第14章 辞令
一か月後 ブルクの村-
鏡の森から狩りの帰り道、ゴトゴトと音を立てながら数台の荷馬車がヒロを追い
抜いていく。
コオロギの鳴き声が盛大な輪唱のように聞こえてくる秋の夕暮れ-
荷籠を背負ったヒロは、麦わら帽子を被り畑で鍬を振るエテロを見つけて手を
振った。
「エテロさーん、ちわー!」
「おー、ヒロ坊か!・・・ふうー、陽が落ちるのが早くなったなー。」
「だねー。おばさんとナオは元気にしてる?」
「ああ!俺以上に元気だぞ!ウチにも顔出してやってくれな!」
「うん!」
「そういや、ホロ様のお姿をとんとお見掛けしねーが、どうかなさったのか?」
「あー、なんか神様になって目立ち過ぎたから、暫く隠居するとか言ってたよ。年越
して暖かくなったらまた動き出すんじゃないかな。」
「そうなのかー。今年のトリイモの収穫が始まったんでな、お供え物をお持ちした
かったんだが・・・。もし会ったらよろしく伝えておいてくれな。」
「うん。」
二人の背後を新たに別の荷馬車が通り過ぎていく。
「エテロさん、最近ブルクを通る荷馬車が増えてない?」
「ん?ヒロ坊は知らねーのか?人神ホロ様効果と勇者様、英雄様効果で、今はディ
オンへの移住者が激増してんだぞ。」
「え、まじで!?」
「おう。マジも大マジだ。年内にもディオンの街は居住者の数が2倍になるんじゃ
ねーかって噂よ。それに先週から大掛かりな街の拡張工事も始まってるしなぁ。それ
だけじゃねえぞ。なんと、このブルク村にも、年末までに17家族が引っ越して来る
予定だ!」
「えーっ、すごいじゃん!!・・・でも、そんなに空き家ってあったっけ?」
「ムナ爺の隣のボロ家も改装してギリだな。領主様が言ってたが、ディオンだけでも
天手古舞なのに、ブルク村への移住の申し込みや問い合わせも軽く200件を超えて
るらしくてな、対応が大変なんだってよ。ただ、ブルクはもう空き家がねーし、新し
く家を建てるにしたって、大工職人も建材も今は全部ディオンに持ってかれてっから
なぁ・・・。早くてもブルクの受け入れ再開は来年の夏って見立てなんだが、予約待ち
だけで80件近いんだとよ。どうだ、すげーだろ。」
「ま じ で ?」
「ま じ だ 。」
-やっべ・・・もしかしたら年末に保護院を閉まった後、ブルクに俺が住む家って無いんじゃ・・・。あ、じゃあ保護院にそのまま住めばいっか!・・・引っ越しだって面倒だ
し。うん、そうしよ。
「なもんで、これからはタツミにも相当頑張ってもらわねーといけねーからな。忙し
くなるぞー。」
「ん?タツミに?」
「いや、今週の村議会の話な。・・・・・・あれ?タツミからなんも聞いてないのか?」
「え、なんかあったの?」
「おっと、その様子じゃあ聞いてねーな。・・・まあ、まだ公表されてない話だから、
ヒロ坊にも言わなかったんだろ・・・。相変わらず口が堅え奴だ。」
エテロがガハハと笑う。
「なんの話?」
「俺が喋ったってタツミには言うなよ?」
「勿論!」
「今月の初めだったか・・・ディオンとブルクの拡大に合わせてブルクの守衛を早急に
立てる必要があるって、村議会で議題が持ち上がったんだ。タツミが保護院を閉めた
後、守衛に就いてくれるって話だったんだが、人と物の往来が激増してる今、守衛
不在はさすがにマズいだろって話になってだなぁ、」
「うん。」
「で先週、ノーマン村長と俺で領主様に相談しに行ったんだ。ちょうど今話題の
英雄のサイモン総司令殿も領主邸に来てなさっててな、おかげですぐに話が纏まっ
て、今春定年で退役なさった元駐屯部隊の騎士様を紹介してくれる事に決まった
んだ。」
「え、そう・・・なんだ。」
「うむ。」
-じゃあタツミは・・・
「まあ、その事を含めてあーでもないこーでもないって4人で話し合ってたんだが、
その時にノーマン村長が、そろそろ村長の座を辞してゆっくり隠居したいって言い
だしたんだ。」
「えっ」
「まあ、歳も歳だ。去年は膝、今年は腰までやっちまって、暫く寝たっきりだっ
たろ?辞めるのも仕方ねえとは思うんだ。・・・で、ノーマンさんは次の村長に俺を
推薦したんだ。俺が驚いて口籠ってる間に領主様も同意なさって、司令官さんが
立会人って事でその場で即決しちまってなあ・・・。」
「まあじいで!?おめでとっ!!エテロ村長!!」
「やめてくれ、気恥ずかしい。・・・だが、そうなると俺の代わりに誰が村の幹事役
になるのかって話になるだろ?そこで俺がタツミを推薦したんだ。そしたら領主様、
村長、司令官さん3人共、タツミがいい、タツミしかいないって、えっらい乗り気
でな。で、急遽タツミを呼んでその場で即決したんだ。」
「えっ!!タツミが村の幹事になるのっ?」
「おうよ!あいつは全てを投げ売って村の孤児達を引き取って立派に育て上げて
来た、馬鹿が付くくらい真面目で面倒見のいい男だ。しかもホロ様の従者様と勇者
様と英雄様を育て上げた挙句、何の対価も報償も受け取らずに国に送り出すような
聖人様みたいな男だぞ?となりゃあ、 村の世話役としてこれ以上の人材は他にいね
えだろ。ま、当然の人事だ。」
「俺もそう思う!」
「だろぉ!!」
興奮気味のヒロにエテロがこの上ない笑顔を見せた。
「まあ、そんなこんなで、ブルク村の役職変更に関する公布は12の月の月始め、
就任は年が明けた翌1の月1日に決まった。だからまだ暫く先の話になる。せめて
公布されるまでは誰にも言うなよ?」
「うん、分かった!!」
「それと新しい守衛さんが週末には着任すっからな。会ったら挨拶しとけ。」
「守衛さんの家は確保出来てんだ?」
「いや、家はもう予約とかで埋まってっから、しばらくはディオンからの通いに
なる。だが村としても最優先で守衛夫妻の家を建てるって方針なもんで、まあ・・・
一軒分くらいの建材なら村で準備出来るし、元大工のカモ爺もおるで、村人全員で
協力すりゃ家一軒くらいどうにかなんだろ。年内にはこっちに引っ越して来れるん
じゃねーかな。」
「そっかー。」
「まあ、そんなこんなで、ブルクもディオンもこれから騒がしくなるぞ。・・・ヒロは
どうするんだ?勿論、閉院してもブルクに残ってくれるんだろうな?」
「もちろん!!」
「そっかそっか!!頼みにしてるぜ!将来の村長候補!!」
「あは。それはないけどねー。」
「いや、俺は本気だからな。俺やタツミの世代の次の村長はヒロ、お前だ。」
「俺が村長なんかになったらこの村速攻で潰れるって。ま、ネルとナオがいるから
どっちにしろブルクは安泰だよ。」
ヒロが笑いながら荷篭を降ろして、丸々と肥えた岩兎を3羽取り出した。
「今日は岩兎を3家族も見つけてさ。これ、お裾分け。」
「いつもすまねーな。おう、今日はトリイモを持って帰ってくれ!」
