』より余程役に立つスキルなんじゃないだろうか……


「鑑定っ!」

アンディーがスキルを唱えると面のステータスが空間に示された。


【ただの面】

HP +1

効果 装着すると少し不気味


見たまんまただの不気味な面だった……

色々期待したものの成果は何もなかった。


ガックリと肩を落とす俺にアンディー・バトムは言った。


「残念だが私の鑑定ではこれが限界だ、すまんな」


口調は、いつものやつに戻っている。と言うかこの人ちょっと良い人なのかもしれないな。


「いえ、これで十分です。俺が、戦いに向いてないことが分かりました……」


「なあ、お前さん、もしかしたらなんだが冒険者になりたいんだろ。だったら俺が、剣を教えてやるよ」


「うわっ、マジですか!? でも俺のスキル戦闘向きじゃ無いし、冒険者って……」


「スキルが、無いと冒険者になれないって誰が決めたんだよ! いいんだよ、お前さんがなりたいならそこに道はあるんだよ!」


ありがたい、俺は誰かにそう言って貰いたかったのだ。アンディー・バトムは、ニヤリと笑って俺の目を見た。


「へっぽこ師匠、ありがとう。俺やってみるよ」


「へっぽこ言うんじゃねぇ!」


そんな訳でちょっぴり見えてきた希望と共に、ここから俺の冒険者人生は、ようやく始まったのだった。





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