『七海姐さん、まさかのゴール! 鉄火場で奇跡の「ウイニングイレブン」炸裂』
志乃原七海
第1話:『博徒・志乃原七海の「絶対領域」』
理屈も確率もねじ伏せる、圧倒的理不尽ヒロインのエピソードを書き下ろしました。
***
### タイトル
紫煙が燻る、鉄火場(てっかば)。
男たちの怒号と熱気が渦巻くその場所に、ふわりと甘い白檀の香りが漂った。
「お控えなすって」
襖が開くと、そこには息を呑むほどの美女が立っていた。
**志乃原七海(しのはら ななみ)**。
身にまとっているのは、濡れるような艶を持つ漆黒の**京友禅**。
鮮やかに描かれた牡丹の花が、彼女が歩くたびに生き物のように揺らめく。その妖艶さは、刺青を入れた荒くれ者たちを一瞬で黙らせるほどの迫力を持っていた。
彼女は静かに、盆(賭場)の中央へと進み出る。
「さあさあ、勝負だ。壺(ツボ)を振んな」
壺振り師(ディーラー)が緊張した面持ちで、サイコロを入れたザルを振る。
カラカラ、カラカラ……。
乾いた音が響き、壺が伏せられた。
**「さあ、入った! 丁(偶数)か! 半(奇数)か!」**
男たちが次々と札束を投げる。「丁だ!」「いや、半だ!」
七海は、長い睫毛を伏せたまま、紅を引いた唇で短く告げた。
「……半(ハン)だよ」
その声は鈴のように美しいが、絶対的な響きを持っていた。
「勝負!!」
壺振り師が勢いよく壺を開ける。
現れたサイコロの目は、**「1」と「1」**。
誰がどう見ても、合計2。「ピンゾロ」の**「丁(チョウ)」**である。
壺振り師が声を張り上げる。
**「でましたーー! ピンゾロの……」**
その時、七海が扇子でパチンと音を立てた。
そして、氷のような微笑みで壺振り師を見つめた。
「……半(ハン)だ」
「へ?」
壺振り師が固まる。
「姐さん、これ、1と1で2……どう見ても丁で……」
「私が『半』と言ったら、半なんだよ。文句あるかい?」
七海は友禅の袖から、白く細い指を出し、サイコロの一つを指差した。
ただそれだけ。触れてもいない。
しかし、壺振り師は、彼女の背後に修羅(しゅら)を見た。
全身から冷や汗が噴き出す。
壺振り師は震える声で叫び直した。
**「へ、へい……! で、でましたァーー! 半(ハン)だァァーーッ!!」**
「はあ!?」
賭場の客が総立ちになる。
「ちょ、待てよおい! ふざけんな! 足し算もできねぇのか!」
「1足す1は2だろ! 丁だろ! なんだそれ!?」
客の一人が七海に詰め寄る。
「おい姐ちゃん! 算数習ってねぇのかよ!」
七海は男の方をゆっくりと向き、艶然と微笑んだ。
その笑顔は、あまりに美しく、そして致命的だった。
「1と1が合わさって、**『11(イレブン)』**に見えたのさ。11は奇数……つまり『半』だろ?」
「なっ……!?」
無茶苦茶だ。そんな理屈が通るわけがない。
しかし、七海は扇子で男の胸をトン、と叩いて言った。
**「いいの。私がルール。……この場の『運』も『数』も、全部私が決めるの」**
その圧倒的な「わがまま」と言う名のカリスマに、男たちは言葉を失い、なぜか納得させられてしまった。
「そ、そうか……姐さんがそう言うなら、11に見えてきた……かも」
「ああ、こりゃあ半だ。間違いねぇ」
理不尽な勝利を収めた志乃原七海は、大量の札束を涼しい顔で懐に入れると、京友禅の裾を翻して去っていった。
「また遊んであげるわ。……算数の勉強、しておきな
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