荷篭に溢れる程のトリイモが積まれた。
二週間後、初冬。
ディオンの街 騎士団駐屯地 指令控え室-
ヒロがサイモン、カエラ、カイトの前に立った。
「はい、注ー目ー。では以前からお伝えしていた聖クリシュナ王国公認、「勇者・
英雄強化育成マル秘計画」について説明しますっ!今日はまず勇者組の3名に
集まってもらいました!みんなよく聞いてねっ!」
「準備に時間かかり過ぎだ、少年!どれだけ待ち侘びていたことか!」
「上等だぜ!やってやんよ!」
「やっぱりその計画に俺も入ってんのか、坊主・・・。」
「あたりまえっしょ。」
「はあぁ・・・。分かったからとっとと説明してくれ。」
「では、これから皆さんには戦ってもらいます。」
ヒロの眼がキラリと光る。
「先生、詳しく説明して下さい!」
カイトが声を上げる。
「いいでしょう。まず・・・今、俺には天族1220万、魔族1万2000の眷属が
います。」
「はぃ?」
「え・・・?」
「ぁ?」
「そこで、カエラさんが考案した眷属を使った育成法を基にし、「一気に皆の熟練度
を爆上げ作戦」を立案致しました!つまり・・・」
ヒロの指先がチョイチョイと左右に揺れる。
「皆に俺の眷属を倒してもらって、熟練度をガン上げさせるっす!最初のうちは眷属
達は無抵抗。皆の熟練度が5桁に近づいたら、戦闘訓練を兼ねて抵抗させていく。
真剣さが増す分、獲得熟練度も跳ね上がるしね。そんな感じで一人400万体討伐
してもらうっす。期間は一人につき一ヵ月。移住者の対応で皆が忙しくなる春先まで
には終了させる予定。」
「一人400万体っ!?」
「そそ!」
「・・・・・・ぁん?」
「うおお!!上等だぜ!!」
「最初に言っておくと、天族ってちょっと特殊でね、討伐して獲得できる熟練度って
ちょい渋めなんだ。だから-」
ヒロがサイモンに最上級の「会得促進」を注入する。
「な、なんだ!?」
「落ち着いてサイモンさん。獲得熟練度が激増する祝福を注入して渡した。これで
全員、俺の加護と最上級の会得促進の祝福を持ってる事になる。この2つで熟練度の
獲得効率がバチクソ上がってる状態。・・・で、天族のもう一つの特徴なんだけど、
討伐後の熟練度獲得に伴う生命力とか心身、身体能力の強化値と補正値が凄まじく
高いんだ。戦闘能力の向上って観点から考えた場合、天族は最高の討伐対象なんだ
よ。」
「ほ、ほおお・・・!!」
「勘弁してくれぇ・・・」
「カァーッ!!上ぉ等ぉだぜ!!!」
「討伐場所は鏡の森の結界封印済みの地下洞窟。戦闘の被害が周囲に出ないように
空間遮断って祝福を常時使うから、気にせず全力で戦ってもらって大丈夫。倒した後
の死体は俺が全部抽出で消すから、皆はとりあえず俺の眷属を倒す事に専念して欲し
い。説明は以上!」
「待て坊主。いくら王国公認だっつっても、俺やカエラが一ヵ月間も休むのはさす
がに無理だぞ。有休を全部突っ込んでも・・・最長で一週間が限界だ。実際はそれでも
かなり厳しい。」
「そっかー・・・。了解。・・・じゃ、一人5日間。その代わり不眠不休に変更。当初の
6倍動いてもらう計算になるけど、皆には俺の加護を付与してるから・・・まあ余裕っ
しょ。必要なら俺が体調も体力も一気に完全回復させるし。」
「よおし、望むところだ、少年!!」
「お前・・・神じゃねーな。悪魔だろ。」
「上等だぜええええ!!!燃えて来たあああああっっ!!!」
「・・・ならば」
カエラが武者震いをしながら立ち上がった。
「総司令、自分はちょうど仕事が一区切りついております!最初は私が行ってもよろ
しいでしょうか!」
「おう、行ってこい。俺はすぐには休めん。カエラの次はカイト、お前が行ってこ
い。」
「はっ!」
「では私が最初という事で、早速今日の正午からでもいいかな?少年!」
「勿論!準備はもう出来てるよー!昼飯食ってからでもいい?」
「心得た!」
「坊主、・・・お前はそれで本当にいいんだな?」
「ん?」
「お前が望んでいるのは、他種族と共存出来る世界なんだろ?でも今からやろうと
してる訓練は・・・まあ、言わんでも分かるだろ。」
「人間族との平和な共存を望んでいるなら殺さないよ。誰であろうとね。でも・・・」
「お前の眷属はそうじゃねーのか?」
「うん。いくら俺の眷属として服従してても、本質や性向は変わらないから。」
ヒロが軽く溜め息をついた。
「前にも言ったけど、天族は必要以上の自我や知性、感情、記憶を持っていないん
だよ。マルドゥクスの指示を履行するためだけの存在、創造神の完璧な操り人形で
しかない。だから、俺の事や人間族の事を理知ある生命体だとさえ認識していない。
認識が出来ないんだよ。しかもマルドゥクスから指示が出れば、俺の指示を無視して
眷属誓約不履行の呪詛を全身に受けてでも、世界だって滅ぼしだす様な種族だから。
もう共存以前の問題だよ。」
「そうか。じゃあ・・・遠慮なく殺るぞ?」
「うん。もしもこの子達に本当に自我が芽生えて感情を持っていたら、・・・解放して
くれてありがとうって言うと思う。」
「なんか可哀そうだな。・・・天族って。」
「でもカイト、これが創造神として崇拝されてる、マルドゥクスが造ったこの世界の仕組みなんだ。」
ヒロがカイトを見つめた。
「奴隷、種族、祝福と熟練度・・・世界のどこを見たって、憎しみとか闘争を煽る仕様
ばっかじゃん。・・・そんなものを守る為に、生きた屍みたいな天使を大量に創り出し
て、好き勝手に動かしてやがる。こんな世界、どう考えたっておかしいだろ。俺さ、
そういうのを一切合切纏めてぶっ壊してやろうって思ってんだ。」
「手伝うぜ、ヒロ。」
「おうよ!」
ヒロとカイトが拳をぶつけ合う。
「うむ・・・。大胆な意見だが、その気概は見事だ。」
カエラが頷いた。
「だからって俺をそっち側に引きずり込むんじゃねーよ・・・。」
サイモンがソファーからズリ落ちた。
正午過ぎ 鏡の森 地下洞窟 中央大空洞-
「じゃあカエラさん、手順を説明するね。」
「うむ、頼む。」
ヒロが天使を2体召喚した。
「今からこの子達みたいに、熟練度だけを残して・・・それ以外は抽出で全部剥いでる
状態の天使を1万体づつ召喚していく。最初は抵抗とかさせないから只管倒してもら
うだけなんだけど、カエラさんの熟練度が5桁に到達した時点で徐々に反撃させてい
くね。で、下位天使達の熟練度は平均で150万強。第7強種の中でも災害級や
伝説級以上だね。中位の天使になると平均熟練度は300万を超えてくる。上位だと
500万・・・、最上位だと800万超えが普通。中には1000万超えてる個体も
いる。だから天使達は素の状態でもかなり強い。カエラさんの装備や俺の加護があ
ったとしても・・・気を抜くと一瞬で死ぬよ。」
「分かった。」
「注意点が3つ。その一。召喚眷属や守護精霊を使って天使を倒すのは厳禁。全て
自分で倒す事。じゃないと獲得熟練度が分散されたり、最悪入らない事だってある
からね。その二。5日間は不眠不休で戦ってもらうからそのつもりで。休憩はお手洗
いのみ。用を足したい時は、言ってくれたら空間遮断を解いて外に空間転移させるか
ら。ただし、5分後には強制的にここに戻すから気を付けてね。食事は支給した
ハビン豆と干し肉、水入りの革袋で戦闘しながらとってもらう。その三。回復や治癒
が必要な場合は、向こうの壁際に置いてある薬水とかを使って自分で行う事。危険と
判断した時は俺が一気に回復させる。でもその場合、これが本当の闘いなら確実に
死んでるって事だからね。」
「分かった。」
「1万体の召喚を400回繰り返して、合計400万体の天使を倒したら終わり。
あと天族の魂核・・・正式名称は「天核」なんだけど、場所は・・・下位天使と中位天使
の場合は胸の中央付近にある。この辺ね。・・・で、けっこう固い。」
ヒロの拳が片方の天使の胸を撃ち抜くと、天使は無言で膝から崩れ落ちた。
「次に上位天使と最上位天使の場合はここ。後頭部付近にある。ただし、超絶
固い。」
ヒロの踵落としが、もう片方の天使の頭部を削り落とすと、その場で天使が崩れ
落ちた。
「天使はかなり頑丈だけど、見ての通り天核を潰せば討伐時間を一挙に短縮出来る
ってのは他種族と一緒だから。説明は以上だけど、なんか質問ある?」
「質問は無いが頼みがあるんだ。嬲り殺しは私の性に合わなくてな。それに熟練度を増やせる機会をみすみす逃すのはもったいない。最初から真剣勝負をさせてくれ
ないか?あと、私の熟練度の成長に合わせて天使達に強化系の祝福をかけて欲しい
んだ。」
「・・・・・・・・・。」
2日後-
カエラは400万体以上の天使と全ての魔族を倒し切り、熟練度4312477
と138の派生能力、称号「殲滅者」「殺戮の覇王」「闘帝」「練磨の武王」「天下
無双」「一騎当千」を獲得しただけでなく、獣手甲「黒牙拳幻」と獣脚絆「黒牙
脚幻」を神器級に匹敵する段階にまで成長させた。そして祝福「格闘術」が臨界
へと昇華するに至る。
一方、カイトは丸4日間を使って、熟練度3840543と109の派生能力、
称号「殲滅者」「殺戮の覇王」「剣聖」「殲滅の剣王」「不屈の剣豪」を獲得。そして
祝福「剣技」が臨界に昇華した。
サイモンは5日と更に2日間の追加補習期間を経て、熟練度3000001と
100の派生能力、称号「殲滅者」「覇王」「破壊の槍士」「絶望の巌窟王」を獲得
し、祝福「槍術」が臨界に昇華した。
「はあぁ・・・ただいまー!つっかれたー・・・。」
ほぼ二週間ぶりに帰って来たタツミ児童保護院。
食堂に空間転移で戻って来た途端、ヒロは長椅子に体を埋めた。
真っ先に気が付いたネルがヒロ目掛けて突進して来る。
「ヒロおかえりぃ!」
「おー、ネルぅ、ただいま。」
ヒロがネルを抱き上げた。
続いてパタパタと小走りの足音が聞こえ、タツミとエレナも食堂に集まって来た。
「お!おかえりヒロ!無事に帰って来たようだね!!」
「ご苦労様。なんか凄く疲れてるみたいだけど・・・お茶でも飲む?」
「あ、飲む!」
「カイト達と秘密の特訓をするって言ってたけど、そっちは大丈夫だったのかい?」
「無事に終わったの?」
「うん。全部終わったよー。全くもって問題無し!」
しばらくヒロに抱きついていたネルがそのまま長椅子の背によじ登ろうと、ヒロ
の体を足台にして登頂大作戦を開始した。
「あ、エレナ!近いうちにまた色々と納品しにいくから、よろしくね!」
「はぃ?ヒロ、それ本気で言ってる?こっちはみーんな残業残業で、やっと人狼族の
装備の鑑定と検品処理が終わるところなのっ!これから調査、研究、登録、競売、
搬送、集金、送金になって他部署が命を削って残業祭りになるんだけどっ!?」
「えーでも、装備とかいっぱい入荷しちゃったし・・・。」
「いっぱいってどれくらい!?」
「えっと、天族1200万体分と魔族1万2千体分くらい。」
「黙れっ。」
「えぇっっ!?」
「えぇ、じゃないでしょ!うちの鑑定作業は一日最大30件、どんなに多くても
一ヵ月で1000件が限界なの!今月はもう手一杯!来月になったら売れそうな
物からちょっとづつ納品しに来ること!分かったっ!?」
ティーを淹れに調理室に向かうエレナ。
「わ、分かったよ・・・。エレナってすぐに怒るよなー。なー、ネル。」
「はいい!?あんた今なんか言った!?」
調理室の入り口から顔を覗かせたエレナが、火掻き棒とケトルの蓋を振り回して
威嚇していた。
「またどえらい数の討伐をしてきたんだねー・・・。」
「今回は俺じゃないよ。勇者組に討伐させてさ、3人の熟練度を300万越えに
したってん。カエラさんなんか430万超えたよ、熟練度。カイトは380万。」
エレナに聞こえないように小声でタツミに伝えながら、ヒロがウヒャヒャヒャと
笑う。
「・・・・・・え?」
「他種族の最強種の王でも80万がいいとこじゃん。飛びぬけて強かった古竜王や
人狼王でも100万ちょい超えてるくらいだったし。」
「うん。・・・えっ?」
タツミは情報の処理に時間がかかっているようだった。
「ふふふ・・・。」
ヒロがちらりと抽出状況を確認した。
-うお!・・・こ、これは・・・さすがに抽出物が多すぎたかぁー。経連に納品拒否される
可能性を考えておいて正解だったかも。
ヒロは余りにも長過ぎる抽出物一覧を一気に読み飛ばし、抽出状況の最終情報に目
を止めた。
与奪の権能・抽出管理始動
熟練度 :1513960835を獲得 既得神位:第六神に統合
神力 :絶大値を獲得 既得神力に統合
祝福 :14672360を獲得(派生能力464867236を獲得)
既得各権能に分散統合
称号 :269376597を獲得 既得称号:人神に統合
加護 :173765986を獲得 既得加護:人神の加護に統合
誓約奴隷 :精霊族21087を獲得
称号 「天奪王」を獲得 与奪の権能により既得称号:人神に統合
-獲得した神力が絶大値・・・また来たわ、数値化を諦めたあの表記が!
思わずヒロは仰け反った。
-天族1200万体はさすがにやり過ぎた感があるな・・・ん?お手本で倒した天使
6体分の熟練度がえらい多いな?・・・あぁ、全知全能の権能になったから、成長強化
系とか成長促進系の祝福効果もぶっ壊れたんか・・・。抽出で丸々奪う以上の数値だも
んな。・・・って、祝福が多すぎて一覧化されてねえじゃん。内容とか内訳って分かる
のかな・・・・・・あ、・・・集中したら全部見えるわ。・・・・・・おっ!「神罰」の祝福が予想
以上にガッツリ採れてる!よしよし!!
「・・・げっ!?」
更に記録を追って行くと思わず呻き声が出た。
-称号と加護の抽出数がヤバ過ぎ!こんなに統合したら・・・
呆然とするヒロ。
-もはや効果を確認するのが怖いんだが・・・。いやでも・・・一応見とくかぁ・・・。
そして思わず天を仰いだ。
-他の神々の加護の数万倍の効果や。・・・あ、あかん。誰かに付与していいような
加護じゃないなっとる。・・・カイト達に付与した俺の加護、効果の更新はせんとこ。
更新したら世界終わる。よし、忘れよう。
気を取り直して記録を読み進める。
-守護精霊と眷属は無し。奴隷は21087で全部精霊族か。そういやアブルも誓約
奴隷は全部精霊族だったような・・・。天族の流行りか?・・・とりあえず全部解放だな。
あとは新しい称号が1つだけ増えた、と。抽出の派生能力・・・今回は何も無しか。
「まあ、言うほど熟練度稼いでないし・・・仕方ねーか。」
独り言を呟くヒロの肩に足を掛け、ヒロの右手の支えもあって長椅子の背もたれ
登頂に成功したネルが、守護精霊のシルヴィアによってフワフワとヒロの膝の上に
降ろされて来た。
「シルヴィア、もう一回して!もう一回!!」
ネルが嬉々としながら再びヒロを踏み台にし、背もたれ再登頂に挑みだした。
一週間後 経連ディオン支部-
「あら、ヒロ君。しばらくぶりね!今日はエレナ主任は非番の日だったはずだけ
ど・・・どうかしたの?」
経連ディオン支部の受付嬢イサラが声をかけて来た。
「今日はホロの爺っちゃんのお使いでね。錬金室を使わせて欲しいんだけど、空い
てるかな?」
「え!ホロ様もいらっしゃるの!?」
「うん、後で飛んでくる。バレると人集まっちゃうから内緒ね。」
「待って、錬金室の利用状況を確認するわね。使用時間はどれくらいかしら?」
「夕方までずっと。主な用途は与奪錬金と与奪錬成、かな。」
「初めて聞く名称ね。」
「あ・・・なんかホロの爺っちゃんが神様になった時に出来る様になったみたいだ
よ。」
「そうなんだ!ま、神様となれば色んな錬金や錬成をご存じなんでしょう!何か
必要な物とかある?」
「あ、石灰晶石があれば嬉しいかも!一応、鏡の森の地下洞窟で大量に抽出して
きてるんだけど・・・少し余裕をみて20キルンほどいい?」
「もちろんっ。じゃ、それも合わせて手配しておくわね。・・・もしかして本日納品
分もあるのかしら?」
「うん、めっちゃある。とりあえず、聖砂9種、聖水7種、聖油8種、聖脂6種、
聖と光の水晶石と水晶体、結晶石、結晶体、結晶液。聖光石と聖剛石、光輝石。
あとは・・・ラティア系の光油7種、キリル系の聖油8種に、バルア酸系脂肪2種、
ホリウム系油脂11種、ラジアス系の粘土は24種全種。夕方過ぎには納品出来る
と思う。量的にどれくらいまでなら荷受け可能?」
イサラが固まっていた。
「イサラさん?」
「あっ、えっ!?」
「ん?」
「えっと待って、その言い方からすると・・・もしかして大量納品!?」
「うん。かなりの量を生成出来ると思う。やろうと思えば大倉庫内の2区画分くらいは余裕で・・・。」
「大倉庫区画で2?凄いっっ。・・・待って待って!品質はどんな感じなのかな!?」
「んー、とびっきりの最上級品質、ってか史上最高品質だと思うよ。なんせ今回は
原料とか素材が天使・・・天上突き抜けるくらいマジで極上だから。」
「あ、あのね、ヒロ君。・・・それ全部、今世界中が喉から手が出る程に欲しがってる
品なのっ。」
「え、まじで?」
「粗悪品でもなかなか手に入らないし、代替品とかも存在しないから、完全にお手
上げ状態だったのよ!!」
「ほへー・・・。」
「これは大騒ぎになるわね。・・・とりあえず上に状況を報告して段取りを取るから
座って待ってて!それまで誰にも言わないで!!」
「ウイッス。」
イサラがメモを握り締めて脱兎のごとく駆けだした。
-フッ・・・どう転んでも全部ホロに擦り付けたらいいだけだし。いくらでも騒いで
どーぞ。
ヒロがほくそ笑みながら、受付の横のソファーにボフンッと座った。
「ねね、あの子、めちゃくちゃカッコよくない?」
「えぇ!?誰、あの子・・・」
「あ、ヒロ君じゃん!ほら、エレナ主任のお友達の!」
「あっ!ホロ様の従者してるっていう子!?」
「えっ!?凄くない!?」
拡張工事で受付口が一気に増えたからか、女性職員達からの好奇の視線が気に
なりだす。
-ホロで来るべきだったかな・・・いやでもホロだと一瞬で取り囲まれてまともに動け
なくなるし・・・
「はぁ・・・。」
視線が背になる席に静かに座り直した。
天界 創世神殿-
どこまでも青く澄んだ空と、その空を鏡のように映し出す水面に挟まれた空間に、
純白の御座が一つだけポツンと置かれており、白い聖衣を纏った白髪の老人が座って
いた。
まるで宙に文字を書くように老人の指先が踊ると、眩い光の軌跡が伸びていく。
しばらく何事かを考えるように手を止めると、再び忙しく指先が動き出した。
その時、御座の上方から6対の大翼をゆったりとはためかせながら、透き通った
硝子の様な天使が舞い降りて来た。
「偉大ナル我ガ神 マルドゥクス様 フェアリア様ガ 来訪サレマシタ」
「通しなさい。」
白髪老人の凛とした声が響く。
「御意」
天使が手にしていた半透明の杖が足元の鏡の様な水面を打つと、御座の前に波紋
が広がっていく。
次の瞬間、波紋の中心に錫杖を手にした蒼い髪の美しい少女が現れた。
優雅に片足を引いて腰を落とし、眼前に座している創造神マルドゥクスに敬意を
示す。
「精霊神フェアリアか。久しいな。その儚き美しさ、ますます磨きがかかっておるわ。」
「ごきげんよう、マルドゥクス。またお上手ですこと。」
少女がクスクスと笑った。
「今日はお話があって参りましたの。」
少女はいつの間にか背後に現れていた御座に浅く腰を掛ける。
そして垂れた髪を耳にかけた。
「申すが良い。」
「人間族の神が誕生した件についてです。・・・貴方の召しを受けた新しき神の誕生の
際は、ここ創世神殿にて五柱神が揃って祝うのが通例だと思うのですが・・・違ったか
しら?」
「其方も全て見ておろう。我は彼の者を神として召し上げてはおらぬ。彼の者は、
我が後継者たる天族の神アブルを倒して全てを奪い、自ら「神格」を手に入れたに
過ぎん。」
「まあ!では、貴方が創り定めた「理」を無視して、神の位に昇りつめた者を放置
していらっしゃる、と?・・・しかも独り子とまで呼んで溺愛し、天族の神の座を継が
せようと手塩をかけて育てて来たアブルを殺され、数多の天族を殺されて尚・・・事態
を静観しておいで、という事でしょうか?」
少女の芝居かかった物言いに老人が苦笑した。
「我が定めし「理」は一度たりとて無視などされてはおらぬ。無論、何者も理に逆ら
う事など出来ぬし、理を侵す事など決して許さぬ。この我ですら理に従い、理の下
で存在するのだからな。・・・我が創り定めた「理」とは、それ程までに崇高なるもの
であり、生きとし生けるものにとって不可侵の掟である。」
「それは同意しますが・・・。」
「人神の誕生も、アブルの消滅も、そして数多くの天族の消滅も、我が授けた祝福
を彼の者が正当に行使した結果よ。ならば、これら全ては理に則って生じた事象で
あり、否定の余地は微塵も無い。」
「・・・そう・・・なのですね。」
「納得がいかぬか。さりとてこれが全て。これが事実。理に則った事象ならば、我
は干渉と介入を望まぬ。被造物が自由意志で決める選択とその結果を我は尊重す
る。無論、必要とあらば世界をあるべき姿に導こうが、今はまだその時ではない。」
「そうでしたか。私はまた・・・ヒロとか申す幼き人間族を贄にするのかと邪推して
おりましたもので。」
笑わぬ目で微笑むフェアリア。
「贄とは失敬な。」
マルドゥクスが含みのある笑みを見せた。
「それでは、少し話を変えましょう。・・・干渉を望まぬはずのマルドゥクスが、吸鬼
の王を誑かしてまで魔族に干渉したのは何故なのです?世界をあるべき姿に導く為
だったとでも?」
「さもありなん。傲り高ぶった魔族がこれ以上増えては、世界の調和と理を乱す事
必至。故に我は淘汰が必要と判断した。意義ある間引きを行ったに過ぎぬ。それだけ
の事よ。」
「なるほど。その問答無用の「虐殺計画」に・・・吸鬼王と人神を利用なさったのね。」
清廉な空気に包まれた少女の言葉の「毒気」に当てられ、老人から笑みが消え
る。
「こうなってしまっては、魔神も相当怒っていると思うのですが。」
「そうか。では魔神デモニアに会う事があれば是非とも伝えておいてくれ。我が創り
し「理」は不変にて神聖なる法。決して犯してはならぬ絶対の掟である。理を忌む者
を我は忌む。理を犯す者を我は処す。身の程を知れ、次は無い。とな。」
「あらあら・・・。なるほど、そういう事でしたか。お二人の間には何やら深刻な問題
が起きていたご様子。ならばこんな小娘が出しゃばる余地などございませんわ。・・・
ですが一点だけ。」
少女の人差し指が顎の先に添えられる。
「抽出とかいう祝福・・・今回の様に手駒として使うには些か危険に思えるのです。
彼の者は既に未曽有の力をその身に宿し、しかも今、余りにも過ぎた力を従者達に
まで持たせております。・・・ひとつ間違えば世界の調和どころか世界の存続さえも
危うくなる、と考えます。」
フェアリアがマルドゥクスを見つめる。
「本当に彼の者を贄にする気が無いのでしたら、今のうちに対応すべきではないで
しょうか。」
「何事にも理由はある。とだけ言っておこう。しかし・・・」
マルドゥクスが精霊神たる少女を見つめてほくそ笑んだ。
「誠に・・・奇異な事よのぅ、フェアリア。其方は彼の者・・・人神ヒロを見て値踏みし、
何事かに利用しようと企んでいたように見えたのだが?今は一転して処断を求め、
芽を摘めとまで申すとは。心変わりでもしたか?それとも・・・強き言葉を用いて、
その処遇について我が真意を探ろうとしたか?・・・ふむ。であれば人神にえらく執心
なことよのぅ。いったいどうした、精霊神。」
創造神の意趣返しの言葉にフェアリアがクスリと笑う。
「人神に執心?・・・フフ。さて、それはどうでしょう。・・・とはいえ、私がマルドゥ
クスに意見するなど、やはり出すぎた真似だったようですわ。大変失礼を致しまし
た。これ以上失言を重ねて心象を悪くする前にお暇すると致しましょう。」
少女が膝の上に置いていた勺杖を手にして立ち上がった。
「またお会い致しましょう。ごきげんよう、マルドゥクス。」
丁寧に腰を屈めると、薄い波紋を水面に残して少女の姿が消えた。
「・・・食えぬ女よ。」
マルドゥクスは宙を見据えて呟いた。
数日後 ブルク村 タツミ児童保護院-
「朝だよー。ヒロ、ネル、起きなさーい!」
カーテンを勢いよく開ける音が聞こえる。
「オハョゴジャス・・・」
ヒロが髪を立たせながらモゾモゾ起きだした。
「おはようヒロ!さぁネルも起きてー。朝ご飯だよー!」
ネルがタツミの肩に担がれた。
「じゃ、いただきます!」
「いただきますー。」
「いただきます。」
「いたーだきーます!」
「今日はエレナとヒロは王都に召喚されている日だったよね。くれぐれも気を付け
て行くんだよ。あと、国王様や王国議会の方々に失礼の無いようにね。」
「うん。でも、辞令式って何かしら?お披露目の宴なら派手にしてもらったけど・・・
いきなり王国議会からの呼び出しとか、何か緊張しちゃう。」
「どーせ、あれしろこれしろって、俺達に指図する気なんだって。あーウゼぇ・・・。」
「ネルも行きたい!」
「その手があったか!ネル、俺の代わ-」
「だめだよ、ネル。エレナとヒロは王様達と大事なお話があるんだから。」
「えー。ネルも行きたいー!」
エレナがクスリと笑った。
「ネル、今日はタヅナお姉ちゃんが遊びに来る日だよ?本当にいいの?」
「え!タヅナちゃん、今日来るの?タツミ、今日来る?」
「・・・そ、そうだね。来るよ。」
「やったぁ!!むー・・・。じゃあ、ネルお外行かないで待ってる!」
タツミが頬を赤らめながら目玉焼きに花蜜をかけだした。
「タツミ、それ蜜。」
「・・・え?あっ!」
慌てるタツミを横目に、エレナとヒロが視線を合わせて苦笑した。
王都アイデオス 王政庁 大議会堂-
ヴェスタ王を中心にコルトレイン宰相やアズマ近衛騎士団長を含め、王国の主要
閣僚達と領主達、約200名が一堂に会する大会議堂に、サイモン、カエラ、マキ、
カイト、エレナ、そしてヒロの到着が知らされた。
そして6人が大会議堂に入った瞬間、割れんばかりの拍手に包まれる。
先導してくれた近衛騎士の指示に従い、中央に6名全員が並ぶと司会進行役の
コルトレイン宰相が立ち上がり、口を開いた。
「では、ご静粛にお願い致します。これより聖クリシュナ王国、勇者・英雄特別辞令
式を執り行います。また此度の式典開催に於きまして、立会人として人神ホロ様の
従者、ヒロ殿をお招き致しております。」
再び熱狂的な拍手が会議堂内に湧き起こる。
「ではご静粛にお願い致します。式典に先立ち、ヴェスタ王陛下より綸言を頂戴した
く思います。」
コルトレインに紹介されてヴェスタが立ち上がった。
「先日、聖クリシュナ王国の勇者達三名より、偉大なる人神ホロ様のご支援によって
前人未到の熟練度に到達した、との報告を受けておる。5大種族を全て含めたとて
彼等に並ぶ者などもはやこの世に存在しないと言っても過言ではない。・・・彼等は
必ずや歴史に名を刻む偉大なる勇者、偉大なる英雄となろう。何よりもまずは、
この場を借りて聖クリシュナ王国を代表し、人神ホロ様に最大の感謝を示すと
共に、永久なる忠誠と専心の念を示す事をここに誓うものである。」
その場で跪いて頭を垂れる王を見て、中央議会200人全員が王と同様に跪き、
頭を垂れた。
他人事のように見ていたヒロは、むず痒くなって視線を逸らした。
「・・・と以上の点、ご了承の程宜しくお願い申し上げます。進捗状況と今後の展望に
関する報告は以上となります。では引き続きまして、聖クリシュナ王国中央議会
より、勇者3名、及び英雄2名に辞令を交付致します。まず最初に、聖クリシュナ
王国第二階位騎士、勇者ロス・サイモンー」
「はっ!」
「本日をもって、貴殿を第一階位騎士に叙任する。加えて、聖クリシュナ王国騎士団
総団長の任を命ず。着任は来月一日とする。速やかに王都への移住を済ませ、新しい
職責と任に備えて頂きたい。」
「はっ」
「聖クリシュナ王国第三階位騎士、勇者アマンダ・カエラー」
「はっ!」
「本日をもって、貴殿を第一階位騎士に叙任する。加えて、聖クリシュナ王国騎士団
ディオン駐屯部隊総司令官の任を命ず。着任は来月一日とする。速やかに後任となる
副指令の人選と引継ぎを行い、新しい職責と任に備えて頂きたい。」
「はっ!」
「聖クリシュナ王国第七階位騎士、英雄マキ・イナセー」
「はっ!」
「本日をもって、貴殿を第一階位騎士に叙任する。加えて、貴殿には新設される聖
クリシュナ王国近衛騎士団守護局局長の任を命ず。着任は来月一日とする。速やかに
王都への移住を済ませ、新しい職責と任に備えて頂きたい。尚、新設される局の詳細
と職責については、聖クリシュナ王国騎士団近衛部隊総隊長アズマ・シオンより
後程直接説明がある。」
「はっ!」
「聖クリシュナ王国下級従騎士、勇者カイトー」
「はっ!」
「本日をもって、貴殿の聖クリシュナ王国騎士団への正式入団を認め、第一階位騎士
に叙任する。加えて新設される聖クリシュナ王国騎士団ディオン駐屯部隊特務隊隊長
の任を命ず。英気を養い、新しい職責と任に備えて頂きたい。尚、新設される隊の
詳細と職責については聖クリシュナ王国騎士団ディオン駐屯部隊、次期総司令官
アマンダ・カエラより後程直接説明がある。」
「はっ!!」
「クリシュナ経済連合ディオン支部鑑定局上級主任、英雄エレナ女史ー」
「はい!」
「本日をもって、貴殿に聖クリシュナ王国における新たな上位貴族の姓、「マーヴェ
ル」と筆頭公爵の爵位を授与する。今後は我が国における13番目の上位貴族、
マーヴェル家のエレナ・マーヴェル女公爵として、聖王国に対し誠実かつ献身的な
働きを期待するものである。」
「はぃっ!?」
「人神ホロ様の従者、ヒロ殿-」
「ゥィース。」
「本日をもって、貴殿に聖クリシュナ王国における新たな上位貴-」
「あ、待った。」
大会議堂に集う人々の視線が一斉にヒロに向けられる。
「俺はホロの爺っちゃんから金も肩書も貰うなって言われてんだ。気持ちだけ貰っ
とくよー。」
「そ、そうなの・・・ですか。」
司会進行役のコルトレインが困惑したようにヴェスタ王に視線を向ける。
想定内だと言わんばかりに苦笑してヴェスタが立ち上がった。
「ではヒロ殿、この場を借りて少し実務的な話をしたく思うのだが、よろしい
か?」
「ん?はい。」
「我々は以前に賜ったホロ様からの神命に従い、勇者達と英雄達の熟練度上げの
支援に尽力し、王国内における重大討伐事案は全て彼等に対応させる事に決定し、
既に実行している。」
「うん。アザマス。」
「故にサイモンとの雇用契約から生じる其方への依頼案件は、同盟国や友好国などを含む諸外国における事案が主となろう。」
「はい。」
「その場合、いくら其方が空間転移や瞬間移動なる移動方法を会得しているとは
いえ、現地まで一つ飛びに、という訳にはいかなくなるのだよ。聖クリシュナ王国
の使者、または聖クリシュナ王国騎士団の使者として国境を越えるのであれば、他国
への礼儀として街や村、検問等の通過の手続きを逐一行いつつ現地に向かう必要が
ある。また派遣先に着けば、為政者や政府高官への謁見の手続きも必須となろう。
これらを速やかに行う為には、どうしても我が国における高位の「肩書」が必要に
なるのだ。どうか分かって欲しい。」
-あー・・・マジだりぃな。
「そこで尋ねたい。其方が欲する肩書はどれか。我が聖クリシュナ王国の名誉宰相
の座か、我が王国騎士団における名誉第一階位騎士の位か、王国経連の名誉総長の
役職か。其方はどれを望むだろうか。」
会議堂に沈黙が流れる。
「無論、私としてはその全てでも構わない。加えて新たな上級貴族としての家名と
筆頭公爵の爵位、及び領地も準備している。」
「あー・・・そういうのマジでいいっす。・・・えっと、んじゃー俺の肩書はブルク村
タツミ児童保護院職員で。」
「むむ?」
「いや、待たれよ、」
「それでは余りにも・・・」
「えっ・・・う、うーむ。」
「静粛に!」
コルトレインが騒めき出した堂内を一喝した。
「年末で保護院は閉まっちゃうけど、肩書が必要ってんなら当分はそれでいい
かな。・・・あ、じゃあ職員じゃなくて上級職員で。」
会議堂内に再び沈黙が流れる。
-最後にスベってもうたがな
ヒロが溜め息をついた。
「やっぱさ・・・全ての人間族を公平に扱うべき人神やその従者が、どこかの国の肩書
をぶら下げて動き回るって、あんまりよろしくないでしょ?勿論、俺にも生活がある
から、駐屯軍の依頼は請けるつもり。だけど、それを政治や外交の武器にはしないで
欲しいんだ。例え競合国や敵対国であったとしても・・・本当に困窮していて、真摯に
人神ホロの支援を要請してくるのなら、その時は無条件で請けて欲しい。」
「お待ち下さい、ヒロ殿・・・」
「確かに人間族の神、その従者殿ならばそうあって然るべき。とはいえ・・・」
「う、うーむ・・・」
「王様。うちの保護院の院長は・・・さ、」
ヒロが苦笑する。
「妬み嫉みで醜い争いを起こさない為なら、それを終わらせる為なら、どんな犠牲も厭わない人でさ。ほんといっつも損ばっかしてんだよ。でも・・・俺はそんなタツミが
素直にカッコいいって思うんだ。」
ヒロがヴェスタを見つめる。
ヴェスタ王は小さく溜め息をついた。
「言わんとしている事はよく分かる。確かに・・・タツミなる者は村人達との和を維持
する為、国からの恩賞を全て断るという聡く強き者・・・そして真面目な男であった。」
皆の視線がヴェスタに集まる。
「とはいえ、だ。彼の者が子供達を守って来たように私は国民を守らねばならん。
故に我が国民に害が及ばないという事が大前提となるが、私は分け隔てなくあらゆ
る国からの支援要請に応じる事をここに宣言する。」
「アザマッス!」
「王よ、どうかお待ち下さい!」
「私目にも発言の許可を!」
「慎重なご判断を!!」
異議あり!と言わんばかりに男達の声が大会議堂に響く。
「皆の者、聞くがよい。これ以上、ホロ様と従者殿の意に反して囲い込みを続けよう
とするのは愚策ぞ。確かにホロ様やヒロ殿を取り込めば・・・いや、取り込んだように
見せかけるだけでも多大の国益となろう。しかし同時にそれは、恐れ多くも五柱神
たる人神ホロ様の公正さに土を付ける行為に他ならぬ。そうした状態は必ずや他国
との軋轢を潜在化させる原因となる。その時、我々の目の前に立つ勇者達と英雄達
は、我等の俗的な欲とその結果を清算する為に、敵国の数多の人間を屠ろうと命を
かけて出征する事になろう。・・・その業と責を全て負える者にのみ、発言の機会を
与える。」
ヴェスタ王の言葉に一同が沈黙した。
「私は愚王として歴史に名を残そうとは思わぬ。そしてホロ様は無論、ホロ様より我
が国に遣わされた勇者達、英雄達の名も汚そうとも思わぬ。」
ヴェスタはヒロを見つめ、頷いた。
「タツミか・・・。また会いたいものだな。」
そしてヴェスタ王が視線を上げる。
「神の従者殿ヒロ、そして勇者カイト、英雄エレナを見事育て上げた偉大なる男に
最大の敬意を!」
ヴェスタ王が敬服の所作を見せると、それを見た200人が一斉に立ち上がった。
「最大の敬意を!」
王と共に敬服の所作をとった男達の声が響き渡った。
辞令式後- 王都アイデオス 王政庁 迎賓室
「あー・・・緊張したぁ・・・。」
「私も疲れた・・・。」
カイトとエレナがソファーに座り込んだ。
「いまいち分からんかったけど、サイモンさんがもらってた騎士団の総団長って
役職、あれって王国の騎士団で一番偉い人って事だよね!?」
ヒロがカイトの隣でソファーに崩れ落ちていたサイモンに尋ねた。
「そうだぞ!騎士団総団長とは、聖王国内の全ての騎士団、全ての部隊を纏めあげる
名実ともに頂点たる存在だ!」
なぜかカエラが誇らしげにヒロに答える。
「権力の一極集中の危険性を考えて、王国騎士団には今まで4人の統括団長という
最高責任者達がいたんだが、此度はその体制を変更し、その統括団長達を纏め上げ、
騎士団全てを監督する「総団長」という新設された最高位役職に就任されたのだ。」
「ほへー!んじゃあ、サイモンさん大出世じゃん!!」
「せっかくディオンでのんびり出来てたのによぉ・・・。まったくついてねー・・・。
はあぁぁぁ・・・。」
サイモンは地獄の底から響いて来るかの様な溜息をつき、ソファーからずり落ち
た。
「坊主。俺との雇用契約の内容を変更する。明日からは俺の代理としてカエラを
任命するからな。俺は王都に移っちまうし、忙しくなるから当分お前の相手は出来
ねえ。」
「へい!」
「カエラ、後は頼んだぞ。」
「はっ!」
「こいつらちゃんと見張っとけよ。放っとくと何をしでかすか分かったもんじゃねえ
からな。」
「了解致しました!」
「そっか・・・。総司令とマキ姉は王都に行っちゃうんですよね・・・。」
「寂しくなります。」
カイトとエレナが寂しそうな顔をする。
「でもヒロ君の加護のおかげで私達いつでも念話でお話し出来るし、一瞬で会いに
行く事も出来るじゃない!お互いに行ったり来たりしましょ!」
「・・・うん。絶対に会いに行く。・・・絶対。」
エレナがマキの腕にそっと腕を回して抱き締めた。
「まー、皆良い感じで昇進出来たし、これは俺からの昇進祝いって事で-」
ヒロが指を鳴らすと、一瞬で布に包まれた5人分の装備が空間転移で現れた。
突然の大きな包みの出現に全員が驚いた顔で荷を見つめる。
「これはね、勇者組が倒した天使達が使ってた聖装と聖器を基にして造った装備
なんだ。実は俺、人神になった時に抽出とか注入を利用した与奪錬金と与奪錬成っ
ていう派生能力を獲得しててさ。抽出物同士ならいくらでも合成とか強化、生成、
修正が出来るようになったんだよ。例えば、名前付き装備や武器なんかを合成して
強化したり、装備条件の縛りを変更する事だって出来ちゃう。古代神聖術の神力
錬金とか神力錬成と似てるんだけど、与奪錬金、与奪錬成の方が圧倒的に高性能。
不可能を可能にする錬金、錬成だからね。」
ヒロが各自の前に装備と武器を配って置いていく。
「待ってヒロ、さらっと言ったけど、・・・それって途轍もなく凄い事だよ!?」
エレナの表情が変わる。
「少なくとも・・・今までの装備や素材の常識とか概念を根底から覆してしまうわ。」
「でしょー。神様専用の超裏技って感じじゃね?俺もビックリだわ。」
「坊主、その古代神聖術って何だ?それを覚えれば坊主と同じような事が出来る
のか?」
「んー、古代神聖術ってのは聖属性魔法と光属性魔法の基になってる、上位版の法術
って感じかな。今のとこ、天族と古竜と・・・あとは・・・そうそう、人狼王の集落を守っ
てたなんか超クッソ強い集団、天狼衆とかいったっけ?その中の大巫女って呼ばれて
た白い人狼が持ってただけかなー。」
「希少価値たっけーなおい・・・。汎用性は皆無か。」
「天族とその系譜に連なる者だけが持てる祝福・・・といったところかしら?」
「んー、持ってた奴の共通点は創造神の加護を所有してたって事くらいかな。多分、
マルドゥクスの加護が何かしら関係してんだとは思うけど・・・。まあでも全部殺し
ちゃったから、よく分かんねーや。・・・って事で、とりあえずこの聖装1つ作るに、
だいたい200万着以上の聖装と400万個の装飾品を錬金合成して強化してる
んだ。武器も同じくらいの数の聖器を使って錬成強化してる。もしも他人の手に
渡ったら笑えない事になるから、所有刻印してから渡すねー。」
「に、200万着と400万個!?」
「おい、桁がおかしいだろ桁が。」
「はいいい!?」
「す・・・っご。」
「ちょっ!!あ、あんたね・・・」
「皆が倒した1200万体の天使、あいつら全員極上の聖装と聖器持っててさ、
しかもぶっ壊れ性能の装飾品とか山ほど付けてたんだよー。皆が倒しやすいように
範囲抽出で色々剥いでる時に、装備の山をどう処理するか考えててねー。これでも
まだ、武器も防具も装飾品も200万個づつくらい残ってるし。使い切れねえ。」
「ヒロ?その残りの数、全部経連に納品しようとしてるんじゃないでしょうね?」
エレナがプルプル震える。
「うん、明日持って行・・・え、いや・・・その、まあ・・・」
「いい!?もっと減らしなさいっっ!!その数、鑑定するだけでも何万年もかかる
から!!!前に言ったよね!?」
エレナが顔をギリギリまで近づけて殺意の籠った視線を向ける。
「はぃ・・・」
「どんだけ豪華装備だよ、これ・・・」
「坊主と話してるとたまに感覚がおかしくなっちまう。」
「そ、それで所有刻印というのは何なのだ?初めて聞いたんだが?」
カエラが驚きと興奮を抑え込みながら尋ねた。
「俺も気になってた。なんだその聞き馴染みのない刻印は?」
意外とサイモンの好奇心も擽っていたようだ。
「それも古代神聖術の技の一つ。奴隷刻印の対物版というか・・・契約者以外は装備
する事すら許さない神級の呪詛だね。契約者が装備に名前を付与して私有化するん
だ。で、この契約に立ち入る者は神呪・・・マルドゥクスの呪詛に色々食われたり吸わ
れたりで確実に秒で逝く。あとは・・・装備と契約者は刻印で繋がってるから、離れて
ても位置や状態を把握出来るし、一瞬で装備を丸ごと召喚する事も出来る。まあ、
一種の盗難防止機能ってやつだねー。」
「ほおー・・・!!」
「凄いじゃないか!」
「なら、この装備は取り扱いや保管に十分注意しないとダメって事だな。事故が起き
たら大変な事になる。」
「そうなりますね。」
「確かに。」
「でも・・・待って。」
エレナが人差し指を頬に添えて何かを考えだした。
「装備に名前を付与?・・・まさかそれって」
「お、気付いた?」
ヒロが笑う。
「え?なになに?エレナちゃん、どうしたの?」
「どうしたエレナ?」
「あのね・・・もしかしたら名前付き装備って、所有刻印の時の名付けが関係してるん
じゃないかなって思って・・・」
「あ!」
「なるほどぉ!」
「御名答。一般装備を所有刻印で私有化されると、俗にいう名前付き装備に変わる
んだよ。装備自体に祝福効果が付与されてたり、着用や使用に縛りがあったりする
のは、所有者の祝福や特徴が所有刻印によって装備側に焼き付けられた結果なんだ。
これは・・・装備者が刻印契約者本人である事を照合、確認する為の「割り印」みたい
なもんだね。割り印による契約者認定を通して、神呪は発動しなくなる。で、自分
の祝福と装備側に焼き付けた祝福で・・・祝福の多重発動が出来るし、効果も倍増され
る。これが名前付き装備が持つ本来の力、本来の価値なんだよ。そして所有者が死ぬ
と所有刻印は消滅するけど、割り印は焼き付いたまま次世代に引き継がれる。」
「それで新たな所有者が現れて、また所有刻印して、って繰り返されて来た訳ね。
・・・なるほど。」
「うん。所有刻印を繰り返せば繰り返す程、焼き付く祝福効果が増えていく反面、
契約者に関する特徴の焼き付けも増えるから「縛り」が厳しくなる。」
「納得だわ・・・。」
「ほー。」
「そういう事だったのか!」
「なんか世界の秘密を知ったって感じ・・・」
「すげーな!」
「だろー。んじゃ、サクっと始めよっか。」
「ま、待て坊主。装備に付ける名前は何でもいいのか?」
「人間族が所有刻印する時は、装備名称の冒頭部分はどうなるの?霊装?魔装や獣装
じゃないよね?人装とかあったっけ?」
「そういう決まりとか全然無いから好きに付けていいよー。なんなら「マキ装」に
してもいいし、そういう修飾語を省いて名前だけでもかまわない。完全に自由。」
「そうなんだ。」
「分かった。」
「待って、名前を考える時間をちょうだい!せっかくだし可愛いのにしたいから!
えっとぉ・・・」
「えー、何にしよう?」
「はい、5分待ちます!」
「・・・じゃ始めるよー。みんなに渡した武器と装備一式を自分の前に置いて。で、
そのまま動かないでねー。」
ヒロが胸の前で両の掌を勢いよく合わせると、武器や装備の上に光の紋様が浮か
び上がった。
「その浮かび上がってる紋様に触れながら、声に出さなくてもいいから名前を呼んで
あげて。」
各自が恐る恐る光の紋様に触れていくと、指先にピりッとした痛みが走り、次々
に装備に小さな深紅の刻印が刻まれては消えていく。
「これで所有刻印は完了。最初ちょっと指先に衝撃があったかもだけど、契約に必要
な血が少し抜き取られただけだから気にしないで。」
「ほ、・・・ほう!!私有化すると手触りから何から全てしっくり来るな!不思議
だ!」
「それは所有刻印の「装備共鳴」と「変容共振」の効果だね。装備者の体型や
体格、体調にも馴染むようなってる。」
「ほ、ほおお・・・!!それでこの装備と武器は・・・性能的にどれくらいの物なんだ
ろうか!?」
「よくぞ聞いてくれました!装備の方には、心身強化、祝福能力強化、耐性免疫
強化、成長開発強化、特殊強化の5分野で、計50種類の祝福の臨界効果を付与
してる。武器には効果増幅系と威力増幅系の特殊強化を中心に、50種類の祝福
の臨界効果を付与してる。」
「え?」
「まず付与数がおかしいだろ。」
「・・・あれ?臨界って加護もらった時に聞いたけど、最上級の上だったよな?」
「う、うん。」
カイトとエレナが目を丸くしてヒロを見た。
「そそ。臨界は最上級に到達後、限界を突破して成長を続けている段階ね。皆の
装備に比べたら、俺が天族の神のアブルから奪った神装とか神器なんかゴミ以下
だから。」
「こ、壊れたりしないの?」
「壊れないねー。五柱神でもその装備を壊すのは手こずる。間違いなくアブル程度
じゃ無理だね。それにほぼ無限の自己修復能力までついてるから、万が一の時でも
大丈夫だし、整備とかも一切不要。聖属性の浄化能力も付けてるから掃除や手入れ
とかも必要無し。まー、後で着てみて。どれだけ凄いかすぐに分かるはず。」
「神装や神器がゴミ・・・なのか。」
「めちゃくちゃじゃねーか。」
「神々でも壊せない装備って・・・ちょっと想像つかねーよ・・・」
「ウフフ・・・。」
「凄すぎじゃない?」
「まあなー。でも造るのマジで大変だったんだぜ?回復が追い付かんくらいに、
根こそぎ神力持ってかれたし・・・。」
「素敵!」
「もう至れり尽くせりだな・・・。」
「一生もんの装備だ!」
「でさ、実は武器にとっておきの隠し玉を仕込んでんだよ。・・・聞いて驚け!
なんと!!・・・実は、究極昇華した「神罰」の権能を注入してるのです!」
「究極昇華って・・・臨界の上の段階!?」
「け、権能って祝福の最終昇華形態とか言ってなかったかぁ!?」
「おい、小僧・・・さすがに限度ってもんがあんだろが・・・」
目を丸くするカエラとエレナの隣でサイモンが頭を抱えた。
「究極昇華は神々しか到達し得ない祝福や派生能力の最終形態だね。同時に祝福
から「権能」に名称が変わる。」
場が静まり返る。
「神罰ってどんな効果なの!?」
マキが恐る恐る尋ねる。
「わっ!・・・これ、すごい・・・かも。」
瞬時に鑑定したエレナが目を見開いた。
「はっきりとは見えないんだけど、・・・・・・神罰大裁・・・生者死者・・・必真滅至。
えっと、・・・神罰による大いなる裁き・・・生ける者も死せる者も・・・必ず真の滅び
へと至らん・・・これって必中必殺の攻撃という意味よね!?」
「おー、正解!さすが経連支部鑑定局の筆頭主任。読み取れる部分からの推測が
完璧だわ。」
「毎日やってますから。」
エレナが照れ隠しに小さく咳払いをした。
「神罰は天族しか持つ事が許されていない特別な派生能力でね、効果は即滅攻撃。
相手を感知して使用すれば必ず攻撃は当たるし、相手が誰でも一発で消滅させる
禁忌の技。勿論、第7類強種の最上位種でもイチコロ。俺も天族のアブルに使われ
そうになって寒気がしたもん。」
ヒロが笑う。
「使用に際して生命力の消費は無し。ただし連発は出来ないから注意ね。一度使うと
数時間は使えなかったはず。使うにあたって難しい事は何も無いと思うけど、威力が
威力だし心配だったら俺が練習台になるよ。神罰は神には効かないんだ。俺になら
気にせずどんどん撃ってきてもろて。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
-さすがに戸惑うか・・・。
場の空気を読んだヒロが苦笑する。
「あー・・・なんなら丁度良いし、今から試着だけでもしとく?エレナとマキさんも
だけど、特に熟練度が7桁になった3人がこの装備を装着するとどうなるか、検証
もしておきたいし。すぐ済むよ。」
ヒロが神眼と神慮を発動させる。
「武器は・・・サイモンさんは長槍、カエラさんは拳鍔、カイトは長剣、マキさんは
錫杖、エレナは鑑定作業の邪魔にならないように指輪の形状の拳鍔にしといた。
・・・じゃあ全員、防具と武器を装備してみて。」
「え、私、防具とか着た事ないんだけど・・・これって服の上から着ればいいの?」
「うん。エレナとマキさんは法衣形式の防具なんだ。服の上からでもいいから羽織
ってみて。すると、「装備共鳴」と「変容共振」の効果が完全に発動する。・・・で、
正面と両腰、両袖の12ヶ所にある留め具を全部留めていく。・・・はい。で首元、
肩、腰回りにある9カ所の締め具でそれぞれキツさを微調整。で、腰紐を絞めて
留める。最後に首元と胸部、肩にある10ヶ所の釦を全部留めていって・・・はい、
完成!」
「なるほど・・・。うわ!!」
「・・・こうね。いいっ!?」
エレナとマキは装備を身に着けながら、更なる力の漲りと絶対的な安定感を感じ
て思わず言葉を失った。
「エレナ、その状態で武器を指に填めて、もう一回武器に付与してる「神罰」の効果
を鑑定してみ?」
「・・・全部読める!!全部見えるわ!!」
「装備の効果で鑑定が昇華して「天眼」の権能になってるからね。」
「す・・・凄い!!世界が見違えちゃう・・・!!」
「わ!私、無限に結界張れちゃうんですけど!え!つっよ・・・!?・・・えっ嘘、何よ
これ・・・!!」
「マ、マジかよっっ!?俺、相手が神でも殺れそうな気がするんだが!?」
「こ、これはっ・・・!!それに新しい称号まで!?」
「・・・おい、もう滅茶苦茶だ滅茶苦茶。」
「おー・・・いいね!カエラさんは「闘神」、カイトは「剣神」、サイモンさんは「槍神」の称号かー。・・・称号に「神」が付くのは、神か、何かの分野が神の領域に届い
てる者だけなんだよね。つまりそういう事。この種の称号の効果はマジで半端ない
んだけど、防具を外したり武器を外すとすぐに消えちゃうから、戦闘中は気を付け
てね。とりあえずこれで全員権能2つ持ちだ。」
「うっはあぁぁ、これ嘘だろっ。」
「す、す、すごいじゃないかっ!!」
「あー、驚くのに疲れた。」
「勇者組の3人は完全体の天使400万体でも余裕で瞬殺出来るね・・・。」
ヒロが満足気に頷いた。
「エレナとマキさんも技能職として完成してるし、戦闘支援職としても申し分ない。
ただ、熟練度の関係で新しい称号の獲得ってとこまでは届いてないか。・・・まあ
でも、熟練度の成長促進も加護と装備で爆上げしてるから、神の字が付いた新称号
の獲得まで1年ちょいってとこかな。てか、いずれ俺が一気に爆上げさせるけど。」
カエラは今まで装備していた自分の防具をそっと撫でた。
「カエラさんが使ってた獣装ガルディアと、頑張って神器級の武器にまで育てた黒牙
拳幻と黒牙脚幻・・・これ、カエラさんの眷属のベルフも装備条件を完全に満たしてる
んだよね。この装備、全部あの子に引き継ぐといいかも。」
「そうなのか!!」
「うん。カエラさんとベルフで凸ったら・・・マジで神でも殺れんじゃね?」
ヒロが笑った。
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